第50話 竜が逃げ出しそうです
「おのれおのれおのれええええっ……!竜もどきの人間にここまで追い詰められるとはぁ……見ておれ、力をもう少し復活させれば必ず……!」
大きなダメージを負った『ヒューマンジー』は竜へと変異した。
半竜と侮っていたレゼンが思わぬ強敵であったため、逃走を決意したのである。
肉体の表面は腐敗と再生を繰り返しながらブクブクと波立ち、先ほど吸収したペトロの新鮮な肉塊もみるみる黒ずんでいく。
肉体の劣化に苦労しながらも翼を広げ、飛び立つ体制を整えた。
「あの時もそうだった……わらわが復活しようとするたび、獣人やや人間風情が邪魔をする……!!」
『ヒューマンジー』は過去の出来事を怒りと憎しみと共に回想する。
──ギャハハハハハハハ!愚かなヴラス帝国の実験で復活したぞ!また世界を破壊しつくし、終焉の日まで生き延びてやるわ~~~!
10年前、一度肉体が崩壊して眠りについていた『ヒューマンジー』は、ヴラス帝国の『エーテル計画』で偶然目を覚ました。
早速自らにかけられた拘束魔法を無効化し、周囲にいた技術者を飲み込んで自らの血肉へと変えていく。
いずれ『腐素』をばらまきながら飛翔し、スラヴァ王国含む世界に恐怖と混沌をばらまくつもりであったのだが、一人の獣人に阻まれた。
──……やはり設計に欠陥があったか。だからヴラス帝国の奴らは嫌いなんだ。竜よ、あんたに恨みはないが、もう一度眠ってもらうぜ。
獣人ながら高度な魔法の才能を持つミラ・クリスの父、ヴーク・クリスである。
元々引退していたSランク冒険者であったが、近隣で起こった異変に気付き急遽かけつてきたのだ。
自らを再度封印しようとするヴーク・クリスに襲い掛かる『ヒューマンジー』であったが、数時間のおよぶ激闘の末、意外な決着を見せる。
──な……体が動かん……!ぼろぼろと肉体が崩れて、再生も追いつかないだと……貴様、わらわに何をした!!!
──何もしちゃいねえよ。ただあんたが自滅しただけだ。
──なにぃ!?
──お前のユニークスキルは『吸収』。新鮮な生物の肉体を触手で取り込んで、老化や劣化のない永遠の命を得る。そうだな?
──それがどうしたというのだ!?
──そのユニークスキルに限界が来たのさ。体内に異物を取り込み続ければ、どんな強靭な肉体もいずれガタが来る。お前は竜として数千年の時を生き続けるために、あらゆる動物、獣人、人間を喰らって肉体に取り込み続けた。そいつらが今、拒絶反応を起こしてるのさ……
重傷を負っていたヴーク・クリスだったが、動きを止めた『ヒューマンジー』を封印する『石の棺』を発動する。
──き、貴様!獣人風情がわらわと相討ちになろうというのか!貴様の肉体も石となるのだぞおおおおおっ!
肉体が固まることに恐怖を覚えながら叫ぶ『ヒューマンジー』を、ヴーク・クリスは意に介さない。
──そう怖がるな。どんな生物もいずれは死ぬ。それに……娘のために死ぬ人生も、悪くない……
──やめろおおおおおおっ!
こうして、『ヒューマンジー』は今日にいたるまで封印されるのあった。
「ヒヒヒヒヒヒヒヒッ!今回は必ず失敗しない……!わらわは、わらわはやばい奴から逃げ切ってみせる。そして、3度目の復活を遂げてあらゆる生物を食い尽くすのじゃ〜!」
バサリと大きな翼を飛翔。
こうして、老いた女型ドラゴンは逃亡を図った。
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「飛んでっちゃいました……」
「あぁ。逃げるつもりだな」
俺とミラは『石の棺』を突き破って逃走する黒い竜を眺めた。
ふむ。
こうしてみるとやはり竜はかっこいい。
俺もいずれは竜に変異とかできるのだろうか。
またヴェレスに会ってみたら聞いてみようっと。
「……ってまずいですよレゼンさん!竜が飛んで逃げちゃったら大変なことになりますよ!」
「おっとそうだったな」
俺は慌てふためいているミラの頭を軽く撫でた。
「さぁ。そろそろ最終局面だ。あいつはミラの親父さんの仇。一緒にぶっ倒して、学校でまた祝杯をあげよう」
「ミラも、ですか?」
「俺とミラのコンビは無敵さ」
「……ふふふ。そうですね。きっとお父さんも喜んでくれると思います」
ミラは高らかにアビリティ名を唱えた。
「『
しなやかな筋肉。
鋭い牙。
叡智を秘めた蒼き瞳。
獣人の少女は、気高き狼へと変わった。
こちらに親愛の表情を浮かべ、ひざまづく。
「行きましょうレゼンさん」
「ああ」
俺はにっこりと微笑んでミラの背中に乗り、『ペルーン』を手にとって叫ぶ。
「悪役レゼン・ヴォロディ!ハッピーエンドのため、ただいま竜を退治する!」
学園を寝取るための最後の戦いが、今幕を開けた。
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