第10話 それぞれの道へ……
「ところで、皆さん、A市案件が終わったあとはどうされるんですか?」
安田がみんなに聞く。
「俺はNPO法人ひまわりで子供達に勉強を教えるようになって、教えることが楽しくなったから、自宅を学習塾にしてそこで先生をやろうと考えてるんだよ」
と、相川が答える。
「へー、すごい! 相川さんはひまわりでの評判もいいし、きっと素敵な塾になりますよ」
「そう言う邦恵さんは、どうするんですか?」
「私は旦那も働いてるし、心配だった息子もひまわりに行くようになって、最近アルバイトも始めたから安心してて…私はとりあえず専業主婦に戻ろうかなと考えてるのよ」
「奏太さんはどうするの?」
邦恵が隣に座る奏太に尋ねる。
「僕は、ランニングを通じて知り合った人でスポーツバーを経営してる人がいるんですよ。そのスポーツバーで調理の仕事をさせてもらえることになりました」
「奏太さんはスポーツも料理も好きだから、ピッタリの職場ですね」
安田が笑う。
「……私は、ひまわりのスタッフとして働かせてもらえることになりました。利用者と同じ、不登校や引きこもりの当事者だった立場から、不登校や引きこもり、ニートの人達の気持ちが分かるので、ひまわりで働きたいと思ったんです」
「それはさくらちゃんにしかできない仕事だな」
相川が優しい目を向ける。
続いて綾菜が、
「私は、桜ヶ丘パークマルシェに来てくれたお客さんで、雑貨屋を経営してる人がいたの。その人が私のアクセサリーに興味を持ってくれて、あれ以来やり取りをしてたんたけど、ゴミを再利用した私のアクセサリーをそのお店に置いてもらえることになったの」
と話す。
「すごいじゃない!」
邦恵が驚いた。
「それだけじゃないの。そのお店で働かせてもらえることになったんだ」
「すごい。私もその雑貨屋さんに買いに行きますよ」
さくらが雑貨を買いに行くと約束する。
「あと……私、邦恵さんの息子さんの涼くんと、付き合い始めたんです」
さくらが照れながら報告する。
「えー!!」
みんなが一斉に驚きの声を上げた。
邦恵が
「私も公認よ。さくらちゃんと涼ならすごくお似合いだし、可愛らしいカップルだから応援してるの」
と笑った。
「中山さんは?」
安田に聞かれ、
「実は……その……僕は特になにも決まってないんです」
自分だけなにも決まっていなくて焦り出す勇樹。
ここで半年間契約社員をしながら、次の仕事を見つけようと思っていたのに、結局このジャングルジムでの仕事が楽しくてつい次の仕事を探す活動をほとんどできていなかった。
打ち上げも終わり、
「またみんなで定期的に集まろう!」
綾菜が言い、みんなも是非と頷いた。
半年間働いたジャングルジムの仕事が終わったんだ……
勇樹は寂しさでいっぱいになった。
次の日、勇樹のスマホの着信が鳴った。
画面を見ると、安田さんからだった。
「もしもし、中山です」
「あ、中山さん、A市案件お疲れ様でした。中山さん、昨日の打ち上げで次の仕事はまだ決まってないって言ってましたよね?」
「あ、はい……まだなにも決まってないんです……」
「僕や社員達がA市案件での中山さんの働きぶりを見ていて、社長や人事にも話をして、もしよければ中山さんにうちで正社員として働いてもらえないかという流れになりまして……」
「え、ジャングルジムで正社員ですか!? 僕がですか!?」
「どうですか? 突然のお話なので少し考える時間があった方がいいですよね……」
「いえ、是非、お願いします! 僕、A市案件で働くようになって、ジャングルジムのことがすごく好きになったんです。ジャングルジムでずっと働いていきたいなと思ったんです!」
勇樹は嬉しさと驚きとでつい早口になっていた。
人生、なにが起こるかわからない。
仕事が辛くて仕方がなかった勇樹が、何気なく見ていたハローワークの求人検索でジャングルジムの求人を見つけた。
他のみんなも、ジャングルジムに来るまでは顔も名前も知らない人達だったのに、ジャングルジムで一緒に働き、そしてまたそれぞれの道へと繋がっていった。
半年前、ジャングルジムで働く前に見たフリーマガジンの求人誌の1番最後のページに載っていた星座占い。
【今年は人生が変わる出会いが沢山ある年】
「すごく当たる占いだったなぁ……」
勇樹はふと笑って、これからジャングルジムで働くための準備を始めた。
株式会社ジャングルジムの人々 ぜにがめ @green333
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