第五章 俺の異世界革命が確固として始動する。
第31話 護国卿は、慈母神で修羅の鬼神。
その年の秋、ウインランド王国のアレク国王に耳には、旧帝国領で新任の貴族達が一番苦労しているという、寒さ厳しい北方のスカンジナ三領がめざましい発展を遂げているとの評判が聞こえて来た。
宰相のランドルから、具体的な報告を聞いたアレク国王は、驚きの声を上げていた。
「なんと、あんなに頑なに他領を忌諱していたコウジ卿が、乗込んで行ったと申すか。」
「はい、左様にございます。コウジ卿は奥方様と二人の伴を連れて、スカンジナ三領に行き、今回の開発を指導したようにございます。」
「初めてだのう、コウジ卿がハーベスト領以外の領地に赴き、他領のために尽力したのは。」
「今回の北方行きでは、農業学校の卒業生との繋がりから、手を貸したようにございます。」
「儂も、旧帝国領に行かせた貴族達のことは、悩ましく思っておった。
元々食糧難の地、開発もままならぬとな。」
「陛下、この度のことは陛下のご命令ではございませんが、我が王国のために貢献したことは確かでございます。
王家として、しかるべき褒賞を与えるべきかと存じます。」
「爵位ならば、護国卿以上のものはないぞっ。
ましてや、彼の者は金品など受け取らん。
十分に持っておるでな。はぁ、悩ましいわ。」
落ち込むランドル宰相と二人して、深いため息しか出ないアレク国王であった。
………………………………………………………
一方その頃、俺達は王都に着いていた。
レイネとスカンジナ地方への帰りには、王都で買い物をすると、約束をしていたからだ。
女性の買い物は時間がかかる。あれこれ迷うのだ。しかして、その迷う時間を楽しんでいるらしい。
加えて今回の伴には、王都に初めて来た侍女のアイリスがいた。街を見て何かを見つけては驚くリアクションが半端ない。それがレイネをまた喜ばせる。無駄な時間を増やす悪循環だ。
俺とロッドは、ただ、ため息をつきながら、二人の女性の買い物の荷物持ちと化している。
「まあっ、このドレス、気品があって可愛らしくて、若奥様にぴったりじゃありませんか。」
「アイリス、これはちょっと可愛らし過ぎます。私はもう既婚者なのですから、もっと落ち着いたドレスでなくては。」
「では、私に買いましょう。」
「アイリスが、着る機会なんてあるかしら?」
「あら若奥様っ、若奥様のお伴をして、夜会や貴族のお茶会に出ることも、これからはありますわ。そんな時、侍女も田舎地味たドレスでは若奥様が恥をかきますわ。」
「分かったわ。アイリスにはこのドレスを。
フィンレー領で頑張ってくれたご褒美よ。」
「やったぁ、若奥様大好きですっ。」
そんなレイネとアイリスのやり取りを聞きながら、街の通りを歩いている時だった。
「ここは、お前らなんかが来るところじゃねえよ。とっとと失せろっ。」
そんな怒鳴り声に驚いて、声のした方を振り返って見ると、パン屋の店先に、幼い子の手を引いた少女がたたずんでいるのが見えた。
「お願いします、パンを売ってください。
この子がお腹を空かせているんです。」
「だめだと言ってるだろうが。犯罪奴隷の子に売るパンなどはねぇ。」
俺は、近寄ってパン屋の主人に声を掛けた。
「親父さん、じゃあ、俺に売ってくれよ。」
「売らないとは言いませんがね。この小娘達にやるなら、止めといた方がいいですよ。
「穢けがれとは、なんのことだ?」
「知らねぇですか。犯罪奴隷の子供でさぁ。
こいつらは親の罪をつぐなう運命でさぁ。」
「親父さん、あんたが罪を犯したら、あんたの子供に責任があるのかい?」
「そりゃあ、仕方ねぇんですよ。そうゆう国の決まりですから。」
「とにかく、俺にパンを売ってもらおうか。」
店先でいくつかのパンを買い、少女に渡す。
「これを食べさせてあげなよ。きみも食べるといい。」
「ありがとうございます。もう3日も何も食べてなくて。母の形見を売って、やっとお金を手に入れて。」
そこまで話して、少女の目からは、涙がポロポロとこぼれた。
たまらず、レイネが聞く。
「親御さんは、どうしたの?」
「母は、一週間前に亡くなりました。父はいません。」
俺達は宿へ二人を連れ帰って、詳しい事情を聞き出した。それによると少女の名前はサナ、妹の名前はリミ。
母親が仕事がなく盗みを働いて、犯罪奴隷にされたとのこと。
その母親は主人である商人から子供を庇って大怪我を負い、それが元で一週間前に亡くなったとのことだ。
宿の主人に聞いたところでは、犯罪奴隷の子には顔の額に入れ墨を入れられ、
話しの途中から、涙を流していたロッドに、俺はその主人の商人を調べるよう指示した。
レイネとアイリスには、二人の世話を任せ、俺は王城へと向かった。
………………………………………………………
アレク国王に謁見を求めると、すぐに許されて謁見の間に通された。
そこには、アレク国王とランドル宰相が待っていた。
「陛下、突然の訪問をお許しください。
スカンジナ地方に行きました帰りで、王都で買い物をしておりました。」
「おおっ、スカンジナ三領での行いは、聞いておるぞ。何か褒賞を与えねばと、宰相と話しておったところだ。
ところで、そちから会いに来るとは何かあったか。」
「お尋ねしたいことがあり、伺いました。」
「なんじゃ、申してみよ。」
「この国に、穢けがれと呼ばれる者達がいるのをご存知ですか?」
「うむ、確か犯罪奴隷の子供であるな。」
「なぜ、罪もない子供達を穢れとしているのですか?」
「コウジ卿、私から説明致します。犯罪奴隷の子供には親の犯した罪を生涯償わせるのです。
そのために、入れ墨を施し一目で分かるようにしております。」
「その罪とは、如何なる罪でしょうか?」
「罪は罪、区別はしておりません。」
「もし、宰相殿がパンを盗んだとしたら、どうなのでしょうか?」
「儂は、パンなど盗むはずがないわいっ。」
「貧しい者達の中には働き口を失くし、食べる物に困り、パンを盗み捕まる者達もおります。
その子らも穢れとされておりますが、如何なる罪でしょうか?」
「それは、やりすぎじゃのう。ランドル。」
「では、ランドル宰相殿の子供らも穢れとなりますね。閣下はやりすぎを容認し、何もしていない子供に罪を着せた犯罪の首謀者ですね。」
「犯罪奴隷の子供らを穢れとして、罪を着せることを直ちにやめよ。ランドル。
でなくば、コウジ卿の言うとおりそちを罪も無き子らを罪人とした罪で、犯罪奴隷とする。
もちろん、そちの子らは、穢れじゃ。」
「は、はいっ。直ちにに穢れを廃止します。」
さて次だ。宿に戻った俺はロッドから報告を聞く。商人名はドケチバルと言って、ケチで汚い商人で有名だそうだ。
事の発端は、幼いリミが誤って、商品の皿を割ってしまったことだ。
それに激怒したドケチバルがリミを剣で叩きそれを庇ってリミに覆い被さった母親が大怪我を負ったとのことだ。
俺はロッドと二人、ドケチバルの店に乗り込んだ。
店の者に主人のドケチバルを呼ぶように言いドケチバルが現れると、ロッドに店に並んでる商品をぶち壊すように命じた。
激昂したドケチバルに、リミの母親の命の値段に釣り合うまで、商品をぶち壊すと告げた。
掴み掛かって来るドケチバルの右腕を、刀で切り落とすと、顔面蒼白になった従業員達が、警備隊を呼べとわめきたてる。
「俺の名はコウジハーベスト。手向かいするとドケチバルに加担して人殺しをした者として、許さぬ。俺は怒っている命はないぞ。」
そう告げると誰も動かなくなった。そのあと警備隊が来たが、護国卿の俺に驚き平伏した。
俺はドケチバルの傷の手当てを厳禁し、牢にぶち込むように命じた。
従業員達には、ドケチバルの暴力を見逃し、リミの母親を誰も助けなかった幇助罪で、全員を犯罪奴隷とすることを告げた。
ドケチバルは、牢の中で出血多量で死んだ。
この事件は、あっと言う間に王都中に広まり穢れを廃止した通知とともに、人々に周知されることとなった。
俺の評判は、この国に発展を齎す偉人から
『護国卿は、弱き者を護ること慈母神のごとく悪行を許さぬこと荒ぶる修羅の鬼神のごとし』
となった。俺の怒りを買えば、国王陛下でも抑え切れぬのだと、広まってしまった。
そんな風評が広まったため、王都の一部の者達が、震え上がったようである。
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