第7話

 翌日の日曜日、私の部屋に新しいロボットが届いた。

 D.D.社の対応は迅速だった。

 事故の直後。私が連絡するとすぐにD.D.社の社員が現場に駆け付け、トーマは弾け飛んだ部品も含め回収された。

『お客様の契約機器は破損がひどく修復も不可能と思われますので、同様の新規機種を改めてお送り致します。明日着で手配致しますので少々お待ちください。尚、お客様は三年間保障に加入されております。機種交換費、送料については無償となりますのでご安心ください』

 折り返しかかってきた電話口からサポート担当者の良く通る声が聞こえた。対応としては申し分ないが、その口調はあまりにも事務的だった。

「はい。わかりました」

 私はそう返事をするだけでやっとだった。

 部屋に届いたロボットはサポート担当者の言う通り、まったく同じものだった。

 彼と同じ容姿。長身塩顔の清潔感男子。名前も今回は特別に「トーマ」で登録してくれた。左手首にはロボットの証であるチェーンマークが巻かれている。

 しかし、ひとつだけ違うところがあった。

「オムライスを作ってくれる?」

 私が頼むと、は表情を変えずに私好みの低く響く声で言う。

「かしこまりました。マスター」

 彼はキッチンへと向かった。

 それから少し待つと、白い皿に盛りつけられたオムライスが私の前に置かれる。「いただきます」と手を合わせ、スプーンで掬って口に運んだ。

 いつもと同じ色。同じ匂い。同じ味。

 私の大好きなオムライス。

「おいしい」

「ありがとうございます」

 抑揚のない平坦な声と表情で彼は言う。

 その低音域の声質も不愛想な無表情も、私好みのもので。

「お水もらっていい?」

「かしこまりました」

 コップを差し出す手も、注がれた水の量も一緒で。

 一緒、なのに。

「マスター」

 受け取ったコップの水面に波が立つ。私の手が震えているせいだ。

「涙が零れています」

 彼はティッシュで私の頬を優しく拭ってくれる。

 私はオムライスを口に運んだ。一口、また一口と頬張りながら涙を流す。

「…………っ!」

 口の端から漏れそうな声を噛み殺す。それでも溢れる涙は止まらない。歪んだ視界に、戻らない彼が映った。

 家事全般をこなし、会話もお手の物、見た目もイケメン。

 そして、一切のバグもない。


 ――私のロボットは、完璧だった。



(了)

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私の完璧なロボット 池田春哉 @ikedaharukana

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