第49話 竜を思い切りぶん殴りました
「教育だと……!?おのれぇぇぇぇえ半竜風情が!姿を隠すなら、数を増やすまでよ!」
激昂する『ヒューマンジー』は怒りながら、さらに大量の触手を吐き出した。
グチャ……ヌチャ……ヌチュ……
その数数百匹。
吐き出された触手は動き始め、俺の気配を探っているのか先端をヒクヒクとさせる。
一度命令が下れば、こちらへ一斉に襲い掛かるだろう。
「なるほど。竜が触手なんて恰好が付かないと思っていたが、それなりに厄介だな」
「ヒヒヒヒヒッ!!こちらに向かってくる気配を感じるぞ!わらわの触手は無属性を帯びた最強クラスの魔物!そのまま返り討ちにしてくれるっ!半竜の発動した『
「だが、今や大した障害ではないな」
「減らず口を叩けるのも今のうちだっ!触手たちよ!小癪な小僧を捕らえてもってきなさい!!!」
グチュチュッ!
触手は一斉に動き出した。
数百匹の群れが一塊となり、津波となってこちらに襲い掛かる。
「レゼンさん!」
「大丈夫だ!」
心配するミラに声をかけ、俺はそのまま女型の竜に向かって全力疾走。
──恐れを捨て、秘めたる力を解放せよ。
俺は『竜の血脈』を発動。
迫り来る触手は俺に殺到し──、
「当たらなければどうということはないっ!」
透明な俺の体を突き抜けていく。
10匹目。
50匹目。
100匹目。
誰も傷一つ付けられない。
むなしく空を切るだけだ。
「な……なぜ当たらぬ!まさか貴様……!?」
『ヒューマンジー』が異常に気づくも時すでに遅し。
『
あらゆる物理障壁をすり抜ける究極の回避アビリティだ。
「さぁ!みんなを傷つけた分、ミラに悲しみを与えた分の報いは受けてもらうぞ!」
『ヒューマンジー』が目前に迫ったところで、俺は右の拳だけ『
なんの変哲もない頼りない武器だが、表面に『
こいつは、直接俺の手で殴らないと気が済まない。
「『
「くそおおおおおっ!『
ガンッ!
ついに俺と『ヒューマンジー』の無属性魔法が直接鍔迫り合う。
互いを食い破らんとする最強の盾vs盾。
死の大地を焦がす膨大な魔力。
せめぎ合う透明なるオーラ。
オーラはしばらくの間拮抗していたが──、
ピシッ。
やがて片方にヒビが入った。
それはみるみる大きくなっていき、崩れ始める。
勝者は1人だけ。
「こ、この『ヒューマンジー』が!!!人間もどきの半竜に押し負けるだと!?」
「半竜半竜うるせえ。それより、そろそろ殴るぞ」
「ほひっ!?」
ヴェレスが竜の力を解放してくれたおかげか、身体能力は何倍にも強化されている。
そのまま拳にさらなる力を込め──、
「そ、そんなことが……ホギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」
『ヒューマンジー』を思いきりぶん殴った。
女型の竜は吹っ飛んでいき、先ほどまでいた『石の棺』の内部に再び叩き込まれる。
ドゴォオオオオオオンッ!!!
凄まじい音が響いた後、一帯に静寂が訪れた。
****
「非戦闘員はクラスごとに点呼が取れ次第すぐに退避するように!教師の指示に従え!」
「移動速度の遅い方は、風魔法で後方まで送って差し上げますわ!」
「飛行能力を持ってる獣人は周囲に市民がいないから探索だ!」
「みんなの昼ごはんはわたすが食べます〜荷物は出来る限り減らして身軽になってください〜」
「……『腐素』は水中では汚染が広まりにくいわ。泳げる獣人は落ち着いて退避しなさい」
レゼンが『ヒューマンジー』と死闘を繰り広げている一方、決闘を観戦しにきた学生たちは規律よく動いてた。
自身では対処できない問題であると判断し、後方への避難と市民への呼びかけを迅速に行っている。
マリア・シェレスト。
レーフ・コヴァル。
ルース・ヴォイコ。
ロジーナ・ティモシェ。
タチアナ・オストロジュ。
特に1名の教師と4名の生徒は目覚ましい働きを見せ、混乱なく生徒たちが行動するための旗印となった。
王国の危機に際し、人間も獣人も関係なく協力しあう。
レゼン・ヴォロディの預かり知らぬところで、彼の理想は達成されつつあった。
「よし。これであらかた片付いたか。先生はレゼンたちを救出にいく。お前たちは退避しろ!」
「「「「私たちも探しに行きます!」」」」
「なに!?危険すぎる!許可できない!」
「「「「命令違反を覚悟でいきます!!!」」」」
「お前たち……わかった!先生について来いっ!!!」
5人の女性たちがレゼンとミラの救出に向かおうとした時──、
ズゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥンンン……!
腹の底に響くような爆発音が、再び遠方から聞こえてきた。
****
「こ、これは……?」
「そろそろ向こうも本気らしい」
『ヒューマンジー』の様子をミラと確認しようとした時、大きな爆発音が『石の棺』の内部から響く。
黒煙がもくもくと吹き出し──、
「ヴゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ……」
巨大な竜がその全貌を現した。
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