男はつらいぜ☆思春期召喚者の恋愛事情~告白とは周囲に弄られ成就するものなり

ショーイチ

第1話男はつらいぜ☆思春期召喚者の恋愛事情~告白とは周囲に弄られ成就するものなり




 ◆異世界・スラヴ王国カンデュラ領



 女神テラリューム系カンデュラ教会前にて。


 早朝より教会前の広場にて、一人の勇者と三人の聖女、それに一人の無能力者が剣技と魔法の特訓を終え休憩していた。


 彼らは〈召喚無能力者.西城祐樹サイジョウヒロキ〉〈召喚聖女.松本朱里マツモトアカリ〉〈現地勇者.ユーシス・リースティン〉〈現地聖女.アリサ・リースティン〉。


 共に旅をする仲間であり、現在は訳あってここカンデュラの地に滞在している。


 そしてもう一人最年長の〈ミルーシャ・リースティン〉。彼女はここカンデュラ教会のシスターであり現地生まれの美しき聖女でもある。




「ミルーシャさん、良ければストライバー絶対防御魔法応用のコツとかあれば教えて欲しいのですが…」


「あ、それ私も知りたいかも!」



 現地聖女アリサと召喚聖女朱里は、先輩現地聖女ミルーシャのストライバー絶対防御魔法の応用方法に興味津々だ。


 特にアリサの場合、悪意のある召喚勇者対策のためにも是非とも知っておきたいらしい。


 ミルーシャはもちろんオーケーし、三人はそのまま朝練続行となった。




 *




「さて俺達はどうしよう?」



 一方、現地勇者.ユーシスと召喚無能力者.祐樹ヒロキは完全にやる事が無くなった。



「ユーシス、悪いがちょっと付き合ってくれねーか?話があるんだ」


「なんだよ、改まって……ここじゃダメなのか?」


「すまん、朱里アカリの事でちょっとな……」



 祐樹は朱里の方を見て小さく切なそうに溜息をついた。



 西城祐樹サイジョウユウキ松本朱里マツモトアカリは【アース世界日本】からの召喚者であり、昨年四月すなわち高校に入学してすぐクラス転移に巻き込まれ、ここ【ティラム世界】に飛ばされてきた。


 祐樹と朱里は、元々は兄妹のように仲の良い幼馴染だった。二人は転移・召喚後に自分の気持ちが抑えられない程に膨らみ、相思相愛の仲になるまであと一歩の段階である。


 しかし祐樹は、その一歩がなかなか踏み出せないでいた。


 ユーシスは、そんな祐樹をかつての自分と重ねながら応援していた。



「ああ、いいぜ。おまえもいい加減決めないとな」



 ユーシスはニヤリと笑みを浮かべ、祐樹の後を付いて行った。




 この物語は、惚れた女に対していつまでもウジウジしていた異世界召喚者・西城祐樹君が、一大決心をして意中のヒトである召喚聖女.松本朱里マツモトアカリに対し、愛の告白を挑もうとする――どちらかと言うと男性視点の斜め上方向な異世界恋愛劇?である。




 *




 歩きながら―



「なあ、お前らが告白した時ってどんな感じだったんだ?」



 ユーシスと現地聖女アリサも恋人同士だ。彼らは幼馴染の関係から男女の仲へと見事昇格している。


 だが、そこに至るまでは実に大変だったようだ。



「え、俺達?

 …… …

 告白したのはアリサからで……

 …… …

 ……最高気分のすぐ直後に……最悪と最低が襲ってきた……」



 ユーシスの脳裏に悪しき思い出がフラッシュバックして、瞳から光が失せて遠い目をしたまま固まった。



「おい、大丈夫か?何があったんだ?」



 ユーシスは、アリサからの告白直後にとんでもない事件に巻き込まれていた。


 その日アリサはテラリューム系教会にて、15歳の誕生日に必ず受ける〈成人の儀〉を受けたところ、不幸にも〈聖女の祝福〉が降りてしまった。


 新たな聖女の誕生に、教会従事者たちは目の色を変えて……それこそ麻酔薬まで使ってアリサを確保・監禁しようとしたが、アリサはどうにか脱出してユーシスの待つ自宅へと逃げ帰った。


 そこでアリサは愛するユーシスに告白して気持ちを伝え、二人は住み慣れた王都から脱出することを決意した。


 しかし、新たな聖女誕生の情報は、即座に召喚勇者の耳に入り、脱出直前アリサは召喚勇者.加藤弾カトウダンの魅了魔法に絡みとられてしまい、ユーシスを冷酷に裏切ってしまったのだ。


 またアリサを守ろうとしたユーシスも、加藤弾の凶刃を受け、両足を切断されるという大怪我を負ってしまったのである。(現在は聖女の回復魔法にて完全完治)


 その後、ユーシスはアリサを奪還し、またユーシス自身も勇者であることが発覚して、二人は逃亡の旅を始め今に至っている。




「おまえら、よくそれで結ばれたな……でも悪い。何の参考にもならんわ」


「だよな……」



 想像以上の修羅場に祐樹は驚きはしたが、斜め上の展開過ぎてユーシスの体験談は役に立たなかった。



「ふぅ……」



 深い溜息の祐樹。



「実は、告白するのはもう少し遅らそうかと思うんだ」


「なんで?朱里はもういつでも告白OKの待機状態じゃねーか」


「本当にそうか?俺の独り相撲じゃないかな?朱里は俺の事を兄妹みたいにしか思っていないとか……」


「いやいやいや、今更それ言うか?むしろこれ以上待たす方が可哀想だろ」


「いっそ告白するのは元の世界に戻ってからでも……」


「そんな事言っていたら、そのうち他の男に寝取られるぞ?」


「朱里は可愛いとは思うけど、他の男に声を掛けられる程じゃないだろ。それに朱里は簡単に他の男にふら付くような女じゃない!」


「いやいや、朱里めちゃめちゃ可愛いから。それとな、おまえは女って生物を分っていない。あのアリサでさえ流されかけて、他の男に寝取られそうになった事があるんだからな?」


「アリサが?うそだろ!?」



 ユーシスの衝撃発言に目を見開いて驚く祐樹。



「本当だって。というかお前も会った事がある奴なんだが」


「なに?」



 祐樹は頭の中の記憶を探る。



「アイツか!俺の冒険者実技試験をほっぽって逃げ出した試験官!たしかネット―リとか言う名の……」


「そう、ソイツだ」


「あんなショボイ男にアリサがなぁ……」



 冒険者実技試験直前に、寝取り未遂事件が発覚してユーシスに追いかけまわされた試験官、剣士ネット―リを思い出した祐樹。


 そして改めて有り得ないような現実に驚いた。



「女ってのはな、失恋すると大幅に判断力が鈍るんだよ。幸いアリサはお持ち帰りされる寸前で我に返ったらしいが、それでもかなりヤバかったらしい。それに聞いた話だと失恋した女ってのは自分自身を壊そうとして、見ず知らずの男に身体を預けたりすることもあるらしいぜ。寝取りのプロはそういう女を敏感に嗅ぎ付けて言葉巧みに寝取るのさ」



 かつて、友人の剣士ヤンマと魔術師マランパから聞いた話を得意げに話すユーシス。


 しかし祐樹は首を傾げながらツッコミを入れた。



「なぁ、今の話だとおまえがアリサを振ったか裏切ったように聞こえるんだが…?」


「ゴホッゴホッ……俺達にも色々あったんだよ……」



 ブーメランがユーシスに突き刺さる。


 ユーシスは旅の途中で遭遇した【召喚女勇者クローディア】との件を思い出し、またしても遠い目をした。


 ある時、勇者であるユーシスは、無意識のうちに召喚女勇者のクローディアと魅了魔法を掛け合ってしまい、その影響のせいで憎悪の対象となったアリサを冷酷にフッたことがある。


 ちなみに原因の大元は全てユーシスにあって、もちろんユーシスが全て悪い。




「つまりこういう事だ。

〈祐樹が告白しない〉→〈朱里はフラれたと思い傷心に浸り自暴自棄になる〉→〈どこぞの寝取り男に目を付けられ餌食にされる〉→〈そのまま騙されて娼館送りか性奴隷に堕ちる〉

 祐樹よ、おまえはそれでいいのか?」


「流石にそれは想像の飛躍だろう?」


「ここはティラム世界、おまえ達の常識は通用しないんだぜ?」


「む……」


「いいのか?朱里が他の男にいいように汚されても」


「むむむ……」



 ハッキリ言ってユーシスは楽しんでいた。


 かつて自分がアリサの件で、先輩勇者ヨシュアと先輩聖女カーシャに面白おかしく遊ばれた時のように、今度は自分が楽しむ番だとばかりにユーシスは祐樹の不安を煽りに煽る!



「おまえの言う通りだ。朱里が他の男に汚されるなんて考えたくもない!」


「なら今すぐ告白だな、決定♪」



 ユーシスは祐樹の背中を押して朱里の元へ行こうとする。


 しかし祐樹は全力で抵抗。



「いや、それが駄目なんだ……」


「おまえ何をウジウジと……駄目ってなんでだよ?」


「自分より強い女に告白するって男としてどうよ……」



 祐樹の重い一言で、一瞬にして微妙な空気が場を支配する。


 召喚聖女.松本朱里マツモトアカリ


 現時点において、聖女となった朱里は無能力剣士.西城祐樹サイジョウヒロキを剣技・体術ともに上回っていた。


 祐樹はそれがコンプレックスとなり自ら壁を作ってしまっているのだ。



「あー……だから告白を送らせたかったのか」


「な、おまえなら分るだろ?おまえよりアリサの方が強えーし」


「うぐぐぐ……」



 ユーシスもまた自分がアリサより弱い事がコンプレックスとなり、日々悩んでいた。



「せめて朱里の横に並べるくらい強くなってから告白したいなと……」


「その気持ち、凄くわかるぜ」



 自分のコンプレックスを祐樹に突かれ、ユーシスも苦い顔をした。


 しかしユーシスは切り返す!



「だが、そこは大丈夫だろう」


「なぜ言い切れるんだ?」


「だって、朱里は確かに強くはなったけど、実戦は多分おまえの方が強いぜ? あの子は優しすぎて実戦じゃ色々とブレーキがかかっているはずだ。元々は争いごとには向かない優しい性格なんだろう。違うか?」


「まあ確かに……」



 祐樹ははたと考えた。


 たしかに朱里は聖女となったことで自力が大幅に底上げされた。


 しかしパワー全開で敵を打つなんてことは、朱里の性格的にそうそう出来無いはず。



「な?だからいざという時に朱里を守るのはお前の役目なんだよ」


「そっか、そうだよな、朱里を守るのは俺の役目だよな!よーし!」


「いくか、告白!」



 再び祐樹の背中を押すユーシスだが――



「待って……やっぱりちょっと怖い」


「どこまでもヘタレかっ!」



 ユーシスは煮え切らない祐樹の態度に辟易しながら歩いていくと、祐樹はとある溜池の前で足を止めた。



「で、なんでここに?」


「いやぁ、俺もおまえ達にあやかって、月夜の湖で朱里と初チューしたいなーって……この場所はどうかな?」


「……… いや、ここ農業用の溜池だろ?」



 ユーシスは、とある大きくて美しい湖の畔で、天空の月と湖面に写し出された月を背景にして、アリサと初めてキスを交わした。


 しかもその流れで二人はあれやこれやと一気に関係を深めたのだ。


 そんな特別な一幕であり、祐樹はそれをあやかってシチュエーションを合わせたらしい。


 しかし……



「ダメか?」


「ダメとは言わんけど……」



 ユーシスは改めて溜池を見た。


 大きさは学校のプールくらいの広さ。


 強固な赤い固土で作られているせいかせいか、一見すると水の色が血で染まった赤色に見え、不気味な事この上ない。


 農業用の溜池としては優れた作りだが、ここで告白すれば朱里はトラウマを抱えそうだ。



「うーん……」



 しかし夜だから水の色はわからないハズ。ならここでも案外有りか?


 ユーシスはなんとかこの溜池の良さは無いかと真剣に思案してみたがダメだった。


 いくら祐樹をおちょくって楽しみたいからと言っても、本当に朱里にフラれてしまってはシャレにならない。



「ここはやめとけ。マジでフラれるかもしれん……」



 ユーシスは祐樹の両肩を掴み、真面目な顔でノーを突き付けた。



「そうか、ダメか……」



 自信をもって告白と初キッスの場所に選んだ祐樹だったが、ユーシスから駄目だしを食らい本気で凹んだ。





「そうそう、こんなところで告白なんてマジあり得ないから」


「血の池地獄みたいなところで告白とか……100年の想いも一気に冷めるわ」



 突然女性に声をかけられ驚くユーシスと祐樹。


 そして何もない空間がパックリと裂け、中から侮蔑の目をした桜木瑠香サクラギルカ多岐川陽子タキガワヨウコが釣り竿担いで現れた。



 *




 桜木瑠香サクラギルカ多岐川陽子タキガワヨウコ、この二人は【リアース世界日本】と呼ばれる異世界から強制召喚されてきた。


 年齢は共に16歳で、朱里と同様にセミロングの黒髪が映える美少女達だ。


 しかもこの二人、召喚のさいに異世界の女神ラミアより、【殲滅女子】という名の祝福ギフトを受けており、その能力は創造神と同種のものという超絶チート能力者だ。


 もちろんユーシス達の味方であり親友でもある。


 それにしてもこの二人、釣竿片手にオッサンぽいズボン姿の容姿。察するに、どうやらこの溜池でヘラブナ釣りをするつもりだったようだ。



 それは兎に角、突然現れた二人に対し、怪しい者を見る目のユーシス。



「おまえら、いつからそこに……」


「告白を遅らそうとか言っていたあたりくらいかな?」

「たぶんそれくらい」


「え、じゃあずっと前から付けてきたのかよ!」

「ストーカー行為か!」


「人聞きの悪い、目的地が一緒だっただけよ!」

「そうそう、ウチらの前をたまたま君らが歩いていただけ」


「嘘つけ!」

「全く気配を感じさせなかったんだが?」


「だって面白そ……じゃなくて真剣な話に水を差したくなかったしぃ」

「笑いそうになるのを必死で抑え……じゃない、男の子も苦労してるんだなぁ…とシミジミ」


「うわああああああああああああああああああああああああああああああああ!」

「ひ、祐樹!」



 突然祐樹か絶叫し、顔を真赤にして逃げ出そうとした。


 しかし瑠香と陽子がガッシリ捕まえ逃がさない。



「落ち着いて、私達は味方だから!」

「朱里に告白して成功したいんでしょう?力になってあげるから!」



 味方とか力になるとか言われて祐樹はチラリと瑠香と陽子の顔を見る。


 面白い玩具を見つけて喜んでいるようにしか見えないニヤニヤ顔がそこにあった。



「絶対嘘だ!ユーシス、見てないで早く助けろ!」



 しかしユーシスはここで少々考える。



「いや、ここは彼女達の意見を仰ごう」



「お、さすが勇者さま!」

「話が分かる人って好きよ!」


「正気か?こいつら絶対遊んでいるだけだぞ!?」

「たしかにこいつらは遊んでいるだけかもしれん。しかし一応は女だ。だったら女がどんな告白をされたら喜ぶのかを知っているはずだ」



 祐樹もそう言われて少し考える。



「……本当にアテにして大丈夫なのか?」


「もちろんもちろん!」

「確実に朱里の心を射止める方法を考えて差し上げますわ!」



 ブンブンと首を大きく縦に振る二人。



「じゃあ少しだけ……俺らくらいの年齢(16~17歳)の女子はさ、どんなシチュエーションで告白されるのを望む?」


「夜の観覧車に乗って一番高い所に昇ったとき」

「学校の体育館裏で壁ドンされながらとか」


「観覧車も学校の体育館も、この世界ティラム世界にはねーよ!ユーシス駄目だ、こいつらやっぱり使えねーぞ」


「待って、そもそもシチュエーションにこだわる必要なんてないのよ」

「そうそう、こういう不気味な溜池とかは別として、自分の本気の想いを伝えればそれで大丈夫だから」



 瑠香と陽子はもっともらしい事を口にする。


 そしてそれは本心ではあるが嘘でもある。


 どうせ告白されるのなら、素敵なシチュエーションで心に残る感動的なセリフでトロトロにされたい――というのが彼女達の本音であり理想だ。



「私達の見たところ、二人はすでに相思相愛の仲じゃない。だったらどんな告白だってOKして貰えるでしょ」

「そうそう。どうせどんな場所でコクっても、お互い相手以外は見えなくなるんだから」


「なるほど、彼女達の言っている事はその通りで間違いない。俺も湖で初めてキスした時はアリサ以外何も見えなかったな」


「ユーシス、その話あとでくわしく! で、結論から言うと大切なのは場所じゃなくて熱意なの」

「熱い想いをぶつければ、それだけで朱里はトロトロになるから」



 熱弁を振るう瑠香と陽子に、祐樹はだんだん傾いていった。


 なおこの手は、告白相手が有る程度自分の事を好いているから成り立つ手法であって、そうでない場合は余程のイケメンでない限り不可能だ。


 熱意だけでは確実にドン引きされるし、なんなら不審者扱いされて通報される。



「そうか熱意か…今まで俺どうかしてた。ビクビクするなんて俺らしくもねーよな」


「そうそう、それに今回の告白は拒否される事のない楽勝の案件なんでしょ?」

「ドーンと自分の気持ちをぶつけるだけで、恋の成就が確約されているなんて羨ましいわ」


「よし、今から告白してくるぜ!」

「その意気だ。応援するぜ!」



 踵を返し走り去ろうとする祐樹とユーシス。


 しかし二人の後ろ襟首を捕まえて、無理やり止める瑠香と陽子。



「ぐえ!」

「ぐ、一体何を!?」


「あんたらバカ?バカなの?」

「いくら熱意を伝えればオッケーって言っても練習も無しに突撃するとか頭平気?」



 やれやれ、と小ばかにするように頭を左右に振る瑠香、コメカミを人差指でグリグリする陽子。



「熱意に練習とかいらないだろう」



 口を尖らせながら祐樹は反論するが――



「本当にそう?ちょっと想像してみなさいよ。今のノリで灯里の前に飛び出ても、いざ想いを伝えようとした時に頭の中が真っ白になって何も言えなくなるんじゃない?」


「そうそう、それでとりあえず『今日は良い天気だね~。それじゃ!』とか言っちゃったりして誤魔化して逃げるのがオチよ」



 あまりにもリアルな想像に祐樹は黙り込む。



「なるほど、祐樹は俺と違って恋愛にはヘタレだしな。恐らくそうなるだろう」



 ユーシスは腕を組みながら妙に真面目な顔でウンウンと頷く。


 ちなみにユーシスも恋愛に関しては、祐樹同様かなりヘタレな部類である。



「俺ってそんなにヘタレか?」


「ヘタレほどヘタレな自分を認めたくないものよ」


「ぐぬぬ…」



 またしても祐樹は反論するが瑠香にバッサリ切られる。



「だからね、告白の練習は絶対に必要なの」

「朱里だってさ、祐樹の告白が何回も必死で練習したものとか後で知ったら、感激のあまり心がトロットロにとろける事間違い無しよ!」


「朱里がトロトロに…おいユーシス、アリサもトロトロになったのか?」


「俺の場合は練習もしたけど、結局アリサの方から告白してきたからなぁ……あ、でも初めてのキスの後はお互いにトロトロだったぞ」


「そうか、トロトロか……」



 またしても祐樹は少し考えたのち“デヘ“と気持ち悪くデレた。



「しゃーねーな、おまえ達の顔をたてて練習とやらをしてやんよ」



 祐樹の言質を取り、瑠香と陽子は悪い顔でニヤリとほほ笑んだ。



「じゃあユーシスを朱里と思って告白してみて」


「いや、なんで俺なんだよ。女の瑠香か陽子が相手するべきだろう」

「ユーシスを朱里の代役にするとか無茶ぶりがすぎんぞ」



 露骨に嫌がるユーシスと祐樹。


 瑠香と陽子は、またしても分かっていないと言わんばかりに頭を左右にふる。



「あのね、練習とは言えど告白の相手が他の女ってのはマズイでしょう?」

「それ知ったら朱里絶対に悲しむからね。それでもいいの?」


「朱里を悲しませるのは……やだな……」

「そ、そういうことか。わかった……祐樹、さあ来い!」



 祐樹とユーシスは開き直りお互い向かい合った。


 瑠香と陽子は待ってましたとばかりにモバイルフォン(リアース世界のスマートフォン)の録画をスタートさせた。


 祐樹はユーシスの両肩を掴み視線を合わせる。



「ずっと前から好きだったんだ、俺と付き合ってくれ!」

「うれしい……私も祐樹の事が好きよ。愛してるわ!」


「………」

「………」


「やっとられんわ、サブイボがたったぜ!」

「そりゃコッチのセリフだ、トラウマになるわ!」



 二人は正体不明の嫌悪感に襲われ身体をよじりまくる。



「いやいや、グーよ!グー!」

「おかげでいい画(オカズ)が撮れたし」



 瑠香と陽子は鼻血をたらしながら録画した告白シーンを何度も見て満足している。



「おまえら……まさかBLのネタが欲しかっただけじゃ……」

「だめだ、こいつら腐ってやがる……」


「ナンノコトカナ」

「ソンナコトアルワケナイデスヨ」




「でもまあユーシスを朱里に見立てて練習するのは確かに無理があるわね」

「じゃあさ、この不気味な溜池に向かって告白するのはどう?」


「まだ続けるのか?俺もう帰りたくなったんだけど」

「俺も」



 続いての瑠香と陽子の提案には、さすがに祐樹もユーシスも露骨に嫌な顔をする。



「あ、ふーん……そうなんだ。祐樹の朱里に対する想いってそんなもんなんだ」

「それなら仕方ないね。朱里、可哀そうに……きっと熱意のこもった素敵な告白を期待していたろうになぁ」



 そう言われては祐樹も無視するわけにはいかない。



「わかったよ、やればいいんだろ?やれば!」



 投げやりだが、祐樹の言質をとり、またしても瑠香と陽子はさらに悪い顔でニヤリと微笑ほほえんだ。



「おまえら、俺以上に祐樹を煽るのな」

「「にしし」」


「「じゃあ、早速告白練習いってみよう!」」




 Take1

「朱里、俺ずっとおまえの事が好きだったんだ。だから付き合ってくれ!」



「………」

「………」

「………」


「どうだ?」


「なんか違う…」


「何だろう、何か違和感が……」


「祐樹よ、おまえ今の状態でもほとんど付き合っているようなもんだし、言葉変えてみたら?」


「あと前半をもう少し簡潔にしたらどうかな?」


「『好きだ!愛してる!』でいいんじゃないかな。後半は『ずっと一緒にいてくれ!』みたいな?」




 Take2

「朱里、好きだ!愛してる!ずっと一緒にいてくれ!」



「うん、悪くないな」


「でも熱意が足りてないよね」


「まだ照れがあるのよ。もっとこう魂の叫びのような……」




 Take3

「朱里ぃぃぃぃ!!!好きだぁぁぁぁ!!!愛してるぅぅぅぅ!!!ずっと一緒にいてくれぇぇぇぇ!!!」



 大絶叫で告白する祐樹!


 その音圧はカンデュラ領全域をカバーするほど凄まじいものだ!



「いい感じになってきたわ」


「ほら、ユーシスも一緒に!」


「え、俺もやるの?」


「だって祐樹独りじゃどうしても照れが入っちゃうでしょ、付き合ってあげてよ」


「マジかよ…」



 ユーシスは祐樹の横に立ち、思いっきり息を吸い込んだ。





 *





 ◆カンデュラ教会前



 朝練を終えた現地聖女ミルーシャ、現地聖女アリサ、召喚聖女朱里アカリは教会前の段差に座って休んでいた。



「ふー、ミルーシャさん。これ、やはり難しいですね」


「私なんてストライバー絶対防御魔法自体、まだうまく出せないし……」


「でもお二人ともいい線いっていると思うわよ?私なんて戦闘職じゃないからこれで頭打ちだけど、二人はこれからドンドン伸びるでしょうね」



 ストライバー絶対防御魔法を応用して、自由自在に扱うのは生半可な精神力では難しく、アリサは苦戦していた。それでもどうにかコツのようなモノは掴んだ。


 かたや朱里の方は、まだ新米聖女という事もありストライバー絶対防御を発動させるだけで精いっぱいだ。しかしそれも時間が解決してくれるだろう。


 そして和気藹々としながら三人は用意した御茶を口にしたのだが……




 ― 朱里ぃぃぃぃぃぃ!!!好きだあぁぁぁぁぁぁ!!!愛してるぅぅぅぅぅぅ!!!ずっと一緒にいてくれぇぇぇ!…くれぇぇぇ!…れぇぇぇ…



 突然、遥か彼方から祐樹の大絶叫告白が、物凄い音圧で響き渡る!?



「「「 ブーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ! 」」」



 予想外すぎる突然のことに、盛大にお茶を吹き出す三人の聖女達。



「な、なに……いまの!?」



 ― そんな小さな声で朱里の心に響くと思うなー!やりなおしー!


 ― うぉー!好きじゃー!!!朱里ぃぃぃ!!!


 ― まだまだ熱意が足りーん! once again !


 ― 朱里ぃぃぃ!!!



「ど、どうやら告白の練習をしているみたいですね(汗)」


「なななな、なにやってんのよ!祐樹!?」



 顔が爆発しそうなくらい真っ赤になる朱里。恥ずかしさと嬉しさに身をよじりまくっている。


 その様子をニヤニヤと眺めていたアリサだったが……



 ― 好きだぁぁぁぁ!!!アリサぁぁぁぁ!!!絶対に結婚するぞぉぉぉぉ!!!



「ぶはっ!な、なんで私まで!?」



 アリサにも、まさかのユーシスからの絶叫告白が!?



「あらあら、二人とも愛されていますねぇ、羨ましいですわ」



 ミルーシャは微笑んではいるが、コメカミが##ピキピキッとなっている。


 ミルーシャは伴侶と死別してしまい、現在フリーの身だ。


 しかも現地聖女という立場上、任期の終える27歳までは勇者以外との性交を禁じられている。


 そんなミルーシャにとって、この絶叫は当て付け以外の何物でもない。



 ―好きじゃー!


 ―愛してるぞー!



 祐樹とユーシスの絶叫告白は、その後1時間ほど続いたという……




 *





 ◆カンデュラの街 とある民家にて



アポーシネス堕胎リンカネーション転生!」



 金色の長く美しい髪を大きく広げ、現地聖女カーシャが堕胎転生魔法を唱えた。そして一つの芽吹く前の命が冥界へと旅立って逝った。



「お腹の子は逝ったよ、もう大丈夫だからね」


「ありがとうございます。助かりました…でも…私は自分の子を殺したんですね」


「そうだな。お腹の子の魂は、このあと冥界に送られすぐに人として転生される。次の人生が良きものであること祈ってやってくれ」



 カーシャは、涙ぐむ娘を優しく説いたのち娘と民家をあとにした。



 ユーシスとアリサの先輩である現地聖女カーシャと現地勇者ヨシュア。二人は極悪なる聖堂騎士に望まず孕まされた最後の娘子の処置を終え、近くのカフェテラスで一息ついた。


 ここカンデュラ領では、つい先日までテラリューム教聖堂騎士の組織的犯罪行為が行われていた。


 彼ら聖堂騎士は、アコライト教会従者の募集と称して領内の若い娘を強制徴用し、凌辱の限りをつくしていたのである。


 ユーシス、アリサ、ミルーシャ、祐樹、朱里、そしてヨシュアとカーシャは、創造の女神テラリュームの名の下に、聖敵に堕ちた彼ら聖堂騎士達を大粛清したのであった。




「ふぅー、流石にきつかった……」


「お疲れ様……って一言の労いですむ仕事じゃないよな。これは聖女の仕事じゃないよ」


「戦場でならともかく、本来は神官や大神官の仕事だからね。カンデュラには神官はもういないし、ミルーシャやアリサにはまだ荷が重いだろう?仕方がないよ」



 運ばれてきた紅茶に、カーシャは珍しく砂糖をスプーン三杯も入れてかき混ぜながらぼやいた。



「さて、これからなんだが…」



 難しい顔でこの先の事を懸念する二人だったが、その時突然――



 ― 朱里ぃぃ!好きだぁぁ!愛してるぅぅ!ずっと一緒にいてくれぇぇぇ!


 ― 好きだぁぁ!アリサぁぁ!絶対に結婚するぞぉぉぉ!!



 祐樹とユーシスの絶叫告白が、物凄い爆音圧でカフェテラスを襲った!



「ぶはっ!なんだ今の!?」


「ユーシスと祐樹の声みたいだったが!?」



 ―ざわざわ

   ―ざわざわ



 周囲の人々が何事かとざわめく。



 ― 朱里ぃぃぃぃ!!!


 ― アリサぁぁぁぁ!!!



「朱里とアリサって聖女様の名だよな?」

「誰だ!悪戯にも程がある!」

「不敬だ!即刻捕まえて死刑にしろ!」

「いやまて、本当に聖女様達が告白されたのかもしれないぞ!」

「特ダネだー!」



 聖女絡みの事件でもあり、カンデュラの街全域が騒然をなった!


 あちこちで「発信源は何処だ!?」と探し始める輩も出てきたが、はるか遠く溜池の畔で絶叫しているユーシスと祐樹など当然見つけようがない。



「あいつら何やってんだ!?」


「告白の練習か?かかわると面倒だ。知らないフリしとけ」



 現地勇者ヨシュアと現地聖女カーシャは、関係者とバレないよう小さくなってお茶をすすった。





 ― ピシッ! パリーン!



「キャー、窓ガラスが!」

「カップが真っ二つに割れたぞ!?」



 ユーシスと祐樹の爆声は、衝撃波まで伴いながらカフェテリアどころかカンデュラの街全域を襲った!


 その爆声……いや、もはや超爆音攻撃とでも言った方がよいだろう。


 彼らの発した愛の超爆音攻撃は、街中のティーカップや窓ガラスにヒビを入れるなどして、多くの人々を混乱させた。


 またユーシスと祐樹の必死の告白練習は、現地勇者であるユーシスはもちろん、後に召喚勇者となる祐樹にも、ヒーローズシャウト勇者の絶叫などと言うかなりレアな勇者魔法を獲得するまでに至った。


 さらには絶叫告白の内容は全ての領民に知られるところとなり、その翌日さっそくカンデュラの地方紙にて――


『聖女アリサ様と聖女朱里様、正体不明の何者かに大絶叫で告白される!聖女様達はこの件については一切ノーコメント』


 と、第一面にて堂々と記事にされてしまった。


 さらにはイレギュラーなことに、カンデュラの領民により【告白おめでとう聖女様祭】が派手に行われ、聖堂騎士騒動で疲弊したカンデュラの経済を回す弾み車となったのである。


 微細な被害を出したカンデュラを混乱させたユーシスと祐樹の告白練習ではあったが、結果的には領民のために役立ったのだ。





 そして、数日後……



「朱里!好きだ!愛してる!ずっと一緒にいてくれ!」

「はい…はい!私も祐樹が大好き!愛してる!ずっと一緒にいたい!」

「朱里!」

「祐樹!」



 二人は感極まり、そのまま自然とお互いの顔が近づき……





 ――とまぁ、祐樹は朱里についに告白!


 練習のかいもあって、みごと彼氏彼女の仲となるのだが、そこまでに至るまでの胸糞含みな経緯はまた別のお話となる。



 おわり。





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 この物語は、別サイト掲載中の長期連載小説、

【ティラム逃亡記・幼馴染が聖女に覚醒したので勇者にストーキングされてます。現在全力逃亡中!】

 より「166.祐樹の悩み」「167.愛の大絶叫!」「168. バルボナ大聖堂」を、むりやり短編向けに加筆再編集したものです。

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