第5話
「──こんなに早く……! ……さすがは、破炎の魔女と言わざるを得んな」
「当然ね」
相変わらず、領主と対等に渡り合う彼女は、美しい。
気高く、誇り高く。
それでいて、内に秘める正義感と優しさは私にしか知り得ないのだと。
どこか、優越感にも似た感情を覚える。
「ぬう。……本来ならば、もてなしをしたい所ではあるが……、その……ええと」
「必要ない」
「! そうかそうか! 必要ないならば仕方ない、これが今回分じゃ。はよう行くがよい」
「っ、……この」
「ヴィール」
世話になっておいて遠回しに「早く出て行け」と言うような奴、切り捨てられても文句は言えないのでは?
……などと考えていると、つい口が出てしまったらしい。
危ない。
せっかく彼女たちが築き上げたものを壊してしまうところだった。
やんわりとメイラ様に制止される。
「言われなくとも、ここに用はない。行くわ」
「あ、あぁ。まぁ、なんじゃ……。体には気を付けて──」
「ふふ」
妖艶に笑みひとつ返せば、領主はおろか、周りの護衛達も固まる。
こんな場所、呼ばれなければ来ないと。
自分を容易く呼べると思うなと。
そう、思わせるような余裕のある態度。
まさに、世間でいう『魔女』だ。
中にはその笑みに見惚れる者もいて、領主なんかより余程斬ってしまいたい衝動に駆られる。
危ない。
彼女のこととなると、どうにも抑えられない。
「ふふふ、良く我慢したわね」
「……貴女の想いを、無駄にしたくはありませんから」
「……へぇ?」
「なんです?」
「いいえ。なんでも」
側にいれば、嫌でも分かる。
貴女が自ら魔法使い達の先頭に立ち、人々を守るために自らの尊厳を犠牲にしているのだと。
そして、私の『彼女を誰よりも理解している』という傲慢な思いで彼らを斬ってしまえば、それを台無しにしてしまう。
「私は、嘘は言いませんよ」
「……知っているわ」
「私は、お傍を離れませんよ」
「……」
貴女は、勇気と希望を司る炎の大魔女として。
貴女を孤独に誘うものを、すべて受け入れる。
それでも。
それでも、自分から見れば守る価値などない彼らを、貴女が守るというのであれば──。
「──私だけは、貴女と共に」
私達は、契約に基づく以上、恋人のような関係にはなれない。
『愛』という不確かなものではなく、命を預けることで契約を履行しているからだ。
……けれど、彼女の想いに応えるのに、それが関係あるだろうか?
例えどんな立場であっても、主を、……孤独に震える彼女を決して一人にはしない。
それが、……それが私にとっての魔女の騎士。
許されるなら……最期のその時まで、共に在りたい。
それが、私にとっての希望。
貴女が、私の希望そのものなのです。
例え、貴女への想いを口に出来なくても。
行動で想いに応えることは、出来るのだ。
孤独を秘める魔女と、孤独に寄り添う魔女の騎士 蒼乃ロゼ @Aono-rose
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