最終話 朝起きたらペットの亀が最強の盾になってた件

 フユは元気にしてるんだろうか。

 母さん、親父、赤羽、白神、苅野、花恋、正樹、園部、時雨、間宮、颯太、学園長、斎川先輩、酒井先輩……、全員、何をしているんだろう。

 ……いや、やめよう、こんな事はもう何千万回も考えた。

 そもそも皆んなが生まれるずっと前、1900年から歴史は変わっている、迷宮や剣の出現が無い訳だから、当然文化も立ち位置も考え方も全て変わってる筈だ。

 

 今何を考えても無駄だ、俺の事を覚えてる人なんて居る訳が無いんだから。




 そろそろか。


 


 目覚めると、いつか見たことのある景色が飛び込んでくる。


「ここは……、船岡山か!」


 バグを初めて倒し、蘆屋道満の力を引き出したあの日を思い出し、懐かしさと共に探索をした。

 と言っても、見つかったのは人一人が住めそうな小屋だけだったが。

 しばらくの住居を手に入れたところで、山を降り現代の街並みを見ることにした。



 太一が街を歩くと、でかいビルのパネルに見知った顔が出て来た。


『本日は次世代を担うお二人に来てもらっています! 赤羽夏美さんと白神吹雪さんです!!』


 テレビに映る二人は、仲良く、しかし対抗してたり、まさにライバルの様に見えた。

 

 パネルから目を離すと、道路を跨いだ向こうに、仲睦まじく話す4人組の姿があった。

 あれは保健室同盟の4人に違いない。

 一瞬太一の方を見て、静止したかと思えば、又話を再開して歩き始めた。


「覚えてる訳、無いよな」


 試しに家にも行ってみたが、『どちら様ですか』と言われるかもしれないのが怖くて、チャイムを鳴らすのは無理だった。


 気づけば日が暮れて、小屋に戻ると一匹の亀がいた。


「……フユか?」


 当然答えは無い。


「寝るか……」


 わかってる。

 この選択をしたのは自分だと。

 こうなる事を理解して選んだんだって事を。

 でも、なんだかとても悲しくて……




『ご主人様!!』

「後5ふ……、ん? ご主人様?」


 太一は、どこか期待を持って周りを見回す。

 しかし何も無い。


「なんだ唯の幻聴かっ……?!」


 太一は、足を滑らせ転びそうになる。

 咄嗟に受け身を取ろうとする太一だが、その必要は無くなる。

 太一の体は、突如現れた盾によって支えられた。


「フユ、元気にしてたか」

『……うん、久しぶり、ご主人様』

「見ての通り、寂しい小屋暮らしなんだ」

『寂しくは、無いと思うよ』


 すると、遠い昔聞いた懐かしい声が聞こえる。

 これは……正樹の声だ。


「太一、だよな? いや、すまん、俺も良く分から無いんだがお前と仲の良い友達、だった気がするんだ」

「正樹……、そうだ、俺は確かにお前と友達だった、良くオタトークで盛り上がったんだ」


 正樹に続いて、園部や花恋とも再開して、その記憶を確認した。

 

「やっぱり、太一なのよね、ずっとあるもやもやがやっと解決した気分」


 赤羽も、白神も。


「よう! 信じられねぇなこんな平和になって、太一、良くやったよお前は!!」


 酒井先輩も、斎川先輩も、学園長も。


「太一、母さんはずっと太一のこと忘れてないからね」

「俺が太一の事を忘れる訳ないだろ」


 母さんも、親父も。


『ね、寂しくないでしょ? ご主人様』

「ああ、そうだな」


 太一は、フユを指輪にして指に嵌める。

 そうして指輪をそっと撫でて、微笑み掛ける。


「これからもよろしく」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

朝起きたらペットの亀が最強の盾になってる件 キムチ鍋太郎 @1089kaijitodemoiutoomottaka

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ