第51話 悪役は竜を倒し英雄となります

「『ヒューマンジー』はキーウィ方面に向かっているようです!」

「キーウィに到達される前に仕留める!」


 俺はミラの力を借り、打ち捨てられたリビチョブを抜けて森の中へ入った。


 この辺にいた学生は全員避難した頃だろう。

 人口密集地帯に入られる前に捕捉したいところだが──、


「ヴォォォォオオオオオオオオオオオッ!?」


 あれ。


 やつの鳴き声が意外と近くで聞こえるな。

 さすがにこの辺りから離れたと思ったのだが。


 なんか慌ててるっぽいし。


「接近しますか?」

「ああ。何かが起こっているようだ」


 森を抜けて見晴らしの良い平原にたどり着いたとき、俺は状況を理解した。




「総員!レゼン・ヴォロディ候補生が戻ってくるまで、ここで竜を食い止めるんだ!」

「「「「了解!!!」」」」


 マリア・シェレストの指揮の下、『メリホスト騎士団訓練校』の生徒が『ヒューマンジー』を足止めしていたのだ。


「へっへーん!図体がでかいだけで機動性は大したことないな!」


 ルース・ヴォイコは玄鳥に変異して竜の周りを飛び回り、視界をかく乱する。


「ルースったら!あまり舐めすぎるのは危険ですわよ!『突風ガスト』!」


 レーフ・コヴァルは風魔法でルースの軌道を変え、肉親が竜に捕まらないように調整した。


「……ロジーナとのすりすりくんかくんかすーはーぺろぺろ生活を邪魔する奴は、誰であろうと容赦はしない!『水檻ウォーターケージ!』


 タチアナ・オストロジュは竜の翼を水魔法の環で覆い、空気抵抗を増大させて飛行を妨害する。


「ああっ!こんなに一杯『腐素』が!しょうがないから食べちゃおうっと!もぐもぐ……あ、これ結構おいしいかも」


 ロジーナ・ティモシェはユニークスキル『大飯喰らい』で『腐素』を吸収した。

 『魔石精製マジックストーン・ジェネレーション』で灰色の魔石を生成しているので、無事消化できたのだろう。


「あいつら……!命知らずにもほどがあるぞ!」


 言葉とは裏腹に、俺は口元が緩んでいる。




 全く。

 クソゲーの癖に、仲間はみんな優秀だ。


「ヴォォォォオオオオ!!」


 いらだちを隠しきれない『ヒューマンジー』が『殲滅』を発動した。

 勇敢に戦う5人に迫る、目に見えない無属性の魔法。

 逃走用の力を温存するために出し惜しんでいたが、この状況では致し方ないと判断したらしい。


 俺はミラに合図をして一気に飛び出した。


「『無効インバリッド』!」


 アビリティで『ヒューマンジー』の魔法を消滅させ、5人の前に姿を現す。


「ヴォロディ・レゼン候補生!戻ってきてくれたのか!帰ったらまた先生のご飯を食べてくれ!」

「レゼンさま!レーフは信じてましたわ。必ず、ミラさんと生きて帰ってくれるって」

「ヒーローは遅れてやってくる。へっ、レゼンさまはお約束を良く分かってるぜ!流石はルースの認めた男!」

「レゼン師匠がいぎでてよがっだ~~~~~!」

「戻ってきてよかっ……か、勘違いしないでよね。あなたはロジーナの師匠。あなたがいなくなったらロジーナが悲しむから、それだけよ」


 皆が思い思いの言葉で出迎えてくれる。

 

 喜びを表現したいところだが、今は『ヒューマンジー』討伐に専念しよう。

 

「みんなありがとう!だが、弱っているとはいえあいつは油断ならない。最後の一撃は俺に任せて、後方で見守っててくれ」

「「「「「はっ!!!」」」」」


 皆が一度後方に下がるのを確認して、俺はミラと共に『ヒューマンジー』と相対する。




「……」


 追い詰められた女型の竜は何も言わなかった。

 逃走をあきらめ、俺とケリを付けるつもりらしい。


 数千年生きてきた邪悪な竜よ。




 今、俺が解放してやる。 

 

「行くぞミラ!」

「はいっ!」


 勝負は一瞬。


 地上に降りたった『ヒューマンジー』のもとへ一気に駈けていく。

 空気圧のすごさに目を細めながらも、スピードは緩めない。

 『ペルーン』を取り出し、銃口を竜の頭に向けた。


「ヴォォォォォォォォォォォォォォオオオオオオオオオオオオ!!」

 

 『ヒューマンジー』は口を大きく開き、無色透明のブレスを放った。

 竜の全身全霊の攻撃。


 『無効インバリッド』で防ぐ。

 ブレスに押し返されそうになる。

 怯まず、そのまま進み続ける。


「「うおおおおおおおおおおおおおっ!!!」」


 俺とミラは叫び声をあげながら、ブレスの中へと突っ込み、襲いかかる炎を真っ二つに引き裂いていく。


 竜の頭が目前に迫った時、俺は『ペルーン』に命じた。


 ──軍神よ。最小限の力で最大の戦果をもたらせ。




 ====================


 殲滅対象:廃棄竜『ヒューマンジー』

 射程:1メートル

 使用後の魔力残量:10%

 備考:0距離射撃で威力を増大させる


====================



 竜とすれ違いざまの一撃。


「……!」


 回避。

 防御。


 どちらも不可能。


「ギャオォォォォォオオオオオオンッ……!!!」


 そのまま頭部を撃ち抜かれ、『ヒューマンジー』はついに最後を迎えたのであった。



 ****



「レゼンさん、起きてください。みんな来てますよ」


 気が付くと、ミラがこちらのぞき込んで微笑んでいた。 

 何やら頭に柔らかい感触。


 どうやら、ミラに膝枕してもらっているらしい。


「ふぅ。力の使い方は、まだまだ鍛錬が必要だな。フォローしてくれてありがとう。ミラ」

「ミラは、大したことはしてません。みんな、レゼンさんの力です」


 互いに見つめ合っていると、遠くから声が聞こえてくる。




「おおおおおおい!レゼンさまは無事かぁぁぁあっ!?いたら返事をしてくれえええええ!」


 どうやら、ルースが俺たちを探しているらしい。


「ふふふ。行きましょうか」

「ああ。続きは、また後で」


 俺とミラは手を繋ぎ、みんな所へ戻っていく。




 こうして、俺は『メリホスト騎士団訓練校』を掌握した。



 ****



「竜が倒されただと!?」

「ありえない。Sランクスキルの保持者は、今この国にはいないはずだ!」

「早く調査隊を送れ!」


 スラヴァ王国のキーウィの王宮で、緊急事態を受けて召集された重臣が協議を続けている。

 その協議の場で、1人の少女が参加していた。


 盲目で金髪の王女、ユリヤ・スタラヤドガ・リューリクである。


 宝石とみまごうばかりに輝く金髪。

 見るものを全てを魅了するたおやかな佇まい。

 『盗賊ですら涙を流す』とまで言われた、優しい笑み。


 このような状況でなければ、重臣たちも彼女の美貌をジロジロと覗いていただろう。


 ──ヒヤヒヤしましたが、彼が上手くやってくれたみたいですね。私の目に狂いはありませんでしたね。


 誰も自分に注目していないことをいいことに、ユリヤはクスリと笑い、今後の計画を立てる。




 ──私、彼のお嫁さんになろうかしら。


 第二次ヴラス帝国侵攻まで、残り約10ヶ月。



 ****



 これにて第一部は終了です!

 

 プロットが完成次第第二部も進めていきますので、よろしくお願いします^_^




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【第一部完】10000時間プレイした戦争死にクソゲーの悪役に転生したので、闇落ち主人公からヒロインと学校と国を寝取り、最強の暗殺チームで無双します 2023年中に小説家となるスンダヴ @sundav0210

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