第16話 似非不思議噺・こっくりさんの真実

「—―霊的なものをおもしろがっておもちゃにするのはよくないです」

 

 これは、前話にいただいたコメントである。

 コメ主は敬愛する烏丸千弦氏だ。

 文中の児童らに対しての諫言なのだが、見えない聞こえない感じないの霊界三重苦であるがゆえの霊的なものへの畏敬の念を失いがちの自己への戒めとしてありがたく受け取った。

 

 反省を込めて、蒙昧な子ども時代の愚行を晒すものである。

 



【こっくりさんの正体】


 中二の頃――

 放課後に女子四人でこっくりさんをやろうということになった。

 本当は早く帰ってアニメの再放送を観たかった自分は、さっさと終わらせるべく意識的に硬貨を動かしまくり、サクサクと質問に答えていった。 

 そんな中、「私のことを好きな男子は誰ですか?」という恥じらいの欠片もない女子生徒Aの質問に、微妙に間違った名前を示して空気をざわつかせた。「かじわら? そんな名前の人いないよね?」と他三名が顔を見合わせた。

 名前が違う? 気を利かせてAの意中の男子の名前を答えたはずだったのに。

「もしかして、それは、かじの間違いですか?」とのAの再度の質問を受けて、私は即座に硬貨を動かした。『そ れ』と。

 簡単に『はい』と答えてもよかったかもしれないが、その時は焦っていた。

 そもそも二次元の美形ならいざ知らず、クラスも違う男子生徒の名前など正確に憶えているわけがない。

 

 こっくりさんの起源は、十五世紀の西洋で始まった占いの一種であるテーブルターニングであると云われている。

 数人で不安定なテーブルを囲み、その上に手を乗せる。暫くそうしているうちにテーブルが傾いたり揺れたりし始める。当時の人はそれを霊が動かしていると考えた。

 その進化形がアルファベットを使う会話形式になったウイジャボードだ。

 それが日本に伝わったのは、1884 (明治十七)年のことである。伊豆半島の下田に漂着したアメリカ人の船員によってもたらされた。

 当時の日本ではテーブルが普及していなかったため、おひつを三本の竹を脚にして支えたものを代用した。そのお櫃がこっくりこっくりと傾く様から「こっくりさん」と呼ばれるようになり、この「こっくりさん」に狐狗狸の漢字を当てはめ、動物霊が憑依するという独自の設定が加えられた。

 こっくりさんの仕組みの正体は、不覚筋動と観念運動効果、予期意向によるものと推測されている。

 不覚筋動とは、意識せずに身体が勝手に動いてしまう人間の生理的な現象のことである。長距離を走ったり筋トレをした後などに、筋肉がピクリと動くことがあるのがその例だ。人体のメカニズムでは静止している方が難しい。よって不覚筋動の微妙な動きが操作として伝わらないようにするため、車のハンドルやブレーキなどは、この不覚筋動を計算に入れ、「遊び」と呼ばれる余裕が設けられている。

 こっくりさんの最中は、参加者は常に人差し指を伸ばして硬貨に触れていなければならない。謂わばこの緊張感を伴う疲労状態にある指の筋肉が硬貨に伝わって筋動が起こり、これがあたかもひとりでに動くように見えてしまうのである。

 この不覚筋動に、潜在意識によって回答を予期する予期意向と、イメージしたことが無意識のうちに実際の動きに反映される観念運動効果とが相互に働いて答が出される。したがって、自分たちの潜在意識にヴィジョンがない質問には答えられない。

 エビデンスとして、参加者の視線の動きが硬貨が動く前に答の文字に移動していたという測定結果も出ている。

 不覚筋動で動く硬貨を見て自己催眠がかけられ、潜在意識の働きによって答を導き出す。つまり、参加者自身がこっくりさんだったのである。

 では、時として集団パニックが起こるのは何故か?

 それは、こっくりさんの儀式手順が催眠術の誘導に似ていることが原因だと云われている。身体の力を抜き、「こっくりさん、こっくりさん」と繰り返し唱えることによる言葉の暗示と神経を一点に集中させるといった行動により、催眠状態に陥った参加者の一人が過呼吸を起こしたり意識を失くしたりするなどして、同じ空間にいる集団に連鎖反応が起きることがある。所謂、集団パニックだ。

 これは、共感性が高く、人間関係や受験などの問題を抱えて心理的に不安定な思春期の女子に多く見られる現象である。


 悲報( ;∀;) こっくりさんに参加したその日、結局アニメの再放送は観られなかった。



                                  つづく


 次回:霊視を頼まれる。

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