第14話 似非不思議噺

 見えない聞こえない感じないの霊界三重苦の自分だが、思い返す度に「あれは何だったのか?」と未だに首を傾げる不可思議な体験がいくつかある。




 1.仏壇の御りん


 2020 (令和二) 年、夏の終わり。

 実家に帰省した時のことだ。

 仏壇の前で手を合わせていると「チーン」と御りんが一回鳴った。

 仏壇に参る際には読経の時以外は御りんは鳴らさないものだと教わっていたので、自分が鳴らすはずはない。ましてや周囲には誰もおらず、人為的なものでないことは確かだった。ならば幻聴か? 否、実際にこの耳で聴いた。宙空から湧き出るような澄んだ玲瓏な音色は今も耳に残っている。

 でも多分、近所で誰かが鳴らした御りんの音か、それに似た音が何処からかたまたま聞こえてきただけだったのかもしれない……と思うことにしている。



 2.暗闇や幽霊が怖いということがわからない


 これは体験したというよりも、常々思っていることである。

 人は何故、暗闇や幽霊を怖がるのか? 自分はこれが不思議でならない。

 江戸時代の俳人、横井也有が詠んだ「化け物の正体見たり枯れ尾花」という有名な句がある。恐怖心に囚われていると何でもない道端のススキまで恐ろしいものに見えてしまい、本質を見誤ることになりかねないという意味が込められているらしい。

 これまでに幽霊や妖怪変化の類は見たことはないが、いたとして、何故恐れる? 悪意を持っている人間の方がよっぽど恐ろしいのに。実際、死霊より生霊の方が強力だと聞く。

 だが、霊界三重苦の自分でも時々妄想することがある。もしも部屋にそういう類のものが現われたら……と。

 そしたら断固として家賃を請求する。

 無料で居候させてやれるほど自分は寛容でもなく裕福でもない。貨幣経済が幅を利かすこの現実社会で肉体を維持して生きていくにはお金が必要不可欠である。

 よしんば通りすがりであるなら通行料を、休憩ならば相応の料金を、請求して然るべきであろう。曲がりなりにも部屋の所有者は自分である。

 なので、毎月百万円の家賃を払えるなら住ませてやってもよいと思う。幽霊になれる超能力があるなら百万円支払うくらい造作もあるまい。何も万円券を百枚耳を揃えて差し出せと言っているのではない。銀行口座にチョチョイと数字を書き足してくれたらいいだけのこと……と妄想する。



 3.天体


 夢や幻ではなく、実際に見た天体現象三件。


 【太陽の巻】

 小学三年生の夏休み。

 外で元気いっぱい遊び呆け、夕暮れに近い時刻になって、ひとりで家へ帰る途中で目にした忘れられない光景がある。

 いとけない九歳の自分が見たもの。それは、西に傾きかけたオレンジ色の大きな太陽がどんどん崩れていく様だった。太陽の表面に無数の亀裂が入り、ゆらゆらと揺らめきながら壊れていく。亀裂の数は見る見る間に増えていき、やがて太陽は千々に砕け、散るように消えた。

 怖いというより、「ほぇ~、こんな現象こともあるのか」と思った。

 翌朝、ラジオ体操に行け、と親に叩き起こされた。

 何事もなかったかのように太陽は昇っていた。


 【真っ赤な星の巻】

 高校二年の冬だった。

 午後十一時頃、勉強の合い間の気分転換に庭に出て、夜空を眺めた。

 冴え渡る冬の宇宙そらには降るような星辰。

 当時は六等星くらいまで見えていただろうか。振り仰ぐ頭頂の真っ直ぐ上に、その星はあった。ルビーのような真っ赤な星が。真紅の赤だ。その美しさと珍しさに寒さも忘れて暫し見入った。

 あれから幾星霜。

 真紅の星はもう見えない。

 視力の低下によるものか。もしくは、星の寿命が尽きたか。それとも……。


 【月の巻】

 2022 (令和四) 年1月16日、曇天の夜。

 何故か無性に月を見たい衝動に駆られ、窓のカーテンを開けた。

 その瞬間、雲がパッカーンと割れて満月に近い綺麗な青い月が全容を現わした。

 「ほれ、御開帳だ」

 と、月が自ら言ったとか言わなかったとか。否、言ってなかった。

 暫くして再び厚い雲に遮られたが、ジャストタイミングで月と遇えたことが嬉しかった。

 ありがとう、お月様。



 4.明け方に見た夢とその日の朝


 2023 (令和五) 年1月の初旬。

 夢で (以下、夢の中の出来事) —— 寝ていると、凄い勢いで入って来た小動物が部屋中を走り廻って出て行く、といったようなことが繰り返されていた。

「運動会かな?」と思ったくらいで別段気にも留めずに自分は眠った。

 朝になったので起きると、家の中に複数の小動物がいた。何故入って来たのかわからないまま、とりあえず外に出そうと、彼らを玄関に集めた。

 動物の種類は、白い兎二羽、白い猫二匹、仔狸二匹、薄茶色の仔犬一匹。

 玄関の扉を開けると外は何故か見渡す限りの原っぱで、皆、次々と走り去って行った。最後に残った仔犬は連れがいなくて心細いのか、なかなか出ようとしなかった。それでも結局出て行った。

 朝 (現実) —— 目覚めて洗面所に行こうとして寝室を出ると、突然、小動物の鳴き声がした。「キャン!」「キャン!」と、数秒の間隔で二度。

 まだ夢の続きか? 

 己の脳を疑いつつ、家の中を見回した。勿論、いるわけがない。

 おそらく、その時たまたま外を仔犬が通りかかったのだろう。動物の夢を見たのは多分『あつ森』のやり過ぎだ……と思うことにしている。




                                  つづく



 次回:トイレのブロ子さん、こっ〇りさんの真実、霊視を依頼される、他

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