第8話

僕が目を開くとそこはまだ地下牢で、ネコミミ少女が目の前にいた。

なんだかよくわからないが、転移できなかったらしい。

彼女にとっても予想外だったらしく、驚いた表情で自分の手と僕を見比べたりしている。

「助かった……」安堵のため息を吐く。

元の世界に戻すと言われたときは終わったと思った。

元の世界の僕は高層ビルの屋上から足を滑らせ落下中で、もしその瞬間に戻されたら次の瞬間には地面に激突して終わりだ。

だけど、この世界での扱いを考えると、元の世界の方がよかったかなと若干の後悔もある。

何故そんなに敵視されるのかわからないのがなおさら怖い。

このあとどうなるんだろうか。一先ず強制送還は回避できたが、この先、異世界人たちに殺されない保証はない。むしろついさっき撲殺されかけたし、なんか謎魔法撃たれたし、生きているのが不思議なくらいだ。とにかく話しかけなければ。

「ぼ、僕はあなたたちの味方です……」

『いえ、あなたは神に派遣されました。神は我々を苦しめる存在です』

神が我々を苦しめる?

「じゃあ、僕をどうしますか?」

『殺したくはありません。しかし、やむを得ない場合はあります』

「なぜ……」

『我々は多くのものを失いました。魔王の侵攻が事の発端ですが、異世界人は我々を裏切りました』

ネコミミ少女は泣きそうな顔で語り始めた。

『我々がいけないのです。自分で生み出した力ではなく偶然手にした強力な力を信用してしまった。しかし、それは神が行った不正行為だった。正しくない力はいつか牙をむく。私たちは、彼ら自身もそれを理解していなかった』

彼女はふうと一息ついた。

『だから、我々はそのような神による不正行為を排除する』

なるほど。なんとなくわかってきた。

『でも、あなたの能力は先ほど削除された』

「え?」もう飛べないってことか?まあ、命には代えられないが、まだいろいろ試してみたかったのでショックだ。

『一度実験を行う。その結果で判断する』

「実験とは、どんな?」

『能力発動実験だ』


僕はようやく地下牢から出してもらえた。足のロープを切ってもらい歩けるようにはなったが、腕は後ろで縛られ首輪につけられた鎖で引っ張って歩かされた。

地下牢をでて階段を上がると、広い食堂のようなところに出た。無数のテーブルが並んでいて、様々な容姿、服装の男女が座っている。彼らにじろじろと見られて、僕は居たたまれない気持ちになった。くそう、悪いことは何もしていないのに。

僕がラノベを書くとしたらこんなタイトルだろう。

「推しのアイドルが妊娠したから絶望してビルから飛んだら異世界で罪人になったでござる」

不幸でしかない。チートも俺ツエー展開もないのはまあ仕方ないが、せめてかわいいヒロインとの恋愛フラグが欲しい。

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異世界転移してチート能力で無双しようとするやつらを討伐するギルドを作りました 浅川さん @asakawa3

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