ふたりの岐路は、いつだって花火が飾っていた

 あれこれ歪んだオタク男子と、転校して別れ別れになる幼なじみの才色兼備女子。ギタリストだったサラリーマンと、元彼女。余命半年を宣告された妻と、その残された時間に向き合う夫。花火を軸に3つの愛の有り様とその行方が語られる……。

 高校生・社会人・夫婦が綴るこちらの恋愛ストーリー、あらすじの通り3編とも花火をテーマにしたものとなっています。

 おもしろいのは3編の主人公とヒロインが同一人物だということ。

 ふたりが辿る人生の岐路を象徴するものが花火——この仕掛けにも魅せられるわけですが、それぞれの立場と状況の違いが生み出す関係性、その距離感が実に趣深いのです。「あー、若いな!」から始まって、「いろいろ難しいよなぁ」に繋がって、ほろ苦くもあたたかいエンディングへ至る。

 オムニバスという“時間と舞台を切り取った”物語形態の中で、ブレることなくふたりを追いかけていくからこその妙がそこにはあります。

 いい話が読みたい! そんなときにこそ開いていただきたい素敵な物語です。


(「夏といえばコレでしょ!!」4選/文=高橋 剛)