第7話

「大野社長。プランを練りました」

 五分ばかり待った頃だろうか。ミライナが口を開いた。量子コンピュータの頭脳使用率は九十七パーセントにも及び、もう少しで原子力電力スーパー電力が枯渇する寸前まで電力を使い切ろうとしていた。

「聞かせて貰おうか」

 阪田の不安げな表情を横目に私はミライナに問う。ミライナはホログラフィックな画面を空間に投影した。そこには「ボーイ・ミーツ・ガール計画書」の文字が踊っていた。

「現在、二十代の独身者は少子高齢化社会から見れば深刻な程増えています。そこで、ミライナはこの独身層に目を向けた新たな取り組みを提案します」

「なるほど。つまりは、全国でお見合いをするという事かね?」

 私が問うとミライナは画面を切り替えた。

「違います。現状の二十代が恋をしているのは、主に人工知能アイドルです。人工知能アイドルは、男女が求めている完璧な男性女性を演じています。そのアイドルに目を奪われた男女は交際する事なく、恋愛感情を昇華する事に成功しています」

「うむ」

 近年我が社が協力して作った人工知能アイドルはアンドロイドに人工知能を埋め込んで、アイドルにする計画である。そのアイドルは男女の趣味嗜好を徹底的に分析して振舞っているため、二十代の男女は皆アイドルに貢ぐことによって恋愛感情を昇華しているという訳だ。

「では、その二十代の恋愛感情は正当な男女の恋愛に向ける事は可能なのか?」

「可能です。ですが、二十代の脳は思春期の脳と比べて凝り固まっています。そのため、二十代の男女を高校生ぐらい戻す事が必要になります」

「どうやって……。まさか、危ないドラッグを作るんじゃないでしょうね!」

 阪田が天を仰ぎながらうなだれた。確かに、二十代の人間を高校生に戻す薬などが出来てしまったら大変な事になる。順番に年をとる真の人間の営みそのものが崩れてしまう。

「ご安心ください。ミライナでは、そのような薬は製薬しません。ミライナが考えているのは、エターナルアースを利用した疑似体験です」

「疑似体験?」

「エターナルアースはミライナとストライクファミリーで開発した電脳空間に存在するパラレルワールドです。エターナルアースでは、世界中の人間のICタグ番号と紐づいた電脳体が現実と同調して生活しています」

「なるほど! そういう事か!」

 阪田が何かを閃いたようだった。現場の緊張は最高潮に達する。阪田がミライナの計画を代弁しだした。

「つまりは、現実世界の人間の意識をエターナルアースに転送し、電脳世界で架空の高校生を作り出す。エターナルアースはあくまでパラレルワールドです。現実と差が生じても問題ない」

「ご明察。ミライナは阪田さんが言っている計画を提案します」

「なるほどな。面白いじゃないか。やってみよう」

「承認ありがとうございます。では、エターナルアースに意識を転送する装置の制作を無人工場に発注します。明日には完成し、ストライクファミリー本社に届きます。しかし、今回の計画はリスクもあるため一旦テストケースで一組の男女をエターナルアースに転送する事を推奨します」

「分かった。明日までに誰をテストケースに選ぶか、考えておいてくれ」

「かしこまりました」

「阪田。エターナルアース部門の大葉に大仕事が入ると伝えておいてくれ」

「承知致しました!」

「今日はここまで。解散!」

 私は解散命令を出した。これは実に面白い。生身の人間の意識を高校生にまで遡らせて電脳空間で再現するなど前代未聞だ。実に楽しみである。

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ストライク~青春宣言委員会~ 伊藤勝正 @ito_katsumasa

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