最新「第十九楽章」まで読ませていただきました。
一流の音楽家になるためには魔法の素養が必要な世界。主人公のアポロは、楽器を鳴らせるのに人を感動させられるまでには至らず、自他ともに「何か物足りない」。ゆえに、演奏家ではなく調律師として貧しい暮らしをしている。
そこへある日、一流の音楽家である美女・ダリアがやってきた。
ダリアはアポロがセッションをすることで才能を発揮することに気付き、彼にセッションを申し出る。
アポロはダリアが演奏している「悪魔の楽器」・バンドネオンを唯一完璧にメンテナンスできる腕を持っていた。
二人はパートナーとなり、演奏の旅に出る――
アポロとダリアがセッションしているシーンは、情熱的な描写に読んでいるこちらまで魂が揺さぶられました。
出会って間もない二人ですが、互いの音を聞けばもうそれで十分。細かく語り合うまでもなく、絆が生まれるのですね!
特にダリアのキャラクター造形がとても好みで、年下のアポロに押せ押せな感じが良かったです(女性が年上というカップルが個人的に推しなのもあってさらに◎)。
舞台のベースになっているのはイタリアでしょうか。
「交響詩 第二番」から二人がナポレアーノという街に移りますが、陽気な街の人に囲まれて酒場でセッションしたり、ホテルで二人でイチャついたりするシーンになごみました。
熱いセッションシーンと微笑ましい日常の描写、緩急があって素晴らしいです!
このまま楽しい感じが続くかと思いきや、街にはギャングの影が。
さらにアポロたちがお酒造りの手伝いをし始めたりして、お話がさらに動きそうですね!
音楽が魔法になる世界。物語は、楽器は鳴らせるものの音楽家にはなれなかった青年〈アポロ〉と、『悪魔が発明した楽器』を操る美しき旅の音楽家〈ダリア〉の出会いから始まります。
この出会いが、アポロに自分の持つ本当の力を教え、また一人で旅をしていたダリアの心に新しい光を灯したのではないでしょうか。二人は手を取り合い、共に旅に出ます。
情景が丁寧に描かれており、まるでその場に居合わせたような臨場感を味わうことができます。特に『交響詩 第二番』の街の描写や、音楽(魔法)の描写がとても素敵だと思います。
調律師と音楽家、おそらく重なるべくして重なった二つの旋律が、これからどのような音楽を奏でてくれるのか、楽しみに追いかけたいと思います。
この物語の特徴は、何と言っても音楽と魔法を融合させた面白い設定、そして、ひとりではその真価を発揮できない主人公アポロの存在でしょう。彼の才能を引き出した一級演奏家のダリア。彼女は演奏と魔法の才能に溢れ、美しく小悪魔的。主人公のみならず、読者の心をも離しません。
特筆すべき点は、登場する土地が実在する国をモデルにしている点です。実在する場所を徹底的に調べ尽くして書かれているからこそ、ファンタジーであるのにリアリティが凄まじく、溜息が出るほど美しい街並みが目の前に浮かびます。まるで自分がそこに立っていて、その景色を見ているかのように錯覚するほどです。
旅愁や音楽の生み出す興奮、絶景の美しさ、微エロなどが盛り込まれ、筆力の高い作者様の手によって物語が踊るように進んでいきます。大変読みやすく、単純に物語を追うだけの目的で読む人でもワクワクと楽しい気分になれるでしょう。