眠り姫の誕生と、目覚めの物語。

水蛋 白石

第1話

 ある長い長い夢のひとかけら。

 その夢の主は、見覚えのある姿よりも背が伸び、少し成長した青年になりかかっている少年が魔物と戦っているところが見えた。

 夢の主は、少年の姿が誰かははっきりとは思い出せないけれど、目の離せないその姿をしばらく眺めていた。

 その少年が、体を傷だらけにしながらも、魔物を倒すことに成功した。

倒した魔物からあふれてくる光を少年が吸収している途中で、突然、視界がぼやけ始めた。そして、意識もぼやけていった。




家を出ると、玄関の先には、隣に住んでいる長い金髪をまっすぐにおろした碧眼の容姿端麗で成人すれば絶世の美女になるだろう幼馴染が学園の制服を着てそこに立っていた。

「おはよう!ウィン」

と生気のあふれた声が耳に届いた。

「おはよう。ネフィ」

無表情で返して、歩き出すとネフィリア=オーロックが横に並んで歩いてきた。

「今日もね。お父さんは朝ごはんの時間になっても起きてこなかったから。でね、今日は、お母さんが、魔法で作った氷をお父さん背中に当てたら飛び起きたんだよ。」

「おじさん、変わらんないなぁ。」

トラリアの王都の学園へと少女の昨日あった学校でのうわさ話、面白かったことなどの話を聞き流しながら相槌を打つのが、朝のウィンリア=バルトナーの日常だった。




しかし、その日は違った。

学園への近道をなる少し人通りの少ない裏通りを2人でいると、ウィンはいつの間にか小汚い男たちが3人につけられていることに気が付いた。

隣を歩くネフィの容姿はとても優れているため、このように、狙われることが度々あった。

また、ウィンの容姿も悪人顔なのを除けば優れていた。なので、ウィンが一人の時もネフィに比べれば頻度が少ないけれども、たびたびこのようなことがあった。

けれども、その大半が学園の制服を着ていることを知ると逃げていくことまでがセットであった。なぜなら、この制服を着ている学生は、学園で実技として、体術と魔法を必ず学んでいるため痛い目を見るということを知っているからだ。

その3人は、だんだんこちらに近づいてきており、ウィンはそちらに意識を向けていた。

それから、しばらくウィンはネフィの話を聞きながら、その3人に意識を向けていた。

すると突然、走ってその3人がこちらに向かってきた。

ウィンは振り返り拳を構えると、こちらに向かってきた肩を上げ殴り掛かってきた1人目の腕をつかんで、大きく投げ飛ばした。

2人目は、さびたナイフをこちらに突き出してきた。体を半身になるように回転させ、よけた。その勢いをつかって蹴った。男は悶絶した。

ウィンがネフィのほうを見ると、少し離れたネフィは地面に横たわっておりフィンは己の思考が温かみを失っていくのを感じた。

彼は彼女を見つめている小汚い男が、何らかの道具を彼女に向けているのを視界にとらえ、無属性魔法の身体強化を肉体が耐えられる限界まで強化した。

強化された身体能力を発揮し、男まで駆けた。彼はその勢いそのまま男を蹴り飛ばした。

その後、他の2人の右足にけりを入れ、しばらく動けないようにした。



彼は吹き飛ばされ壁に打ち付けられた男のもとに向かうと、壁に当たってしまったのかひびの入った道具が転がっていた。彼は、道具を拾い、その後、男のみぞおちあたりを蹴った。

 「死なないように加減したはずだ。起きろ。」

と彼は、冷たく低い声で言い放った。

すると男がこのまま逃げられないと悟ったのか、目を開け、少年を見た。

「ヒィッ」

と小さく声を上げた。



突然、腹に激痛が走った。

それで、意識がはっきりとすると体中が痛かった。特に背中とみぞおちあたりのいたにがひどかった。

のどに、何かが当たっている感触もあった。

仲間の悲鳴が聞こえた気がした。

少し、耳に意識を集中していると、暗く低い声が耳へと届いた。

その声の言葉に従うと、見覚えのある顔が目に入った。自分がついさっき金に釣られて、襲おうとした女の連れだ。

さっきまでの、女に相槌を打つ時の声と全然違う。

その無表情な顔を見ると、全身に悪寒が走った。

襲撃前も無表情だったが、今の無表情は何かが違う。

声じゃない。表情も相変わらずの無表情だ。

と考えていると、仲間の悲鳴なんか気にならないくらいの、暗く低い声がまた聞こえた。

「これは、なんだ?」

その声の主が気になった男は、目を開けた。目に入ってきたのは自身の片田の上にいる少年の姿だった。

その少年は左足で、俺の膝を踏んでいた。

その左手は、左の足の上に載せられており、その手には俺が持っていた魔道具があった。

俺は、質問に答えるべきか迷った。奴らの情報を漏らせば、報復がされるのではないのかと怖かったからだ。

経験上、金払いは良かったが、あの手の連中は、ヤバい。裏切ればどんな報復が待っているかがわからない。俺みたいな浮浪者はいくら死んだところで騒ぎにならないから、良くて殺され、最悪、人体実験のモルモットにでもされるだろう。

男、リアムはこの時、激しくこの仕事を受けたことを後悔した。

リアムが後悔をしていると、膝に痛みが走った。

また、息苦しくなった。

「右の膝を壊されたくなければさっさとはけ。」

少年は、初めて、魔道具でなく、自分の目を見た。

心臓が凍ったと思った。

ヤバい。

ヤバい!

ヤバい!!

ヤバい!!!

ヤバい!!!!

ヤバい!!!!!

あの目は。

あの死んだような昏い眼はヤバい!!

自分を命だとは思っていない奴の眼だ。

そう思った時には、自分がそれまで何を恐れていたのかを口が忘れたかのように、勝手に口から言葉があふれてきた。

「ま、魔道具だ!」」

「で?」

 膝の痛みが増した。息苦しさも増した。

 「相手を眠らせる効果の魔道具だ!」

 「解除方法は?」

 「し、知らない。ギャァァァァ!痛い!イタい!!イタイ!!! ほ、ほんとに知らないんだ。」

右足からの痛みが少し和らいだ。

息苦しい。

「狙った理由は?」

「金だ!黒い服を着た男たちがここを通る思慮の足りたい顔のよい男女のガキを連れてこいって」

リアムは、足のほうからくる寒気を感じながら、できるだけ素早く答えた。

その後、少年のほうに、向くと相変わらずの死んだような昏い瞳があった。

そして、リアムはその瞳に寒気を感じつつ、意識はだんだん薄れていった。




耳に入ってくる雑音を聞きながら、男と問答をした彼は、男の首を抑えていた手で頸動脈を圧迫し、男の意識を飛ばした彼は、彼女のほうを見た。

男から聞いた通り、彼女は眠らされており、彼女胸は上下に動いていることが確認できた。

彼は、彼女のほうを見ながら、3回ほど大きな深呼吸を意識して呼吸をした。


ウィンが深呼吸を終えると、背後にある人通りのある道から誰かが近づいてきていることに気が付いた。

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