(3)
「メーリに頼んでおいてよかったぁ。あなたったら、昔から、興奮すると見境がないんだもの」
妻アイラナは、あっけらかんとした様子で、彼女が陰謀の首謀者であることを明かした。
妻アイラナに企みを吹き込まれたメーリがタケルに教えたまじない、「シェフェリ・シェ、シェフェリ・シャ」を、フトゴース人の言葉から日本語に直すと、こういう意味になるらしい。
「大好きです。踊りましょう」
タケルは、大真面目な顔で、妻アイラナにこの言葉を贈った。
「私もよ、あなた。さあ、息子にいいところを見せましょ。出会った頃に踊ったパソドブレ、まだ覚えてる?」
「もちろん覚えてる。大事な思い出を、忘れるものか」
アイラナは、彼女がまだツバルの酒場の看板ウェイトレスだった頃のように、頬を赤らめてほほ笑んだ。そして彼女は、タケルから離れ、威嚇するように腕を掲げて、その表情を挑むようなものに切り替えた。
タケルとアイラナの挑みあうような激しい踊りは、一連の騒ぎのクライマックスに相応しく、情熱的で、彼らの息子にこれからすべきことを伝えるものだった。
「パシュシュシェちゃん、ありがとう。発作が起きたときは本当に苦しかったけど、おじさんに治してもらってすっかりよくなった。もう、胸は、痛くないよ」
トムは、両親に目をやって深呼吸した。そして、トムは、ずっと言おうと思っていたことを言葉にした。
「それで、パシュシュシェちゃん、僕と・・・シェフェリ・シェ、シェフェリ・シャ」
空では、「姉の月」が「弟の月」の影から顔を出し、空に月明かりが戻りつつあった。
天文学では、月が別の月の影に入ることをセカンドコンタクトと呼ぶらしい。
タケルにとって、息子がいなくなった事件がフトゴース人とのセカンドコンタクトだった。
彼は、本土の暗闇を走り回り、怪我もした。
だが、タケルの息子は、フトゴース人に異型狭心症を治療してもらい、元気になって帰ってきた。可愛い彼女もできたようだ。
タケル自身は、大きな恥をかきかけたが、妻アイラナとその友人の手回しのおかげで、面目を保つことができた。すみれ色のフトゴース人、パシュシュシェの叔父のシャパパパシュは、地球の激しいダンスを体験できて楽しかったと褒めてくれた。
そして何より、妻との情熱的な時間を久しぶりに過ごすことができた。
月が別の月の影から出ることを、サードコンタクトと呼ぶらしい。
暗いセカンドコンタクトの後にはサードコンタクトが続く。
タケルは、ようやく、彼がフトグーイに来たことの意義を見つけられた気がした。
彼は、筆記デバイスを立ち上げ、フトゴース人についての記事を書き始めた。
書くべきことは、彼の周りのあちこちに、ずっと前から積みあがっていた。
彼には、依頼人だけでなく、すべての地球人にそれらを伝える義務があると感じていた。
窓の外では、フトゴース人の愛らしい少女がタケルの息子と踊る様子を、少女のぬめぬめした父親と、タケルの妻と、その友人とが、見守っていた。
― 了 ―
セカンドコンタクト[ドラフト版] Aki(IP) @shidaisu
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