第7話

『そうしたいのですができません』

「なぜだ?」

『死んでしまいます』

ふむ、転移する者たちは別の世界で死んだ者たちだと以前別の異世界人が言っていた。彼もそのパターンなのかもしれない。

「じゃあこの地下牢で一生暮らすしかない」

『何故ですか』

「君という存在は此の世界に不要なんだ。本来存在しない力だからね。それは危険な力だ」

世界を救う勇者は必要かもしれない。しかし、努力も苦労もせず突然手に入れた力は大抵の場合、うまく使われる事は無い。現に我々は一度失敗している。神とやらが何を考えているのかは知らないが、もう思い通りにさせるつもりはない。

「我々にはかけられた魔法を解除する術がある。転移魔法も解除され、元の世界に戻れる」

『お願いです。助けてください。あなたの力になります』

ほう?

「では、奴隷契約を結び、馬のようにこき使っても構わないのか?」

『はい』

私は少し考えた。彼は素直な異世界人だ。これまでの高圧的で調子に乗った馬鹿者どもとは少し違う。彼をうまく味方に引き込めば協力な戦力になるのでは?

しかし、神が魔王と等しい存在だとすれば魔王の手先を懐に忍ばせることになる。

本人にその気がなくとも操られて暴れるとも限らない。

彼の能力も覚醒していないだけで、どれほど危険かわからない。

私はこのギルドを、この町を、この世界を守らなくてはならない。

「もう話すことはない。さらばだ異世界人よ」

私がそう言うと彼は悲しそうな顔をした。

心が痛まないと言えば嘘になる。正直やりたくてやっているわけではない。

でもあの地獄を繰り返すわけにはいかないのだ。

手を彼に向ってかざし、魔法を強制解除する呪文を唱え始める。

転移魔法だか神の加護だか知らないが、何等かの魔術であればそのコードが存在して、どこかに接続している。この呪文はその接続を断ち切る性質がある。

元々は対魔術師用の呪文だが、この呪文で4人の異世界人を元の世界に戻している。

仮に異世界人でなかったとしても肉体にダメージは無い。

右手につけた発動媒体である魔石のついた指輪が輝き、やがて右手全体が輝き始める。

今だ!

「プロトコル・ブレイカー!」

光が地下牢を満たし、そして消えた。

そこには中年のおじさんが縛られて横たわったままだった。

あれぇ?

おじさんも呆然としている。健康状態に異常はなさそうだ。

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