第18話 終結
キャリーケースを引いたことりは、大きな桜の木の下で立ち止まった。
ふうと、あるとと、だりあと、つぼみと、かなたと。初めて出会った場所だった。
あの頃は手も届かなかった枝が、今はすぐそこにある。
昨日、栄翔学園では中等部の卒業式が行われた。
卒業したのは、生徒会六人を含む約五十人。彼らは今日寮を出て、それぞれの場所へと帰る。
ことりたちの運動の結果、栄翔では幼、小、中等部それぞれの過程終了後の卒業と、学課途中での退学、転出が認められた。また、幼等部以外にも入試が設けられた。
感慨深く桜を見上げたことりの耳に、おーい、と声が聞こえた。
振り向くと、他の五人が歩いて来ていた。
「ほんとに今日でお別れなんだね」
だりあが寂しげに笑った。
「なんか実感ねーよな。お前らが海の向こうに行っちまうなんて」
からかうように言うのはあるとだ。
「大袈裟ね。私は九州、だりあは北海道に行くだけよ」
と、ふうが呆れたように返す。
「わたし、ここでのみんなとの日々は絶対に忘れないよ」
泣き腫らした目のつぼみが断言する。
「うん。私も。みんなに会えてよかった」
ことりもしみじみと頷いた。
「またいつか、この木の下で会おう」
かなたがそう言って、右手を突き出した。
みんなが真似て、六枚の手のひらが重なる。
誰からともなく一度沈め、花びら越しの青にかざした。
両親と訪れ、みんなと過ごした学園を、一人で出る。
ことりは流れる涙をぬぐいもせずに、まっすぐに歩いた。
かなたが最後にくれたメッセージが、胸の中によみがえる。
『僕たちはいつも、君の味方だよ』
ことりは、この言葉と一緒に生きていくのだ。栄翔での思い出と共に生きていくのだ。
そこにはもう、楓も歩人もだりあも蕾美も、奏汰もいないけれど。
大丈夫。
(私は、一人じゃないから)
道路の向かいに両親の車を見つけ、琴梨は駆け出した。
すくーる・りのべーしょん! 涼坂 十歌 @white-black-rabbit
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