生き返りの島

ぽとりひょん

第1話

 一条いちじょうみおは子供のころから幽霊などが見えていた。

 高校生の頃、友人たちが恩寵に呪い殺される事件に会う。

 この事件はみおの人生に大きな影響を与える。

 自分の力を生かしたい、霊に困っている人を助けたい。

 この思いは消えない。

 みおは大学卒業後、鬼頭亜香子きとうあかこと言う祓い屋に弟子入りする。

 亜香子のもとで働いて5年、見ることは亜香子より優れており亜香子に頼りにされている。

 しかし除霊の方は亜香子に及ばない。

 亜香子はみおに仕事を与える。

 みおにとっては初めて1人で行う仕事である。

 依頼の内容は、死んだ父が生まれ変わることができす、現世をさまよい出てくるので成仏させてほしいというものだ。

 みおは亜香子に質問する

   「生まれ変わるとはどういうこと

    ですか。」

   「ああ、子供が生まれるとき1人死ん

    で生まれ変わるという迷信だ。」

   「変わった迷信ですね。」

   「とにかく、お経をあげてくるだけの

    簡単な仕事だ。」

   「分かりました。」

みおは依頼を引き受ける。

 目的地は湾の入り口の太平洋上に浮かぶ島で半島の先端の後羽ごばから定期船で渡るしかない海の孤島である。

 三神島みかみじまは漁業が唯一の産業となっている。

 観光客もいるが旅館が1軒あるだけである。

 島には波切なみきり神社があり、漁業と生まれ変わりの神として月海魂神つきうみみたまのみことがまつられている。

 みおは鉄道で後羽に着くと旅館で1泊することにする。

 彼女は部屋に通されると丹田に力をこめ柏手を打つ。

 仲居は驚き

   「何かありましたか。」

   「いいえ、何でもありません。」

みおは答えるが部屋に血まみれの女の霊がいたのだ。

 彼女は柏手を打ち霧散させる。

 翌朝、朝食を食べ終わると朝一番の定期船で島に出発する。

 船内で老婆が話しかけてくる

   「お前さん、観光客か。」

   「いいえ、仕事です。」

   「漁業しかないところだよ。」

   「生まれ変わりの風習があるとか。」

   「ああ、月海魂神様が守ってくださ

    る。」

   「月海魂神様とは何ですか、波切神社

    の神様だ、困ったことがあったら

    行けばいい。」

   「ありがとうございます。」

定期船は40分位かけて三神島に着く。

 波止場には、依頼人の磯貝いそがい夫婦が迎えに来ている。

 島は海岸まで山が迫っており、家々は山の斜面に建っている。

 島の道はほとんどが階段であり、車が走れる道はほとんどない。

 みおは磯貝夫婦について階段を上っていく。

 磯貝家に着くと居間に通され話を聞く

   「父は4か月前に亡くなりましたが、

    この時生まれてくる子がいなくて、

    迷ってしまいました。」

   「生まれ変わりができなかったという

    ことですね。」

   「はい、父は赤ん坊に生まれ変われな

    かったのです。」

   「何かありましたか。」

   「あります、夜中、廊下を歩く足音が

    したり、うめき声が聞こえるので

    す。」

   「分かりました。」

みおは家の中を見ることにする。

 玄関から居間まで霊はいない。

 廊下、風呂、便所、台所と見ていくが霊はいない。

 階段を上り、2階にある2つの部屋を見る。

 そして、一方の部屋で男の老人の霊を見つける

   「この部屋は何の部屋ですか。」

   「父の部屋です。」

   「そこにいます、」

   「本当ですか。」

はい、お経をあげますので手を合わせてください。

 みおがお経をあげると老人の霊は消えていく。

 仕事を終え、みおは磯貝家に1泊することになる。

 しかし海が荒れ始め、みおは次の日も帰れない。

 そうして2日目の夜、みおは磯貝夫婦に起こされる

   「逃げてください、赤ん坊が生まれそ

    うなんです。」

   「なぜですか。」

   「1人生まれるから1人死ななくては

    ならないのです。」

   「一条先生が島に来ていることは島の

    みんなが知っています。」

   「では、私は狙われるんですか。」

   「はい、逃げて隠れてください。」

みおは急いで着替え逃げ出す。

 彼女は闇の中を走る。

 物陰に隠れると出刃包丁を持った男が通り過ぎる。

 みおは考えるどこに隠れる。

 定期船の中での老婆の言葉を思い出す。

 波切神社、月海魂神、今はすがるしかない。

 みおは物陰から物陰へと移動しながら、見つからないように移動していく。

 周囲には包丁や鯨鈎を持った男たちが歩き回っている。

 何とか波切神社の階段下までたどり着く。

 みおは階段を昇っていくそして境内に入ると社の中へ逃げ込む。

 社はカギがかかっていなかった。

 外から男の声が聞こえる

   「本当にこちらへ来たのか。」

   「ああ、確かに見た。」

   「誰もいないぞ。」

   「おかしいな、社にはカギがかかって

    いるし。」

男たちは去っていく。

 みおは不思議に思う、社にはカギがかかっていなかった。

 なのにカギがかかっているという。

 どちらにしろここで隠れているしかない。

 みおは緊張していたが眠気が襲ってくる。

 彼女は社をたたく音で目を覚ます。

   「やめろ、神様に失礼だぞ。」

   「このままだと赤ん坊が生まれてしま

    う。」

   「後はこの社しかないんだ。」

   「カギを持ってきたぞ。」

その言葉にみおは覚悟を決める。

 その時声が聞こえる

   「声を出すではないそ。」

   「動いてはならんぞ。」

みおは姿の見えない声に従う。

 社の扉が開かれ男たちが入ってくる。

 みおはじっと座っている。

 男たちは

   「誰もいないぞ。」

   「ここ以外にはないんだかなぁ。」

男たちは去っていく。

 みおは声に向かって聞く

   「あなたは誰ですか。」

   「月海魂神だ、朝まで待つがよい。」

   「ありがとうございます。」

彼女は神に礼を言う。

 朝になり社を出ると村は静かになっている。

 みおは磯貝家へ戻る。

 磯貝夫婦はみおに

   「先生、無事でしたか、よかった。」

   「赤ちゃんは生まれましたか。」

   「元気に生まれたよ。」

   「誰か死にましたか。」

   「三崎みさきのばあさまが亡くなった。」

みおは死因を聞かなかった。

 彼女は定期船に乗り島を後にする。

 事務所に戻ると亜香子がみおに言う

   「楽な仕事だったろ。」

   「殺されかけましたよ。」

   「面白い体験したな。」

   「本当です。」

亜香子は、みおの抗議を冗談と受け取った。

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生き返りの島 ぽとりひょん @augift0925

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