第15話 似非不思議噺・トイレのブロ子さん
夏休みの課題の一つに自由研究というものがある。自由と銘打ちながら「する」「しない」の自由はない。
休みの間じゅう明日やろうはバカ野郎を繰り返した挙句、何もしないまま二学期を迎えてしまうのは毎度のことだった。
そんな正真正銘のバカ野郎だった小学生の夏。
四年生になったその年も、例によって二学期の始業式の後――
夏休みの課題の提出期限を翌日に控え、尻に火が点いた自分は自由研究のための行動を開始した。
今年も『押し花』で行く。そう決めて、さっそく草花の採集に取り掛った。
下校する児童たちを横目に、校舎の裏や中庭で手頃な雑草を見つけては適当にちぎって手提げ袋に放り込んだ。こうして摘み取った草をセロハンテープで画用紙に貼り付けた代物を『押し花』と称し、自由研究として提出する算段だったのである。
ちょうどトイレの裏あたりをうろついていた時だった。
中から複数の女子の話し声が聞こえてきた。何を喋っているのだろうと、しばらく聞き耳を立てていると、一人の明瞭な声が届いた。
「はーなこさん」と。
その後、少し間を置いて、もう一度「はーなこさん」と言い、「いますかぁ?」と続けていた。
どうやら彼女らは、トイレの花子さんの検証 (ごっこ) をしているようであった。
まったく。放課後に残っている児童にろくな者はいない。自分も含めてだが。
「はぁ~あ~い♪」
その返事の声は、我ながらとても可愛らしかった。
すると次の瞬間、「ぎゃぁあああーっ‼!」という凄まじい悲鳴が上がり、バタバタと走り去る音がした。
帰宅後、さっそく押し花の作成に取りかかった。植物図鑑で名前を調べ、よくわからない草は廃棄するなどして、ものの三十分ほどでやたらと瑞々しい (生々しい) 押し花が出来上がった。
翌日、『自由研究』を携えて登校すると、ちょっとした騒動が起こっていた。
「トイレの花子さんが出た」あるいは「見た」という児童が続出していたのである。
見た……!?
オカルト界の女王・トイレの花子さんが、ついに我が校にも降臨したのだった。
その年の二学期前半の話題は『トイレの花子さん』一色だった。
件のトイレは当分の間、使用禁止となった。
つづく
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