第4話
ふわっと、土の匂いが鼻をかすめたその瞬間。両手の中からするり、と抜けて行くものがあった。「行くな!」と言ったが、遅かった。幼い二人は五〇メートル程先を、駆けていた。僕のことなんか、お構いなしに。
「よぐ来たねぇ。楓ちゃん、優也くん、歩くん」
行く先を見れば、顔をくしゃくしゃにして手を振っている、ぽぽさんの姿があった。
「くたびれただろう。んだらば、早ぐ家さ帰るべ」
だだっ広い田んぼの真ん中に、真っ赤なバスが止まっている。通年のごとく、あれに乗って行くのだろう。
「ばすだぁー」
「ばす…のりたい!」
三人の後をつけてとぼとぼと歩く。ぽぽさんの言葉が、耳の奥に張り付いて離れない。おいで、ではなくて帰ろう、と言ってくれるぽぽさんの背中を見ると、無性に泣きたくなる。だが、人前で涙を流す度胸もなく、バスに乗ってからひっそりと済ませたのである。
居場所 天音 いのり @inori-amane
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