蛙の子は蛙?

 結局、あの後俺は寝てしまっていたらしい。


 夕ご飯の準備が出来た事を伝える母上の声で目が覚めた俺は、重い体を何とか動かして1Fのリビングに向かう。


 寝たおかげかだいぶ頭がスッキリした。少なくとも寝る前の状態よりはいい。

 そう思いながら食器を並べるのを手伝う。今日はやけに豪華だ。何処で買ってきたかは分からないが、美味しそうなステーキが食卓に並ぶ。


 何故かとても嫌な予感がした。こんなに美味しそうなのに…


「母上、今日のご飯やけに豪華だね?」


「あら、ドラゴンのお肉が手に入ったじゃない。まだまだ一杯あるから沢山食べてね?」


 俺は苦笑いをしながら頷いた。まさか自分を食べようとしていたドラゴンを食べる事になるとは、数カ月前の自分では想像も出来なかっただろう。


 一通り準備を整えると席につく。


「「いただきます」」


 この世界でも食事の際挨拶はちゃんとある。大抵の動物は暫くすると復活再生成するが。


 さて、ドラゴンの肉とはどんな味だろう。今まで食べてきた肉は牛や豚、馬など地球でも食べた事のある肉ばかりだった。実際味も変わらないし、以前ハンナちゃんとそれらの動物を見にいった時は、自分が知る姿と殆ど変わらなかった。もしかしたら中身が全く違う物かもしれないが、残念ながら俺には分からない。


 恐る恐る一口食べてみる。


「!」


 食べてみて驚いた。柔らかい肉質とジューシーな肉汁が口の中一杯に広がる。噛めば噛む程うま味が出てきて箸が止まらない。まぁ、食べる時に箸は使っておらずナイフとフォークを使っているのだが。


「母上!美味しい!」


「でしょう?ドラゴンのお肉って高級品なのよ?」


 ニコニコと母上が食べている俺を見ている。勢いよく食べる俺を見て少し安心しているようだ。魔法書を読んだ時から元気が無かったのだから心配させていたのだろう。


 俺はというと一心不乱にドラゴンのステーキを食べていた。先ほどまでの恐怖心は一体何処にいったのか、調子が良すぎて自分でも笑ってしまう。



 *



「「ごちそうさまでした」」


 いや~、実に美味しかった。この世界に来て良かったと思える事に、ドラゴンの肉を食べた事が追加されるなど思ってもみなかった。今までの人生で一番食べただろう。正直食べ過ぎて若干しんどい。


 しかし、あまりこのままグダグダとリビングでくつろぐ訳にはいかない。食器を片付けなければ。


 そう思いお皿を片付けようとして違和感を感じる。何故か皿の上にステーキがもう一枚残っていた。


「母上?この食器は片付けていいの?」


「あ、ダメよ~。もうすぐ帰ってくると思うんだけど…」


 帰ってくる?暫く俺は考えて気が付いた。そういえば一ヶ月ほど前に父上が帰ってくるという話を聞いた覚えがある。もしかしたら今日がその日なのかもしれない。


「もしかして父上が帰ってくるの?」


「えぇ、そうよ。手紙には今日の昼頃には家に帰るって書いてあったのだけど、何かあったのかもしれないわね~」


 母上が少し心配そうに話す。この世界では常に死と隣り合わせだ。もしかしたら道中で死んでいるのかもしれない。その場合ここに到着するのが三日程遅れるだろう。普通死んだら帰ってこれないのだが。


「私より強いから多分大丈夫だとは思うけど…もしも、何かあったら大変だわ」


 ドラゴンを一撃で倒していた母上より強いのなら何があっても大丈夫だろ。

 心の中でツッコミを入れておく、母上は心配性なのだ。



 *




 一通り片付けも終わったが父上はまだ来ない。そろそろ自分の部屋に戻ろうかとした時に玄関から男性の声が聞こえてきた。


「ただいまー!お前達、元気にしてたかー!」


 やけに渋くていい声が聞こえたかと思ったら隣に居た母上が物凄い速さで玄関に向かっていった。というか隣を見た瞬間消えていた。よほど大切らしい。


「あなた~!待ってたわよ~!もう遅かったからお肉冷えちゃったわよ~」


「ぐぇ、ちょ、セリア!待て、ここ玄関だぞ!」


「いいじゃない、久しぶりにあなたに会えたんだもの、ぎゅーってしましょう?ぎゅーって!」


 どうやら母上が相当暴走しているらしい。というか母上の名前ってセリアって言うのか、聞いた覚えがなかった。


 そんな呑気な事を思いながら俺も玄関に行く。さて、どんな色男だろうか…?


「???」


 玄関についた俺はその場の状況を理解出来なかった。

 何故ならしゃがみこんだ母上しかいなかったのだ。父上らしき人物は何処にもいない。


「母上?父上は?」


「あ!やだ、私ったら。邪魔になってて見えなかったわね」


 そう言って母上が立ち上がり少し横にずれる。






 そこにはかたつむりが居た。






「え?」


 我ながら物凄い間抜けな声が出た。どうしてかたつむりがいるんだ?


 そんな事を考えているとそのかたつむりから声が聞こえた。どうやらこの世界のかたつむりは喋れるらしい。心底ビックリしたがかたつむりが喋れる事については今は置いておこう。何故なら話の内容にもっと問題があるからだ。


「おぉ、ニーサか!大きくなったなぁ。俺が居ない間元気にしていたか?」


 やけに馴れ馴れしいかたつむりである。というか声が玄関から聞こえてきた渋くていい声に実に似て…


「母上?」


 俺はこの世界に来て数カ月しか立っていないがこの世界の狂いっぷりについてはある程度理解してきたつもりだ。そんな俺の脳が全力で警報を鳴らしている。

 最後の望みとして母上に聞いていみる。



「えっと、このかたつむりさんは?」


「あら、何言ってるの?お父さんよ?」


 即答された。

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ミネルヴァへようこそ!~異世界転生したら俺の父親がかたつむり観光客でした~ 執筆するG @Siegfried721

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