第一皇女の2度目の縁談と、陰謀の予感  パワードスーツ ガイファント外伝 〜皇女リズディアを中枢から外そうとする勢力、それを守ろうとする勢力 思わぬ方向に進み始める〜

逢明日いずな

第1話 2度目の縁談


「大ツ・バール帝国は、安定した穀物輸出国として、安定した。 我が国も、帝国の穀物のお陰で、飢える事もなくなったのは、ありがたいことだ」


「そうだが、あの国は、我が国が承認して建国された国なのだ。 我が国は、あの国の親と言っても過言ではない。 それが、今では、帝国こどものご機嫌伺いをするようになっている」


「帝国の穀物生産高は、大陸一で、しかも、我が国以外にも輸出されている。 大陸の食糧庫と言っても過言じゃない」


「だが、あの国は、我が国の庇護下にあったのだよ。 それが、先代国王が、国名を、ツ・バール国から、大ツ・バール帝国に改名したのだぞ」


「ああ、あれは、いただけないな。 国の頭に大きいと付けて、他国より偉いと誇張しているみたいだ。 あれは、我らに対して挑戦状を叩きつけているようなものだ」


「そうだ、あの国名は無いな」


「そのうち、大陸全土を手中に収めようと考えているのではないか」


「ああ、現皇帝エイクオンもだが、長男のクンエイも、大学首席らしいじゃないか」


「それに、腹違いで一つ下、次男エナエイは、軍大学首席だぞ。 クンエイが皇帝となって、エナエイが軍の司令官となったら、政治面でも軍事面でも、我が国は負けてしまうぞ」


「長男のクンエイは、第22代皇帝になるのは確実だろう。 それに妹のリズディアだ。 彼女は、高等学校の生徒だが、常に首席なのだよ。 エイクオンの後の帝国には、付け入る隙が無くなってしまうぞ」


「だから、2年前にリズディアを嫁に貰い受けようとしたのに、断られてしまった」


「だったら、また、申し込んではどうだろうか? 前回は、高等学校入学したところだっが、今回は、卒業間近だ。 それに、2回目の申し入れだ。 断る理由を探す事が、今回は、難しいだろう」


「ああ、クンエイと、その兄弟による、国政は、更なる安定につながるだろう。 このままでは、我が国の立場が危うい」


「そうだ、2人の皇子達、それに皇女、それに、宰相家と、盤石な政治体制を作らせる前に、なんとしてもリズディアを、帝国から引き離すことにしよう」


「ああ、賛成だ。 少しでも帝国から人材は、削った方が得策だ」






 エイクオンは、北の王国からの新書を見ていた。


 エイクオンの執務室にイスカミューレンが入ってくると、配下の礼をすると、エイクオンに声をかける。


「陛下。 また、北の王国から、リズディア殿下に縁談ですか」


「ああ、そうだ」


 イスカミューレンは、ウンザリした表情をする。


「また、こりもせずに、リズディア殿下ですか」


「しかし、困ったものだ。 長女を人質代わりの政略結婚は、100年以上前に終わっているのに、ここに来て、執拗に申し出てくるな」


 エイクオンは、過去の歴史を思い出したようだ。


「どうしますか?」


「もちろん、断ることにする」


「しかし、2度目の申し込みを断るのは、いかがなものでしょうか」


「ああ、そうなのだ。 2度も断るとなると、こちらに、何か思うところがあって、外交上これ以上近づきたくないと言っているようでな」


「そうですね、今回断ると、角が立ちそうなのだ」


 2人は、困った表情を浮かべていた。




 リズディアは、高等学校生活を3年間かけていた。


 リズディアの成績なら、飛び級も可能だったのだろうが、そうはせずに、学校生活を楽しんでいた。


 3学年もそろそろ終わりに近づいていたが、リズディアは、推薦で帝国大学への進学を決めていた。


 高等学校に入学して首席から落ちることがなかったリズディアなので、推薦も問題なく取れ、大学でも高等学校の内容を確認すると、問題無く入学が決まった。


 決して、皇族だからというわけではなく、実力で入学を決めていたのだ。


 リズディアは、最後の高等学校生活を楽しんでいた。




 リズディアは、父である第21代皇帝であるエイクオンから、呼び出しを受けた。


 エイクオンの執務室でリズディアは、父と会談を持つことになった。


「リズディア。 また、北の王国から、お前を嫁に欲しいと、申し入れがあった」


 エイクオンは、乗り気でない様子でリズディアに伝える。


「まあ、あの国は、身の程というものを弁えているのでしょうか」


 リズディアは、イラついた様子でエイクオンに答えた。


(まあ、あの国は、帝国の穀物輸出に頼っているのよ。 帝国が輸出を止めたら、直ぐに、冬を越せずに、餓死者を出すか、内乱になってしまうというのに、嫁が欲しいとは、よく、言えたものだわ)


「そうなのだよ。 あの国の真意が、上手く掴めないのだよ。 本来なら、クンエイか、第2皇子のエナエイにと言って、嫁を差し出すところなのだが、今回も、お前を嫁に欲しいと言ってきたのだ。 まあ、あの2人は、許嫁もいるので、言い難いのかもしれないがな」


 エイクオンは、面倒臭そうに言った。


(今回も、お父様は、私を嫁に出すつもりは無いみたいだわ。 なら、言い訳を探して、着地点を見つける必要が有るようね)


 リズディアは、エイクオンの様子を伺っていた。


「陛下。 私は、帝国大学の推薦枠を確保しており、来年度から身の振り方は決まっております。 ですので、今回も、私が嫁ぐことはありません」


 リズディアは、親に対してではく、皇帝陛下に対して話をした。


「ああ、分かっている。 私も、そのつもりなのだよ。 だが、2度も断るとなると、外交的に問題が出てくるのでな。 それをどうするかとなっているのだ」


 リズディアは、合点がいったようた。


(やっぱり、その辺りの問題なのね。 ……。 北の王国は、帝国の建国時に庇護してくれた国、目的は、南の王国との貿易路の確保だったわね。 ……)


 そして、表情を若干、勝ち誇ったような様子をする。


「でしたら、陛下。 建国当時から続いている、北の王国への通関手数料を、他国と同じようにすると通達したらいかがですか? 現在、北の王国とだけ、通関手数料をもらっておりません。 西の王国もそれ以外の国も、帝国を通過する際の通関手数料をいただいております。 そろそろ、北の王国も同様にさせてもらいましょう」


(なるほど、北の王国は、建国時から続いている通関手数料の免除をおこなっていた。 これとリズディアを天秤にかけさせるというのか。 ……。 しかし、リズディアを嫁に渡すから、通関手数料を開始するか。 ちょっと、これは、喧嘩を売っているみたいだな)


 エイクオンから、心配そうな表情が抜けて、それによるメリットを考えるように、目つきが変わっていた。


(やはり、リズディアは、帝国に居た方が、メリットが高い。 こんなアイデアを10代の娘が提案できるのは、大きい。 この先、クンエイの代に変わったとして、リズディアの知略は、クンエイを、そして、帝国を助けるだろう)


「なるほど、よく分かった。 この縁談は、無かったことにさせよう」


 リズディアは、安心した表情になる。


「かしこまりました、陛下」


 リズディアは、話しがまとまったので、エイクオンに臣下の礼をすると執務室を出ていった。


(政治面のクンエイ、軍事面のエナエイ、それにリズディアの知恵が加われば、今後50年は、帝国も安泰だ。 ……。 だが、北の王国か。 この2度目のリズディアへの縁談は、どうも、引っかかるな)


 クンエイは、リズディアの出ていったドアを、ジーッと眺めていた。




 リズディアは、高等学校の卒業を控えている。


 後宮では、高等学校入学時に、家庭教師をする事を約束したイルルミューランと、第5皇子のイヨリオンが、一緒に生活している。


 イヨリオンは、幼年学校を卒業することになっており、第1区画の高等学校へ進学する予定にしている。


 貴族向けの幼年学校でも、イヨリオンは、優秀な成績を残していた。


 同様にイルルミューランも成績は上位に居た。


 後宮内では、2人が一緒に暮らすようになった時程、あからさまにリズディアとイルルミューランを近づけようとはしないが、さりげなく、一緒にいる時間を演出するようにしていた。


 年相応の反応ができるように、メイドや執事たちは、方向転換して、卑猥な演出は控えるようにしていた。


 その甲斐あって、2人は、仲の良い兄弟のような様子で、生活していた。


 しかし、隣同士の部屋の扉は、そのままになっており、今も、着替えの際には、メイド達が、連絡を取り合うために行き来していたのだが、リズディアとイルルミューランの2人が、周りに分からないように、その扉を使う様子は無かった。




 ある日、リズディアの家庭教師が終わると、イヨリオンが、リズディアに話しかけた。


「リズディアお姉様。 私も、今年度で、幼年学校を卒業して、高等学校に入学します。 それで、私は、高等学校を、飛び級制度を利用して、帝国大学へ、一刻も早く進みたいと思ってます」


 リズディアは、イヨリオンの決意を聞いて、感心した。


「まあ、えらいわ、イヨリオン」


「私は、皇位継承権も返上してますから、これからは、もっと勉強して、帝国大学で教鞭を取るか、研究する道を進みたいと思っております。 私が、独立して、そして、母様と一緒に住みたいと思っております」


 イヨリオンの決意を聞いて、リズディアは、嬉しそうにした。


「わかったわ。 だったら、その方法を知っている人を紹介するわ。 その人に教えてもらって、飛び級で、帝国大学を狙いなさい」


「はい。 ありがとうございます」


 イヨリオンとの話が終わると、リズディアは、イルルミューランを見た。


 イルルミューランは、黙って、2人の話を聞いていた。


「ねえ、イルル。 あなたは、後1年あるけど、どうするつもりなの?」


 イヨリオンより一つ下のイルルミューランには、まだ、早いかと思ったようだが、リズディアは、一応、聞いたようだ。


「僕は、父の後を継いで、商人になる予定です。 商人は、人との繋がりが大事だからと言われておりますので、飛び級ではなく、普通に高等学校に通うつもりです」


(まあ、3年間使って、人脈を得ようというのね。 イスカミューレン様から、教えられたのかしら。 イルルも、しっかり考えているのね。 それに、イルルは、やっぱり、商人になるのね。 ふふふ。 私も、その方向で学部を選んだのよ。 大きくなっても、あなたと同じ方向になるようにしてあるわよ)


 リズディアは、イルルミューランも、自分の進むべき道が見えていることに、嬉しく思ったようだ。


「そうね。 学校は、それぞれの目的に応じて使い分けた方がいわね。 イルルも、イヨリオンも自分の目的を持って、しっかり、その目標を達成してね」


 そう言って、リズディアは、2人に笑顔を向けた。


 すると、イルルミューランが、何かを気になったようだ。


「そう言えば、リズディア様は、大学は、どの方向に進むのですか? リズディア様は、衣装を作ることがとてもお上手でしたから、その方面なのでしょうか?」


 イルルミューランは、リズディアに尋ねると、リズディアは、恥ずかしそうにしたが、イルルミューランもイヨリオンも、リズディアが、何で恥ずかしそうにしたのか、不思議そうにみていた。


「え、ああ、私は、悩んだのだけど、経済を学ぶようにしたの。 帝国を良くするには、その分野の方が、ためになると思ったのよ」


(経済学には、商業に関する事も勉強するのよ。 きっと、イルルが、大学に入る時にも、助けられると思うわ。 だけど、あからさまに商業だと、周りの目があるから、経済学にしたのよ)


 リズディアは、答えた。


「そうですか。 私は、卒業後に商業について、大学で学ぼうと思ってました。 ですので、私が、大学に入学するときは、リズディア様に、色々、教えてもらえそうですね」


 イルルミューランも、嬉しそうにリズディアに答えた。


「あら、そうね。 イルルが、そっちの方に進むなら、その時も、私が助けることができそうね」


 リズディアも嬉しそうに答えた。






「リズディアへの縁談の申し入れは、帝国から正式に断られた。 今度は、大学へ進学だと、どれほどの天才なのだ」


「そんな事は、どうでもいい、それより、通関手数料を他国と同じに取ると言い出したのだぞ。 それの方が、大変だぞ」


「ああ、通関手数料が無い事で、国内の流通価格が低い事で、国民も潤っていた。 だが、通関手数料が上乗せになったら、国民の不満が大きくなってしまう」


「ああ、そうだ」


「言い方は、丁寧な言い方をしていたが、リズディアを嫁に取るなら、通関手数料を寄越せと言っているのと同じだ」


「この通関手数料を、我が国が受け入れられないと思って、言ってきたのか」


「これ以上、リズディアを嫁に寄越せと言ったら、通関手数料を取ると言っているのだろうな」


「全く、宗主国をなんだと思っているのだ。 身の程を弁えぬのか」


「仕方がない。 ここは、リズディアを嫁に取るのは、諦めるか」


「お待ちください。 それなら、こちらから、嫁入りさせるというのはどうでしょうか?」


「それこそ、長男のクンエイにしても次男のエナエイにしても、もう、三男まで、あの国は嫁が決まっているぞ。 そこに、割り込ませようというのか」


「上の3人は無理でしょうが、四男のルインカンにです」


「あれは、未だに、皇位継承権を放棄してない。 五男のイヨリオン以下は、全て、皇位継承権を放棄しているが、あいつだけは、放棄してない」


「なるほど、上の3人に何かが起これば、次期皇帝は、ルインカンになるのか」


「そういう事だ。 皇族というものは、なぜか、早死にする者が多い事もある。 あの四男の母子は、微妙な立場になっているからな」


「うん、あの母子は、使えるかもしれないな」


「ああ、結婚の時、付き人として、数名を付けて後宮に入れる。 こちらの息のかかった人間を入れておくのだ」


「そうだな。 気がついたら、長男から三男が、他界してしまうかもしれないな」


「そうだよ。 あの国の系譜には、直系が絶えた事もあったのだ」


「ああ、四男が皇帝位を継いでもおかしくはない」


「そういうことだ」

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