第31話 要求
「いかにも俺がギルバートだ。勇者をやっている」
男は覇気の無い声でフレイの問いかけを肯定した。
「これは、誰がやったんですか? そこにいたなら見ていましたよね? 誰が爆撃術式を撃ったんですか?」
「とぼける必要はない。君も気づいているんだろ?お嬢さん。爆撃術式を撃ったのは俺だよ。確かに、小屋に防御結界が張られていないことは想定外だからここまで跡形もなく吹き飛ぶことは想定外だったけどね」
勇者を名乗る男が悪びれることも無く肯定をしたのと、フレイが滑るような動きでギルバートとの間を詰めて首筋に手刀を打ち込もうとしたのは同時であった。
流れるように打ち込まれた手刀をギルバートは半歩下がるだけで交わして見せた。
そのままバランスを崩したフレイの腕を掴んで捻るとフレイは簡単に組み伏せられてしまった。
「ふむ。一つ一つの所作は確かに達人のそれだが奇妙なほど弱い。これが例の呪いの効果か」
組み伏せたままフレイの背中に魔力を通して呪いの性質を調べようとするギルバートに対してフレイは勝利を確信した。
フレイは呪いのせいで自分が弱くなっていることを理解している。それでも圧倒的強者であるギルバートに挑んだ理由は、小屋を破壊されたアリーザが黙っている訳がないという確信があったからだ。
そのためにフレイは捨て石になった。確実な反撃のための犠牲は、しかし報われなかった。
「課長!なんで黙ってるんですか!」
フレイが頼みにした存在は普段の攻撃的ななりを潜めてただそこに立っていた。
「いつかはこうなると分かっていたよ」
「そうか、では話が早い。遊びは辞めてこっちに帰ってこいアリーザ。お前の力が必要になった」
「後任は育てたはずだよ」
「お前ほど役には立たない。タンクとして前線に付いてこれる兵站責任者がそう簡単にいてたまるか」
「ちょっと待ってください!」ギルバートの拘束を解かれていたフレイが声を張り上げた。「勝手に話を進めないでください!」
アリーザとギルバート、二人がフレイを見た。
「確かに。お嬢ちゃんも当事者だ。聞く権利がある」
フレイが立ち上がるのを待ってギルバートは続けた。
「では要求を伝えよう。金融課を解散させて俺の元で働け」
アリーザは何も言わなかった。
「そんなこと、できるわけ無いでしょ!」
フレイは怒っていた。急に現れてオフィスを破壊されたばかりか、ギルド内部の人間ですらないのに部署の解散を要求して引き抜きを行おうとしていることに激怒していた。
「理由を聞こうか、お嬢ちゃん」
「課長は金融課での仕事で、たくさんの人々の命を救ってきたんです。そして、まだまだたくさんの命を救い、ダンジョン探索に革命を起こす可能性があるんです! 課長も課長です、なんでこんなやつに言われっぱなしになってるんですか?! 勇者だかなんだか知りませんが、金融課解散は私が断固として阻止させていただきます!」
ギルバートは口角をつり上げた。
「そうか、お嬢ちゃんの覚悟はしかと受け止めた」そして、こう続けた。「じゃあ、お嬢ちゃんが証明してくれ」
「なにを?」
「アリーザの代わりにふさわしいかどうかだよ。お嬢ちゃんがアリーザの代わりを務められる存在なら俺は無理に金融課を潰す必要はない。わかるだろ?」
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