第6話

 それは不慮の事故だった。

 運転手は窓を開けて運転していた。突然そこに蜂が飛び込んできたのだという。驚いた運転手はアクセルを踏み込み、ハンドルを大きく切ってしまった。そして、向かいのマンションの壁へと激突した。

 ちょうど歩道を歩いていたトーマを巻き込んで。


 運転手は無事だった。

 歪んだ運転席から出られずにいたが、集まってきた人たちに引っ張り出され、エアバッグも作動したため意識もしっかりしており命に別状はなさそうだった。

 運転手はすでに駆けつけていた警察に事情を説明し、検査のため救急車で病院に運ばれた。


 トーマは大破していた。

 四肢は千切れ、破裂するように破損していた。真正面から衝突し、壁と挟まれる形で潰されたらしい。道路に飛び散っていた金属片には彼のパーツも混じっていたようだ。

 彼はもう何も喋らなかった。


 私は泣いた。

 無惨にバラバラになった彼を見て、私は泣いた。

 誰が悪いというわけでもない。運転手も故意に事故を起こしたわけでもなく、トーマに不注意があったわけでもない。

 だから、この気持ちをどうすることもできなくて、私はただ泣くことしかできなかった。

「よかったね。ロボットで」

 集まる野次馬の中、どこからか聞こえてきたそんな声に。

 私は両の拳を強く握り締めた。

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