〇〇〇

 ――ここは何処だ?


 ずっと眠っていたみたいだ、僕はまわりを見渡した。


「……!?」


 ええっ!? 僕、お空に浮いてるぞ、

 青いお空は大好きだったけど、いつから飛べるようになったんだ!!

 それに身体が軽いや、座布団も登れなかったのがウソみたい。

 この場所には見覚えがあるぞ、真奈美ちゃんとお散歩でよく来た裏山だ、

 おうちのすぐそばにあって、ここで走り回るのが僕の若い頃の日課だった。


 どうして僕はこんなとこに?


拓也たくやくん、ごめんなさいね、真奈美はまだ誰とも会いたくないって」


 あっ、あれは真奈美ちゃんのお母さんだ、一緒に話しているのは、

 ニボシ、じゃなくアカボシタクヤだ、真奈美ちゃんの隣に住む

 僕の宿敵ライバルだ、真奈美ちゃんとは幼馴染だか知らないが、

 こいつの前だと、真奈美ちゃんがドキドキしているのが、

 抱っこされている僕にまで伝わってくるんだ、いったい何しに家に来たんだ?


「ショコラが亡くなって、ふさぎ込んだまま部屋から出ないの」


「……そうですか、じゃあ手紙だけでもお願い出来ますか?」


「ごめんなさい、今の状態だと無理みたい」


 僕が亡くなった!?


 ……そうか、だからお空を飛べるんだな。

 真奈美ちゃんが話してくれたことがある、天国という場所があって、

 人も動物も亡くなったらそこに行くんだって。


『もし僕が先にお空にいっても、

 上からずぅっと見守ってあげる。』


 ……真奈美ちゃんと初めて出会ったことを思い出す。


 僕はおとこだから悲しんじゃ駄目だ、

 後に残された真奈美ちゃんはもっと悲しいはずだ。


 まだ僕が天国に行っていないってことは、

 何か理由があるに違いない、

 僕は決めたはずだ、真奈美ちゃん守るんだ、

 悲しいこと、つらいことから全部!!

 その笑顔を曇らせちゃいけない。


 よーし、やるぞ、最後の一仕事だ!!


「うわっ、なんだ、風!? 手紙が……!?」


 へへっ、驚いたか、びっくりして尻もちをつくタクヤをみて、

 愉快な気分になった、いつも僕が真奈美ちゃんのボディーガード

 だったことを忘れるなよ!!

 得意げに僕の友達、もピコピコ動いた。


 ――お空を飛ぶのがこんなに気持ちいいなんて!!


 思わず僕は嬉しさのあまり、わんわん吠えそうになったが、

 ぐっ、と我慢した。



 *******



「……ショコラくん!?」


 ベランダの窓が少し開く、真奈美ちゃんは起きていた。

 僕の姿は見えないんだ、頬の涙の跡を見て切なくなる。


「気のせいよね、ショコラくんは天国に行ったんだから……」


 そっと部屋の中に入る、何か書き物をしていたみたいだ、

 デスクの上に書きかけの便箋が見えた。

 人の手紙を読んじゃ駄目だぞ、僕。


 んっ!? この手紙は僕宛だ。


 ――僕は手紙を読んだ後、

 口にくわえていた物を、そっと便箋の上に重ねた。



 *******



 やれやれ、人間ていうのは世話が焼ける、

 なんで僕達、動物みたいに好きな物を好きって言わないのかな?

 隣に住むタクヤの部屋に入って、そう思った、

 こんなに近くにいるのに、二人とも素直じゃない、

 少ししゃくに障るけど、これからはにお願いしないといけない。


「痛っ!? 今何かに嚙みつかれた……?」


 安心しろよ、甘噛みだ、

 昔は良く本気で噛んでゴメンな。


「……何で窓が開いてんの? 閉めたはずなのに」


 よしよし、そのままベランダに出ろ!!


「……拓也くん!?」


「ま、真奈美ちゃん、悪い、覗いてた訳じゃないんだ!!

 それに部屋から出てこないんじゃなかったの?」


「……部屋に、拓也くんからの手紙があったから」


「ええっ、手紙だって!? さっき玄関で真奈美のおばさんと

 話してるとき、風に飛ばされたんだ」


「……手紙に書いてくれたこと、本当?」


「え、ああ、僕なんて書いたっけ?」


 嘘つけ、部屋のゴミ箱が書き損じの紙屑で一杯のくせに。


「ショコラの代わりにはなれないけど、

 僕の手で、君を支えてあげたい……」


「……うん、書いた」


「嬉しい……」


 よし言っちゃえ、二人とも!!


「真奈美ちゃん、昔からずっと好きでした!!

 僕と付き合ってください……」


「拓也くん、ありがとう、時間は掛かるけど、

 これからも末永くお願いします……」


 頼むぜ、新しいボディーガード、

 僕のしっぽの代わりをよろしくな。


「……でも拓也くん、手紙の封筒なんだけど」

 何で犬の足跡が付いているの?」


「えっ、僕は知らないよ!!」


「……まさかショコラくん?」


 さて気付かれる前に退散するか、

 お空から真奈美ちゃんには、いつでも会えるんだから。


 僕はを最上級にピコピコと振った……。


おしまい


☆☆☆お礼・お願い☆☆☆


 この短編を読んで頂き誠にありがとうございました!!


※普段は下記のような作品を主に執筆しております。


切ない恋の物語です。ぜひご一読頂けると嬉しいです。


【あの夏、君と見た真っ白に沸き立つ入道雲を僕はいつまでも忘れない。】

https://kakuyomu.jp/works/16817139554630987921




 




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

【ぼくと彼女のたった一つの約束】 ~大好きなきみの笑顔を絶対に曇らせたくない~ kazuchi @kazuchi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ