荒川EP 自転車のチューニング セリフ

 えっ? 何も変えてない?


 そうだ。パーツは何も変えちゃいない。


 どういうことですか。私はてっきり、中古でも良いグレードのパーツを付けるものだと思ってたんです。神崎さんに嘘を言ったんですか?


 嘘じゃない。少しだけあの自転車に魔法をかけた。


 ……魔法?


 自転車のロスってのは何も乗り手だけのせいじゃない。車に例えるなら乗り手がエンジン、それなら逆に、付随するパーツにもロスはある。機械が機械の部品を作り出す、最高グレードのパーツにさえも存在する、大量生産からくる微妙なバラつき。俺はあの自転車をバラして、もう一度組み上げただけだ。


 つまり、バランスを取ったってことですか?


 そうだ。bbの内部、クランクシャフト、ハブのベアリングパーツ、スポークテンション……力の伝達効率をより良くするために、駆動系の一つ一つを磨き抜いた。少ない力で、そして疲れにくく、より滑らかに回るように、俺はずっとあの自転車のバランスをとり続けた。

 新品は何も使っちゃいない。ただ見違えるように走れるようになってる筈だ。ワンランク上のコンポを積んだみたいにな。

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