第4話 面倒な相手

徐々に人が増えてきて、喧騒がより大きくなっていく。

その中に私達も混ざり、靴箱の方へと向かう。


そして、靴を取ろうとした時。


中から紙が1枚落ちる。


「…」

「ひよりちゃん…?」

「…嫌な予感がする」

「あー…無理に開けなくてもいいと思うよ?」

「いや、一応見る」


どうやら封がされているらしく、開けるのが面倒な作りをしているようだ。

いつもなら苦戦する…ようなそれをいとも簡単に開けてしまった。

…なんでだろうか?


「えー! ひよりちゃんってそんなに器用だったんだ!」

「…分からない」

「あんまりイメージなかったけどなぁ…」

「…何か失礼じゃない?」

「あ、あぅ…ごめんね…?」

「大丈夫」


そこには一通の手紙のようなものが入っていた。


―…―

おい?

なんで練習に来ない?

こっちは指導してやると言っているのに

全く、はた迷惑な野郎だな?

おかげさまで連携も組めやしない…

その小さな小さな脳みそでは考えられないかw

お前が休むことで起きる弊害ってのがね?


じゃあ、今日は待ってるぞ?


お前が手も足も出せない人間 より

―…―

「…」


やはり、というべきか琴吹さんからの手紙らしい。

わざわざ口で言わずに、文面で渡すという所が彼女の血筋を表しているかのようだ。

…実際、私が休むことで出番が2つ抜けているわけだから、今日くらいは練習に行くか。


「ひよりちゃん…大丈夫?」

「うん、大丈夫」

「ちょっと見てもいい…?」


軽く頷いて手渡す。


「これは…琴吹さんらしいと言えばらしい…けど、ひどいよ…」


そらはいつも私のことを過剰に心配してくる。

そこが彼女のいいところでもあるのだが、少しばかり行き過ぎているのではないかと常々思う。


「…今日は練習に行くよ」

「えっ…!ダメ…とも言えないけど、危ないと思うよ…?」

「大丈夫。そんな気がするから」


先程から違和感を感じていたのだ。

やたら器用だったり、力が強かったり、疲れもほとんど蓄積していない。

これは…【身体能力の強化】の影響なのではないかと思っている。

身体能力とは単純な運動能力だけではなく、器用さや代謝なども含まれる。

…つまりは、家から出る時のアレ、と封を開ける時のコレは、まるでこの世ではないかのような世界で授かったものがこちらでも影響しているのではないか?

―と、考えたわけだ。


「…ひよりちゃんがそう言うなら」

「うん、任せて」

「私も応援してるから…!」

「ありがとう」

…―…―…―…―…―…―…―…―…―…―授業が終わり、放課後。


ほとんどの生徒が帰宅や部活に勤しむ中、体育館には数名の生徒が集められていた。


「さて、明日学校が終わればいよいよ体育大会だ!…先生は用事があるので、個人練をしてくれ!」


手短な挨拶…というよりも忙しいので焦っているのか、一言告げると小走りで体育館を出ていく。


「じゃ、みんな!クラス別に練習しようか!」


やたらと声が大きい男子生徒が仕切り、クラス別に練習することになった。

…面倒臭いな。


「おー、臆せずにやって来たな?」

「…練習が面倒臭いだけ」

「ふーん…まぁ、そう言っていられるのも今のうちだけどね」

「ま、まぁまぁ…里浦さんも足が遅いわけじゃないから…」

「あ?私より遅いヤツが何言ってんだ?あまり調子に乗ると痛い目見るぞ?」


先生がいなくなった瞬間に、態度を急変させる琴吹さん。

実際、琴吹さんはクラスの女子の中で一番速いので文句は言えないようだ。

それに合わせ、取り巻きたちも雰囲気を変える。

己の実力でリレー選になった人も居心地を悪そうにし、今すぐにも帰りたいという意思が伝わってきそうだ。


「…それじゃあ、トップとアンカーは頼んだよ?w」

「…できることはする」

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―表裏世界― 抹茶嫌いのmattyan @mattyan1111

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