結果発表

「言えなかった言葉はローマを折り返してどこに行ったの」

「ああ、あれな。あれは全部嘘だ」

 放課後の教室で、僕と海原は卒業証書の入った紙筒をそれぞれ持ちながら結果発表をしていた。

「いや元も子もない」

「こんな結果になってしまい非常に申し訳ないと思ってる」

「四国行って、インド行って、ローマ行ってたんじゃないの」

「全部嘘だ」

「ええー……」

 がっかりしたように海原は肩を落とした。じゃあ今までのはなんだったのか、と眉間の皺が言っている。

「結局どこに行ったのよ」

 当然の質問だ。もちろん答えも用意してある。

「どこにも行かなかったんだ」

 僕は高校三年間で見つけた、本当の結果を彼女に伝えた。

「この言えなかった言葉は、ずっと僕の中でぐるぐると動き続けただけで、どこにも行かなかった。多分これからもそうだと思う」

 これが僕の導き出した結論。

 そして、ここからが。

「ちなみに」

「ちなみに?」


 ──ここからが僕のようやく導き出せた、勇気の作り方だ。


「こいつは結構な暴れん坊でして」

「そうなんだ」

「僕の中で暴れに暴れて、もう結構なストレスなもんで」

「なんかごめんね」

「だからさ」

 彼女に言えなかった言葉はいくつあるだろう。

 耐えて、耐えて、それでも消えてはくれなくて。

 消えてほしいわけじゃなかったことに気付くのに随分かかっちゃったな。

「いっそ全部吐き出して、すっきりさせたいんだよ」

 もう引き返せない。

 今までの僕なら、こんな勝機のない戦いには挑まなかっただろう。空気を読んで、当たっても砕けるだけと分かっているなら避けていたはずだ。

 こんなの僕のキャラじゃない。柄でもなければ、ましてやガラクタでもない。

 だから、宣言する。


「今から柄でもないこと言います」


 僕は彼女を見る。彼女もこちらを見つめている。

 放課後の教室で、僕と海原は秘めた言葉の行く末を見守っていた。



(了)

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秘めた言葉の行く末は? 池田春哉 @ikedaharukana

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