勇者パーティーをお追放されたのですわ~! キッツイですわキッツイですわキッツイですわ~!

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お追放されたくないのですわ~!

「アンリエッタ、偽聖女の君は今日でクビだ」


 わたくしにびしっと指を差してそう言い切ったのは、勇者パウロですわ。


「はい? 誰が誰をですの?」

「僕が君を、クビにする」

「それは、いわゆるパーティー追放っていうやつですの?」

「そういう事になるな」


 シャイニングのような始まりですわ~!

 わたくし、開幕冒頭でいきなりパーティーを追放されてしまいました。巷では勇者に追放される物語が流行っていると聞き及びましたが、まさかこのわたくしがそんな目に遭うとは思ってもいませんでしたわー!

 こんなのなろう系でしかないと思ってましたけども……なんてひどい話なのでしょう?


 申し遅れました、わたくし、名門エンリケ家のアンリエッタと申しますわ。

 眉目秀麗な美人、家系的には将来有望な聖女……そんな風にわたくしを噂する人は多いですわ。

 わたくしはそんな家系の名誉を得るべく、勇者パーティーに入ってパウロと冒険をしていたのですが──この度、勇者パーティーから追放されてしまったようですわー!


 本当だったらもっと泣いてやりたいところですけど、今はその涙を堪えて、そっとわたくしを差してやがる勇者パウロの指をグーで握りました。

 そして──真逆の方向に、力いっぱい折り曲げます。ばきっと、彼の指が変な音を立てて、有り得ない方向に曲がりました。

 あらやだごめんあそばせ、とっても痛そうですわ~!


「ひぎゃああああああああああ!」

「人に指を差すなんて、失礼ですわ!」


 わたくしは傷付いた心を隠し、ふんと顔を背ける。

 そう、勇者ともあろう人が人に指を差してクビを宣告するなんて、してはいけないことですわよ。せめて書面に書いて、しかるべき場所で話すべき内容ですことよ。


「お前の方が失礼だろうがアンリエッタあああああ!」


 指を手で押さえて転がり回りながら勇者が何だかほざいてやがりますわ。


「大体、お前のそういうところが偽聖女だっていうんだ! 治癒魔法も一度覚えたら、そこから力ばかりに極振りしやがって!」

「だって、どうせなら悪逆非道な悪者をぶっ飛ばしたくなりませんこと? ワンパンで敵を沈めた時の快感……堪りませんわ!」

「そういうところが聖女じゃないって言ってんだよおおおおおお!」


 パウロ王子は相変わらずゴロゴロ転がり回りながら文句を言う。

 とっても痛そうですわ。指をへし折られてるんだから、それも当然ですけども。


「でも、パウロ王子……今このパーティーに回復魔法を使えるものは誰もいませんことよ?」

「そうだな。でも、それはすぐに見つけ──」

「その無残に折れ曲がった指は、誰が治すんですの?」

「あ……」


 そこで、勇者パウロはハッとする。

 そう、ここは人里まで随分と離れた山の中ですわ。魔物もうようよいる場所で、指が折れた状態では満足に戦えません。どうやって町まで戻るつもりなのでしょう?

 でも、彼とて勇者。指一本くらいでは何とか帰れるかもしれません。ですから──


「あらー! 手が滑ってしまいましたわ~!(グッチャグッチャのおミンチにしてさしあげますわよ~!)」


 わたくしはそう叫びながら、手持ちの杖でパウロの脇腹目掛けて全力でフルスイングをしました。

 狙いは違わず、わたくしの杖は彼の脇腹に突き刺さります。べきべきべきっとパウロの脇腹は音を立てて、5メートルくらいそのまま吹っ飛びました。


「ぐげえええええ」


 パウロは何とか起き上がったものの、ゲロと血を吐きながら、泣きべそをかいていました。みっともない、それのどこが勇者ですの!?


「ゲロくっさいですわね。ほんとくっさ! くっさいですわ~! おゲロはおうちで吐いて下さいませんこと~!?」


 わたくしはゲロ臭い勇者パウロに歩み寄りました。


「うう……もう、勘弁してくれよお。早く治癒魔法ヒールで治してくれ」


 パウロは涙を流しながら、わたくしに懇願しました。


「あら。でもわたくし、もうパーティーを追放されたんですわよね? 治す義理も義務もなくってよ?」


 そう言ってやると、パウロは絶望的な顔をしてやがりました。いい気味です。わたくしをクビにした罰ですわよー!


「うう……さっきのは、嘘だ。ほ、ほんの冗談だったんだ。だから、その……僕を治してくれ」

「あらー! じゃあわたくしはこれまで通り、勇者パーティーの聖女でいられるってことですの!?」

「その通りだ……だから、早く。折れた骨が肺に刺さって……ごふっ」

「仕方ありませんことねー! はい、〈回復魔法ヒール〉!」


 わたくしが〈回復魔法ヒール〉を唱えると、勇者パウロの折れた骨は忽ち治りました。

 こう見えて、そこそこ回復魔法も使えるんですのよ? それよりも敵をぶん殴る方が楽しいだけですわ!


「さあ、勇者パウロ。これから一緒に魔王を倒すのですわ~!」


 わたくしはパウロの手を取って、立ち上がらせる。

 そして、これからもわたくしとパウロの冒険は、続いていくのですわ。

 これからも、ずっと──

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