第32話 北方三人組のその後と、サナとリミ。
コウジ達が去って数ヵ月、ヒーロー男爵領にウルト、ボルグ、ルイーズが集まり、コウジが三人に残した宿題について話し合っていた。
「まず会場となる場所よね。くまさん鉄道で、遠方からもお客様を集めるとしたら、駅の近くは外せないわ。」
「ボルグのところは、広い会場は無理だな。
そうなるとルイーズのところかうちだが。」
「ウルトの領地の方がいいわ。だって雪が多いんですもの。雪が少ないと始まらないわ。」
「そうだね、僕も、ウルトのヒーロー男爵領でやるのが適していると思う。」
「よし、会場は決まりと。次に作る人を集めるのは、どうするんだ?」
「うん、ギルドや村落単位で参加を依頼しようと思うがどうだ?」
「そうすると三領を合わせれば、20以上にはなるわね。」
「少なくなくね。倍の数はほしいよ。」
「1団体で二基も造ってもらえば、なんとかなるかな。」
「メインのは、どうするのよ。」
「俺達三人でやるのさ。だって、俺達が見本を示さなきゃだめだろ。」
三人が、話しあっていたのは、コウジが帰る前に、残していった宿題の話だ。
『お前達三人に、宿題を出しておくよ。
この冬に祭りをやるんだ。雪で雪像を造り、領民や他領の人達に見物させるんだ。
見物客には屋台を出して、寒い中だから温まる食べ物を提供するようにするんだ。
雪像造りに参加した人達には、毎回、温かいお汁粉を出してあげなさい。
そうしてこれは、毎年続けて、スカンジナの名物イベントに育て上げるんだよ。』
そうしてスカンジナ地方に冬がやって来た。
いよいよ、雪像造りの開始だ。
「まず、雪を積んで雪像の大きさにするんだ。
それから、雪像の大雑把な形に削る。細かい仕上げは、そのあとだ。」
「ねぇ、ボク達、何を造るの?」
「そこに、絵があるだろ。そいつを造る。」
「なんだぁ、牧場かぁ、可愛くないじゃん。」
「なんだあ、こんなでかいキノコを造るのかよ。こんなキノコなんてないぜ。」
「いいんだよ。好きに造っていいんだから。」
「おおっ、でかいなあ。ウルトさんは何を造るつもりだ?」
「ハーベスト領にあるドリームランドのお城だよ。設計図をボッシュさんから借りたんだ。」
「そうか、お城かぁ。お姫様はいるのかな?」
「そこには、わ·た·し·ルイーズ姫しか、いないでしょう。ほほほっ。」
「ウルトっ、ルイーズ姫とか、いらないから。
それよか、ミス女王コンテストとか、やったらどうだ?」
「うん、それはいいな。選ばれた女性はモテるぞ、一躍有名人だ。」
「まあ、あなた達。発想がいやらしいわよ。」
「今日の雪像造りの時間は終了よ。
皆、こっち来て、お汁粉を食べてっ。」
「「「わーい、お汁粉だあ。」」」
「さあ、食べて暖まってから帰りなさいっ。」
………………………………………………………
『本日は晴天に恵まれた中、たくさんのご来場をいただきありがとうございます。
只今より第一回『スカンジナ冬祭り』を開催致します。街の皆が造った雪像と特産品で料理した屋台をお楽しみください。
なお、明日は正午より、ミス冬祭り女王コンテストを行いますので、皆さん奮って、投票にご参加ください。』
「わーい、でっかいお城だね。」
「中から登って、滑り台で遊べるわよ。」
「すげ〜、この雪像。俺達が乗って来た機関車そっくりにできてるぜっ。」
「まあ、大きなキノコの雪像ね。あら可愛い猫ちゃんもいるわ。」
「プッ、可笑しいわ。この雪像のくまさんたら頭でっかちなのよ。」
「この雪像は牛舎なのね。牛だか羊だか、全然わかんないわね。私の方がうまく作れるわ。」
「うわぁ竜の雪像よ、凄く良くできてるわ。」
「ねぇママっ、あの屋台のトウモロコシが食べたいっ。」
「この屋台の牛汁、とても美味しいわ。牛肉の油が味の秘密かしら。」
「なあに? おでんというの? この大根、味が染みてて、すごく美味しいの。」
「かぼちゃの煮付けが、ほかほかでたまらないわ。」
「寒い時にホットミルクは、温まるまるわ。」
会場の本部席には三領の男爵が揃い、冬祭りの賑わいに、皆、大満足だ。
「こんなに領外から、観光客が来るとは思いませんでしたな。」
「ルイーズがあっちこっちで、物産展をやって冬祭りの宣伝をしておったからね。」
「宿がいっぱいで、公民館と農学校を臨時の宿泊所にしましたが、それでも足りずに領民の家にも、多勢泊まっているようです。」
「コウジ卿から、三人への宿題ということでしたが、こんなに大成功になるとはね。」
「あの方は、とんでもない救世主ですな。」
「我々の大恩人ですよ。返し切れない恩を受けましたよ。」
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この国の法律は、大雑把でとても法治国家と呼べるような代物ではない。
だから、罪もない幼い子が虐げられるようなことが放置されているのだ。
俺はアレク国王とランドル宰相に明言した。
ちゃんとした公正な法律を作れと。一年以内に作れと。無理だと叫ぶランドル宰相にそれができないなら、今すぐ宰相を辞めろと。
そして、アレク国王に言った。一年以内にできなければ、王家を倒し新しい国を治める仕組みに変えると。
俺がしたことを褒めることしかできない国王など不要であると。
「そちが、その法律の案を作ってはもらえぬか?」
「いいですよ。俺の作る法律は、第一に王家の廃止ですから。すぐにも作りますよ。
そして、それは除外できませんよ。」
国王は、仕方なく一年以内に法律を整備すると約束した。
俺が偶然に出会った、穢けがれとされていた《サナ》と《リミ》であるが、サナは5才、リミは3才の姉妹である。
サナがパンを買うために手放した母親の形見を、まず取り戻すために商人を訪ねたが、白を切るので、代わりにお前の命を貰うことにするというと、そんなことをすれば、警備隊に捕まるというので、お前を殺してから考えることにするよ。と言って、まず腕を切り落とした。
なおも切ろうとすると、命乞いをしサナから取り上げた母親の形見を返して寄こした。
そのあと、警備隊が駆けつけてきたが、俺が護国卿だと分かると、商人を睨みつけ命まで取られなかっただけ幸いだったなと言って、左腕を切り落としてしまった。
この国に法律などないことを改めて認識した瞬間だった。
サナとリミだが、ハーベストに連れ帰って、ナターシャの孤児院へ連れて行ったのだが、孤児院の子供らが優しく話し掛けても心を開かず震えるばかりで、幼い頃から虐待を受けてきた心の傷の深さを思い知った。
俺は決心した。レイネと話し合い許可二人を俺の妹として引き取ることにした。
ロッドも賛成してくれた。そればかりか自分が二人の面倒を見ると言ってくれた。
俺とレイネとロッドとサナとリミ。5人での暮らしが始まった。
レイネは、二人の傍に居れば、サナとリミを抱いて離さず、次第に二人もレイネをら、母親のように慕うようになっている。
ロッドも何かと、外から帰ると二人にお土産を買って来たり、優しいお兄ちゃんぶりを発揮している。
俺は、そんな二人が、暗い表情を見せないか見守り続けている。
寝るときは、四人で一緒のベッドに寝る。
俺、サナ、リミ、レイネの順だ。レイネとは話して決めた。サナとリミが落ち着くまでは、俺達に心を開き、屈託ない子供に戻るまでは、俺達の子供は作らないと。
そんな俺達には心強い味方がいた。誰あろうレイネの母、シモーネである。
彼女は俺達5人が家族として、親密になるまで、遠巻きに二人に接していたが、のんびりとした穏やかな人柄に安心感を持つのか、リミが甘えるようになり、サナも次第に心を許すようになった。
シモーネは二人にレイネが幼かった頃の話やおとぎ話を話して聞かせ、二人の心を落ち着かせてくれた。
その中に時折、ハーベスト伯爵が紛れ込むのだが何も喋らず黙ってサナを膝に抱いている。
サナも心地よいのか、伯爵の膝で、うとうとしていることもある。
二人はそんな中、次第に俺達に笑顔を見せるようになって行った。
二人が大人になって俺達の元から巣立つまでずっと見守り続けてやろうと思う。
【 お知らせ 】
少しの間、お休みしますので、ご了承ください。
異世界で二度目の人生を駆け抜ける。俺の神器はスマホだよ。 風猫(ふーにゃん) @foo_nyan
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