第8話 死魔法

「よし、全員揃ったな。では、改めて。自己紹介をする。俺の名前はアデル。アデル・ハリアント。担当教科は『飛行』だ。よろしく頼む。早速だが、授業を始める。名前などに関しては、自分で確かめるように」


教壇に手をつきながら、アデル先生は皆に聞こえるように言う。

早速教科書が配られ、俺の目の前には幾つもの種類の教科書が並べられる。

生物学、黒魔術学、薬草学、歴史学、飛行学。

他にもある。

覚えるのが大変そうでありそうだが、禁忌魔法だけで学園の上を目指す。それが俺の目的だ。

周りはきっといい職業に就くのだろう。将来。だが、俺は『悪魔』

厄災を振り落としてしまう、邪悪な存在。

それがどうした? それを覆すことだって出来るはずだ。何故なら、不可能……とは限らない。

せっかく学園に入学できた。この時間を思う存分使わなきゃ、損してしまいそうだ。


「魔術には複数の術式が存在する。もちろん学術によって、違う事もあるが、大方同じやり方だ。それを覚えておけばいい」


説明するアデル先生。先生の言葉に耳を傾けている級友たち。

向上意識が高そうであり、真剣な顔で取り組んでいる。


まぁ、教師の立場からしたらいい状況?


かはわからない。だが俺は、魔術を覚えに覚えなければならない。禁忌魔法しか扱えない分、役に立てなさそうなものばかりだろうが、知識を蓄えるには十分。


そして次の時間とて、昼。

昼の時間帯は狩の時間のようだ。狩人としてのスキルを磨くらしく、制服から体操着に着替える。

弓と矢を持ち、学園の敷地外にある森へと足を踏み入れる。

学園の敷地内に存在するのは、大きくて立てられたばかりのような、綺麗な校舎。

講堂館があり、そしてグラウンド。で、学園の外には森が存在する。どこへ行っても木、木、木。

どこを見渡しても木ばかりなその森は、奥へと続いていく。


そんな森にやって来たロイス達は、森に住み着く獣達を狩るためにやって来た。学園の外に存在する森には、イノシシ、うさぎ、鹿。

その中でもイノシシは害獣として言われ、狩人達が狩に行っては、また増える。

そんなタイミングを狙ったアデルは、狩人としての俊敏な動きを学んでもらいたいようだった。


「よし、ここだな。さぁ、お前ら! 準備は大丈夫か?」

「狩……速さを磨き上げるには、最適そうね」

「あぁ、やってやろうじゃねぇか。あの、見下すのが好きなあいつらを見返してやる」

「えぇ、そうね」


仲良くなったと思いきや、黒狼だと知ると自分より下に見ており、ましてや「雑魚が移る」などと言われる始末。

それは今日に起きた出来事。

それを思い出した生徒達は、火を見るよりも明らかに苛々さを露わにしていた。


「よし、じゃあやるぞ!」


アデルの一言で活気が溢れる。絶対見返す。と言った強い意志。それをどこまでも無限に行けそうなぐらい、暑くなっていた。

森に入り、アデルの指示のもと、獣達を狩っていく。弦を引く音と、矢が放たれる音。


イノシシたちを狩り、自分に出せる速さを見せつける。次々と射抜く奴や、得意げに放つ奴、苦戦する者もいれば、天才と思えるぐらい数十分で木から木へと移るもの。彩緑だ。


「よくやったぞ、お前ら」

「よし! 毎日続ければいけるか?」

「あぁ、勿論だ」


自分のことを称え上げ、そして褒め合う。そんな光景を見ていた人物が1人。

木陰からひっそりと覗き込む人影。怪しげな笑みを浮かべ、ロイス達を見る人間。そのものが消え去った後、森は荒れ狂う。


「な、なんだ!?」

「ま、魔獣だ!!」

「どうなってんだ! ここは魔獣なんか住み着かないはず!」

「なら弓矢で!」

「無茶だ。相手は動きが更に俊敏。そして毒を持っている奴もいるかも知れない。ここは魔法で戦った方が良さそうだ」

「…………お前、何故そんなことを」

「ロイスの言う通りだ。魔法で戦うぞ!」


ロイスの一言にアデルは肯定する。森付近で育ったロイスは親の手伝いで狩人としてやった事がある。

だが、弓矢なんかは使っていない。魔法だ。彼にしか使えない禁忌魔法。それを使って倒せた分、おそらく魔獣にただの矢で応戦するのは不可能に近いかも知れない。

アデルの放った一言で、生徒達はそれぞれ離れた位置につく。近接戦に特化した魔法。遠距離戦に特化した魔法。自分の得意分野と思われる距離感に位置ついて、魔獣達の群れがやって来る。


(一体、何がどうなったんだ!)


アデルは分かる。この異常さを。学園に近いこの場所は、獣は出るとはいえど、魔獣は出ない。それを知り尽くしているはずが、何故魔獣が現れるのか。その異常さがどうも、心に引っかかる。


———ズドン!!


男子生徒が炎で魔獣を焼き払い、もう1人の男子生徒、髪がどうも特徴的な男子は、電撃で応戦する。


「喰らえ!!」

「引っ込んでろよ! 豚野郎!!」


口が悪い男子生徒も応戦するようだ。

お口が過ぎますことよ?

とか言っている状況じゃない。


「嘘だろ!? 全然倒れないじゃないか!!」

「あー、もうどうしたら!!」


他人の命を奪う行為は、犯罪。

動物の命を奪う行為も、犯罪。

死魔法ならば、相手を倒す事ができる。だが、最恐で、負担が大きいその魔法。ロイスの体が耐え切れるのか。使ったことのないその魔法の、反動がどうか分からない。


(だが………。やるしか無い)


「ふぅ…。———『死の円盤デス・ディスカス!!』


ロイスの足は地面から少し浮き、下から風が舞う。手を前に出し、指にはめていた指輪が光を放ち、そして脳裏にはガーゴイルの声が聞こえる。


『あいつらの命を———奪うか?』


YES or NO。

どちらかを選べ。


———………YES


ロイスの胸の内は埋め尽くされる。ざわざわとしたノイズ音が走り、額に汗が滲み出る。心臓が締め付けられるような、そんな痛みが走る。

手を前に出し、手のひらには魔法陣が生成される。そこから放たれる、黒色の円盤。それは魔獣達の体に挟まり、そこから英気を吸っていく。

これが死の魔法。禁忌魔法の一つであり、反動が大きく体に来る。

それを使ったものは、『悪魔』から命を吸われる。と、神官は言った———。


「すごい……」

「すげぇ、そんな魔法、初めて見た」

「ハァ…ハァ…ハァ………ぐっ!」


魔法を放った反動で心臓が強く締め付けられる。

今までの痛みより遥かに強くなり、息が荒くなる。膝を付くぐらい、痛みは絶頂に達する。


「…ロイス? どうしたの!?」

「おい、どうした!?」


——話せない。

——話す事ができない。


心臓部分を服の上からギュッと握りしめ、悶える。

小さな悲鳴を上げながら、ギュッと目を閉じる。


(息が………苦しい………!!)


何も聞こえない。

何も見えない。

何も———感じない。

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神に見放され、『悪魔』に魅入られた少年は学園生活で成り上がる〜禁忌魔法だけで上を目指す。そして 猫屋敷 @nekosiki

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