セシルVS魔術師

すみません、執筆業務に追われて更新が遅れてしまいます!

楽しみにされていた方は申し訳ございません🙇💦


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「まったく、昨日の今日でよくもまぁ騒ぎを起こせるものね」


 訓練場の端で、イリヤは呆れ交じりのため息を吐いた。

 地面には造形の美しいステンドグラス。視線の先には、つい最近知り合った白髪の少年と、顔見知りですらない黒髪の少年。

 その二人が、生徒がいるにもかかわらず訓練場で戦闘を始めていた。


「仕方ありませんよ。彼は好戦的な魔術師のようですし、セシル様がサーシャ様のことを守ろうと考えているのであれば、どこかで衝突してしまうはずです」

「結局は遅かれ早かれということですよね」

「ふふっ、そういうことです」


 イリヤの横で、抗戦するセシルを楽しそうに見るソフィア。

 そんな主人の姿を見て、ふと疑問に思う。


「随分、セシルを買っていますね。もしかして……派閥に組み込むつもりですか?」

「さぁ、どうでしょう? それもまた面白いとは思いますが、個人的にはが大きいかもしれません」

「…………」

「いいではありませんか、イリヤもセシル様を買っているのでしょう?」

「まぁ、そうですけど」


 その反応を見て、ソフィアはイリヤに背中を向けた。


「では、早いうちにアリス様とサーシャ様のところに向かいましょう。イリヤが傍にいるだけで、セシル様は幾分か心持ちが軽くなるでしょうから」


 ♦♦♦


「つまんねェ……つまんねェぞおいッ!!!」


 アルバートが大槌を振るいながら、迫りくる馬車を破壊していく。

 ガラスの砕ける音。加えて、何か溶けるような不快音までもが訓練場に響き渡る。

 訓練場にいた生徒達は、セシルがステンドグラスを広げた瞬間に離れていってしまった。だからってわけではないだろう、アルバートは周囲を気にする様子もなく力いっぱいに大槌を叩き込み動き回っていた。


(パワー系の魔術師か? いや、それだけじゃねぇな)


 避難した生徒のざわつきと騒ぎを聞きながら、セシルは距離を取って地面から馬車を出現させる。


(砕けた馬車が溶けてんな……腐敗? 汚染? どちらにせよ、触れたらそれはそれで面倒臭いことになりそうだ)


 破壊された馬車は地面に転がっている。

 大槌で破壊されただけであれば、綺麗な断面が覗ける破片になっているはずだ。

 しかし、現にあるのは変色した歪な塊。つまりは、セシルの予想した通り腐敗か汚染のどれかだろう。


 触れてしまえばどうなるのか? 見ることに抵抗しそうな奇怪のオブジェクトになりそうだなと、セシルは顔色一つ変えず思う。


「男ならちまちま逃げてねェで堂々と戦ったらどうなんだ、あァ!?」


 中々距離を縮めさせてくれないアルバートが、痺れを切らしたかのように叫ぶ。


「誰が好き好んでお前の土俵に上がるかよ。ガキらしい我儘が通るのは十歳までだぞ」

「てめェッ!!!」


 アルバートの頭に青筋が浮かぶ。

 だが、セシルは一向にスタンスを変えない。


「だから……いっぺん頭でも冷やしてこい」


 小さく指を鳴らす。

 すると、訓練場を覆っていたステンドグラスが一斉にヒビ割れる。しかし、以前のように砕けて底見えぬ穴が生まれたわけではない。

 その代わりに、そのヒビ割れた場所から大量のが湧き出てきた。


「はァ!?」

「さっさと高いところに逃げろよ? こっちは浮き輪も板ももってねぇんだ……そのままじゃ溺れちまうぜ?」


 セシルは自分の足元を隆起させ高くへと陣取る。

 溢れ出した水はあっという間に訓練場を飲み込んでいき、その勢いは増していく。訓練場まで広がったステンドグラスはドーム状へと変形し、水とアルバートを逃すまいと囲み始めた。


(あァ!? こいつはこの規模で戦う魔術師だったのかよ!?)


 水の流れに負けじと大槌を地面に突き刺すアルバートは内心で驚く。

 魔術師の事象に影響を与える魔術は、様々な要因が重なって強弱が決まる。空間一つを意図も簡単に支配してしまう―――それは、魔術師の中でも強者と呼んでもおかしくないレベルだった。


「だからって、それが強さの証明ってわけじャねェだろうがよォ!」


 アルバートは水嵩がこれ以上増す前にセシルに向かって走り出した。

 狙うは隆起したステンドグラス。

 思い切り振るった大槌は目論見通りステンドグラスを砕き、その上で高みの見物をしていたセシルを地面に落とすことに成功した。


 同じ土俵に落としてしまえばこちらのもの。

 まさか落とされるとは想定していなかったのか、落下しているセシルの顔は驚きが浮かんでいた。


「これでお終いだなァ、雑魚がッッッ!!!」


 そして、なんの躊躇もなくセシル目掛けて大槌を振るう。

 身を捩り、回避しようとしたセシルは軌道から少しそれることはできた。

 でも、二メートルを超える射程から逃れることはできず、そのまま右半身へ大槌が吸い込まれていく。


 その時だった。


 パリン、と。

 セシルの体が砕けたのは。


「…………あ?」


 理解ができなかった。

 加減をしていない大槌が触れれば、腐蝕の要領で溶け、そのまま鈍い音が響くはずなのに。

 何故、砕けた?

 何故、砕けてもなお


「あー、勘違いしているところ悪いが」


 そして—――


「なんじゃそ―――がッ!?」


 アルバートの体が、大きく吹き飛ばされてしまった。

 右半身に強烈な痛みを与えて。


「別に俺の魔術は?」

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