第13話 ゴーレムの解体

 ゴーレムを倒した冒険者達は大きな部屋に着いた。部屋の中心には円形の台座が置かれていた。

 

「これは転送装置だな。この台座に乗れば、このダンジョン内のどこかへ移動するっていう仕組みだ」

 どこかのベテラン冒険者が自慢げに語っていた。転送装置に乗ると目の前の景色がぐにゃりと歪み、別の場所に着いた。とは言っても、無機質な灰色壁と、青緑色の光が走る光景は同じだが。

 

「うぅ。なんか変な感覚」

 シャルロッテはメガネ外して目をパチパチさせていた。

「確かに、あまりいい感覚じゃないね……」

 クロも同意した。

「なんだ、2人とも転送装置に乗ったことないのか?」

 けろっとしているのはジーノだ。余裕そうに尻尾をゆらゆら揺らしている。

「君はあるのかい?」

 クロが尋ねるとジーノは親指を立てた。

「おうよ。ダンジョンはこれで3回目だからな。まぁ慣れってやつだ!」

「全く、だらしがない。人間というのはつくづく弱い生き物だな」

 シリウスは嫌味を吐く。

 

「ところで今何階くらいにいるんだろ?」

 歩きながら体調を取り戻したシャルロッテが言った。

「さぁな。ただ、人間共の建物みたいに一階毎にちまちま上がってるわけじゃあないだろう。一つの階が、それなりの高さがあるからな」

 シリウスが天井を見上げながら答える。天井は相当高く、どうやってこのダンジョンは建造されたのか不思議になる。

 

「生体反応を検知。生体反応を検知。これより隔離。計測を開始します」

 

「げっ! またゴーレム?」

 

 シャルロッテが言うように、また天井からゴーレムが降りてくる。クロは脚を「魔人化」させる。

 

「ちょっと試したいことがある」

 

 クロは左手を掲げて星光の大包丁スタークリーバーを出すと、ゴーレムに斬りかかる。だが狙いは核ではない。核の周りの身体部分だ。

 

「そこだ!」

 

 星光の大包丁スタークリーバーがゴーレムの体に食いこみ、切断する。切断した箇所には、まだ光を帯びている核があった。クロは核を壊さないよう、慎重に星光の大包丁スタークリーバーで解体していく。

 

「すげぇな。核を壊さないで、ゴーレムを倒しちまった……って何してんだ?」

 ジーノは不思議そうにクロのしてることを見ている。

「よし! 上手くいったぞ!」

 クロは核を手に取る。煌々と輝く青白い光がクロとジーノの顔を照らした。

「おいおい、何だこれ? ゴーレム核を取り出したってのか?」

「えへへ。クロはすごいのよ! 解体師だから!」

 なぜかシャルロッテが胸を張って自慢げだ。


「解体師すげぇ! これ何に使えるんだ?」

「うーん。それは僕にも分からない。ゴーレムはモンスターじゃないから、解体師のスキルでも解析できないんだ。ただ、これだけの魔力だから何か使い道があるのかなって――」


「おい、貴様。さっきから何をしているんだ」

 

 そうクロ達に言ってきたのは、エルフ族の男だ。とんがった耳が特徴的な種族だ。男は険しい目でクロを睨みつける。

 

「ゴーレムの核を取り出すなど聞いたことない。それにその手に持った青い剣はなんだ? それは尋常ではない魔力の塊だ。我々エルフ族の目は誤魔化せんぞ。何者だ、貴様?」

 

 エルフの男は手に持った槍をクロに突きつけた。その動作は瞬きにも満たない一瞬だった。

 

「ク、クロ!」

 シャルロッテが銃を引き抜く。

「なっ! こいつ早ぇ!」

 ジーノも槍を抜いて、エルフの男に向けた。


「ほぉ。試してみるか? 貴様らが私を殺すのが先か。私の槍がこの者を貫くのが先か?」


(おい! 首を魔人化すれば槍如き防げるぞ)

 

 シリウスが頭の中でそう言う。それはそかも知れないが、ほんの少しでも動けば、魔人化する前に刺し貫かれそうな殺気がこの男にはある。それに今揉め事を起こすのは得策ではない。


「……僕は解体師だ。利用できるあらゆる物は解体し、利用する。ゴーレムの核も解体師としての仕事だよ」

「ならその青い剣や、脚を覆っている黒い異物も、解体師の力か?」

 

 やはり鋭い。槍術だけでなく、観察眼や思考も抜け目ない男だ。

「そ、それは……」


「リトロー、そこまで……」

 

 囁くような、だが力強い声がした。声の主はクロの口に人差し指を当てた女だった。

「アイヴィー様。これは失礼しました」

 リトローと呼ばれた男は、いつの間にか槍が背中に納めている。納めた瞬間も分からないほど早い。


「不可思議な魔力を持っていたので。アイヴィー様の脅威にならぬか、探ろうとしました」

「……大丈夫。この人は、優しい人……」

 アイヴィーはクロの前まで来ると目を伏せて頭を下げた。よく見れば、アイヴィーの耳もエルフ族のそれであった。


「突然、ごめんなさい。驚かせてしまって……」

「あ、いえ! 大丈夫です」

 クロはアイヴィーの美しさに見惚れそうになる。


 「リトロー。私達は解体師のことを良く知らないわ……。知ろうとしてこなかった。それは私達の罪ではなくて……?」

「はっ。アイヴィー様の仰る通り。視野が狭くなっていたのは事実です」

 リトローはクロを見る。

「失礼した。そなたが我々の脅威でないと認めよう。どうしてもダンジョンの大規模攻略は有象無象が入り乱れる。不審なものがいれば、自衛のために脅威の芽は摘んでおくものでな。そなたらにも失礼した」

 リトローはシャルロッテとジーノにも頭を下げた。

「いえいえ! こちらこそ」

「いやぁ、ヒヤヒヤしたぜ」

 二人とも武器を収めた。


「――老婆心ながら一つ忠告しておこう。もう一つ

 、怪しいパーティーがいる。騎士と魔法使いと重斧士のパーティーだ。実力的に然程のものとは思えないが、気をつけておくといい」


 そう言ってアイヴィーとリトローは去っていく。ジーノは「なんのことだ?」とさっぱりな顔していたが、クロとシャルロッテは目を合わせた。怪しいパーティーとは、まさしくローレル一行のことだろう。そういえばローレル達は大勢に紛れているのか、見当たらない。


 その後もゴーレムは何回か出現し、その度に核を解体してていった。ある程度探索すると、疲労も溜まってきたので、ダンジョンの外に出る。他の冒険者達も同様に帰還していくようだ。

 

「ふぅ。1日目終了ってとこだな」

 ジーノが伸びをしながら言った。

「そうだね。メイトクリフに帰ろうか。そういえば、ジーノはメイトクリフにアジトがあるのかい?」

「そんなのあるわけねーじゃん! 野宿だ野宿!」

「や、野生児ね。竜人族ってみんなこうなのかしら?」

 シャルロッテは肩をすくめた。

「もし良ければ、僕達のアジトにこないかい? オンボロだけど……」

「おっ! いいのか! いいねいいね、楽しそうじゃんか!」

「全く、むさ苦しいのが増えたな……」

 シリウスも呆れてクロの胸に戻っていく。取り敢えず、巨人の銛大規模攻略作戦の一日目はこうして終わった。

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絶対解体バラバライズム~弱ジョブ解体師が悪魔と契約。魔人となった冒険者の成り上がり冒険譚~ 玉根 亮太郎 @Esmeras

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