トレーニングを続け、理想の自分を手に入れたいんだ。

金城sora

短編ですよ。

 私は出勤前にトレーニングジムへ通っている。


 週に3~4回のペースだ。


 まず最初にダンベルやバーベル、マシンなどで筋肉を鍛えるウェイトトレーニングをする。


 そしてウェイトトレーニングを終え、仕上げに体脂肪を燃やすために有酸素マシンのエリアへ。


 アップライトバイクに股がり、ハンドルの間に付いている画面をタップしてトレーニングメニューから時間設定20分を選んでペダルを漕ぎ始める。


 アップライトバイクとは、トレーニングジムに行くとウォーキングマシンの近くに置いてある自転車を模した有酸素系のトレーニングマシンだ。


 漕ぎ始めると、目の前にある液晶画面に西洋の田舎町を自転車で走るような映像が流れる。


 それ以外にも、心拍数、ペダルの回転数、走行距離などが画面の四隅に表示される。


 画面下のボタンで強度を上げる、レベルは15。


 先程まではまるで抵抗なく回っていたペダルが坂道に差し掛かったような抵抗を感じる。


 最初の3分ほどはウォーミングアップ程度に軽く漕ぐ。


 画面に表示されるペダルの回転数は50~55、心拍数はウェイトトレーニング終わりという事もあって130。


 その時点の私の精神状態としては、冷静にこの後のペースを考えている。


 計画はこうだ。


 まず、3分までじっくり焦らずウォーミングアップ。


 それを過ぎたら回転数を65~70程度に上げる。


 そのペースで10分まで漕いで体を温め、10分を過ぎれば回転数を70以上に保つようにする。


 そこから15分までそのペースを維持する。


 体が温まりきって、一番ペースを上げられる15分~19分は80~90の回転数で漕ぐ。


 そして残りの1分間は全てを出しきる!


 目標は走行距離10㎞。


 そんなつもりで、いつもスタートする。


 まずはスタートから3分後。


 足に乳酸が溜まってどんどんとペダルが重くなる。


「5分まではアップにしよ」


 そう思って5分まで50~55の回転数を守る。


 5分を過ぎた辺りで目標は2.5㎞なのにまだ2㎞。


 これじゃマズイ。


 そう思い回転数を70前後まで上げる。


 8分くらいで太ももが悲鳴を上げ始め、60前後まで回転数が落ちる。


「とりあえず、これ以上ペースが落ちないようにしよう」


 そう自分を甘やかして、ペースを上げることを放棄する。


 10分を過ぎた辺りで全身から止めどなく汗が吹き出る。


 拭いても拭いてもキリがないほどに汗が出る。


 体が温まりきって少し動きやすくなり、回転数が自然と70~80前後まで上がる。


「キテる、これなら10㎞いけるか」


 精神が高揚する。


 12分。


 ペダルが徐々に重くなるもまだ回転数70~80をキープ。


 15分。


 グリップに付いている心拍数を図る装置、画面に表示されているのは心拍数170。


 心臓が凄まじい勢いで動き、肺に吸い込んだ空気から酸素を抽出して全身に猛スピードで運んでいく。


 が、いくら呼吸しても苦しい。


 完全にキャパオーバー。


 コロナ禍でマスクをしているせいもあって苦しくって仕方ない。


 回転数は50台まで駄々下がる。


「もうダメだ、今日は、とにかく最後まで漕ごう」


 精神状態は完全に負け犬である。


 18分。


 回転数を落として呼吸が整い、ちょっと調子が戻る。


 回転数は80まで上がる。


「よし、とにかく今は80をキープして、ラスト1分は全力で漕ぐぜ!」


 19分。


 エンジン全開、腰が少し浮くくらいに漕ぎまくる。


 回転数は110をマーク。


「取り戻せ取り戻せ取り戻せぇぇぇ!」


 19分50秒


 回転数は80まで落ちる。


「くおぁ、もうちょいなのに、力が、入らねぇ」


 フィニッシュ。


 記録は9.2㎞。


 目標は達していないが、20分を漕ぎ抜いて若干得意気。


 息も絶え絶えにアルコールシートでアップライトバイクを拭いてストレッチコーナーで体を伸ばしてからシャワーを浴びて仕事へ。




 ~~~~~~~~~~




 これが私の、アップライトバイクを漕ぐ前から漕ぎ終わるまでの精神状態である。


 お分かりいただけただろうか?


 私の意思の弱さを。


 少し体に乳酸が溜まり、酸素が足りなくなって体が抗議するとすぐに楽な方へと流れる。


 目標をすぐに曲げ、とりあえず20分漕ぐことが目的にすり変わる。


 私は自分の意思をたったの20分間保つことさえ出来ない。


 この短編も、書き始めてから数日かかった。


 たったの2,000文字程度の短編なのに、である。


 普段から、書いている長編小説の執筆に取り掛かるたびに少し詰まったらいつの間にかヤフーニュースを見ている。


 そして、「だめだ、小説書くんだ」と執筆アプリを開き数行書いて詰まるとまた嫌になる。


 この、感覚的に「嫌になる」のが凄く嫌だ。


 趣味で、楽しみで書いているはずなのにすらすら書けないと嫌になるのが嫌なのだ。


 ずっと楽しく書いていたいのに、詰まるたびに嫌気がさして「本当は好きでもないのに書いてるんだろうか?」とか「嫌になるのは嫌いだからだ」とかネガティブな事を連想してしまう。


 出来れば、書いている最中は物語の世界に没頭していたいのに物音や、視界のすみに入る何かにすぐに気を取られる。


 スマホで書いているので何かの通知がきたらそっちを開いてしまう。


 私は本当に、意思の弱い男だ。


 自分の決めたことを最後まで貫く。


 好きなことに没頭する。


 粘り強く、やり抜く。


 その辺が全然出来ない。


 せめて20分くらい、自分の全力を出しきりたいものだ。


 なんだか、ブチブチと愚痴を書いてしまった。


 何が言いたいのか?


 要約すれば。


 私は、集中力と鉄の意思。


 あと割れた腹筋を手に入れるために、明日もアップライトバイクに乗るんですよ。


 それが言いたかっただけなのである。


 んじゃ。

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トレーニングを続け、理想の自分を手に入れたいんだ。 金城sora @sora-kinnjou

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