(2)
息子のために、タケルは、諦めずに仕掛け続けた。
フトゴース人は、襟と袖のある服も二本揃った足も持っていなかった。だから、タケルは、腰技に絞って仕掛けざるを得なかった。道場であれば、初心者相手にしか通じない戦法だったが、フトゴース人がタケルの体を崩しかけては引き起こす奇妙な動きを続けていたため、タケルは、なんとか試合終了にならずにすんでいた。
大腰がダメなら
袖も襟も掴めないため、どの技もかかりが甘く、フトゴース人の体を崩すに至らなかった。しかも、大柄なフトゴース人は、200ポンドか300ポンドもある、タケルよりはっきり上の階級の相手だった。この試合は、始まる前から不利なカードだった。
それでもタケルは、粘り続けた。無様に踊るような恰好ではあるが、彼は、なんとかフトゴース人の腰を取り、一本決める望みをつなぎ続けていた。
5分が過ぎ、さすがのタケルも息があがってきた。
まじないを叫ぶ声も、かすれるような声になってきた。
とうとうタケルは、まじないを叫び損ねて咳き込んだ。彼がひと息入れたとき、トムが横たわっていた台の方から控えめな拍手が聴こえてきた。タケルが拍手の方に目をやると、頬を赤く染めたトムが手を叩いていた。
タケルは、拍子抜けした。
「トム、身体は、大丈夫か?」
「うん! パシュシュシェちゃんのおじさんが治してくれたよ」
トムの言葉通り、タケルの息子は、確かに健康そのものに見えた。
(俺は、夢でも見ているのか?)
「そうか・・・よかった」
タケルは、フトゴース人の腕にもたれかかりながら、そうつぶやくのが精いっぱいだった。
なんであれ、彼の息子は、無事だった。
だが、安堵したタケルに、彼の息子トムは、思わぬ一発を見舞ってきた。
「僕も、パパとママが来てくれて嬉しい。パパのそれは、日本の夏祭りの踊りなの?
昔、話してくれたよね。日本の夏祭りでは、夜にみんなで踊るんだって」
息子の言葉に、タケルは、口を大きく開いた。そして、間抜けな声を漏らした。
「は?」
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