第3話 表世界
昨日のは一体、何だったのだろうか。
夢…にしては現実味があった。
そんなことを考えながら黙々と食事をする。
「ねぇ、ひより?」
「…ん、なに?」
「あと数日で体育大会っていう話だったけれど大丈夫?」
「…うん、別に」
運動能力が平均…普通の私。
そんな私だったが、1番恐れていた事態が起こってしまった。
―…―…―…―…―…―…―…―…―…―…
「おーい、みんな席につけー!ホームルームだぞー!」
ガヤガヤと騒いでいた教室が、担任の一言で少しずつ引いていく。
「さて、今日は大切なお知らせがある!男子諸君…。騒ぐんじゃないぞ?」
そんな声を聞き、ちらほらと「お?」という声が上がる。
「残り1ヶ月…も無いな。遂に体育大会のリレー選手が決まったぞ!」
「「「「うぉー!!!!!!!!!!」」」」
野太い声が耳を劈く。
…正直、煩い。
「じゃあ、まずは男子から行くぞ?1人目!田中!」
「お〜」という反応だけを残し、名前は大して聞きもしなかった。
「よし、次は女子だ。1人目!琴吹!―…」
女子の方も特に反応する理由もないのでスルーをしていた。
―だが。
「それじゃ、最後だ!…里浦!」
「え?」と、思った。
いや、思わず声に出ていたかもしれない。
「「おー!」」
「流石!ひよりちゃんは何でもできるからね!」
「く〜!私、0.1秒差で負けたんだよ!」
「それでも速いじゃん!」
「里浦さんって足速かったんだね!」
「な、あんまり目立つイメージが無いというか…あ、いや、悪く言ってる訳じゃないんだけど…」
そう。
速いわけでも無いのに選ばれた訳。
いじめっ子グルーブがわざわざ調整をしたというのだ。
前年の50mと100mの速さを聞いて、ある程度の予測を立てたらしい。
…正直、馬鹿馬鹿しいとは思う。
周りのクラスより遅い自分を見て笑いものにでもしようと思っているのか。
そんな魂胆が手に取るようにわかる。
しかし、なってしまったものは取り消せない。
それに、普通に走って普通にゴールをすれば何も問題は無いはず。
―…―…―…―…―…―…―…―…―…―…
と、いうことがあった。
あと数日…興味がなかったので忘れたが、恐らく2日後くらいだった気がする。
勿論、親も来ることが出来るが…父親は無理だろう。
もしかすると、母親の方は来るかもしれない。
「…とりあえず、今日も頑張ってね?」
「うん、分かった。親不孝者にはなりたくないからね」
「ふふっ…ありがとう」
「じゃあ、行ってきます」
「えぇ、行ってらっしゃい!」
と、扉を開けた…はずだった。
いつもは、両手を使えば楽にあけられる…くらいの重さだったのが、片手でも…いや、正直人差し指だけでも開けることが出来そうだった。
ただ、扉の前で止まるのもおかしいので、とりあえず出かけることにした。
―…―…―…―…―…―…―…―…―…―…
「ひよりちゃん!」
「…ん、おはよう」
家から出てしばらくすると、見知った顔が走ってくる。
彼女の名前は、
私と同じで目立つことは少ないが、周りのために何かを尽くそうと努力できる優しい子だ。
いつも通り、彼女と登校をする。
「なんというか…大丈夫?」
「大丈夫。明後日でしょ?」
「うん。そうだけど…練習にも1回も顔だしてないでしょ?」
「問題があった?」
「いや、順番とか決まってるのかなって」
「ん…私はどこでもいいかな」
リレーというものを…知らない人はいないと思うが、私が通う学校では「アンカー」というものがある。
このルールを導入している学校も多いかもしれないが、最初の走者を最後にも走らせるというものだ。
何故、こんなルールができたのかは知らないが、「なんか盛り上がるし良くね!?」みたいなことを騒いでいた気がする。
「ひよりちゃん…聞いた話によると、アンカーって言ってた気がするけど…」
「…え?」
「あの…
いじめっ子グループの1番上だ。
彼女は運動神経が良い。
いや、良すぎる…と言った方が正しいか。
どうやらいい所のお嬢様らしく、親に反発をした結果…こうなったという。
親は勉強に専念させたいみたいだが、陸上部に入って優秀な成績を残してしまったので文句を言えないみたいだ。
「琴吹さん…か」
「あ…ごめんね、気分がいい話じゃないよね…」
「いや、大丈夫」
「ごめんね…」
と、話していると学校が見えてくる。
…今から彼女と会うと考えると面倒になってきた。
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