第12話 竜人族の青年、ジーノ
巨人の銛の中は異質な空間であった。灰色の床や壁は大理石のようにも見えるが、実際は全く未知の素材で出来ているようだ。建物は生きているかのように、青緑色の光の線が、一定のリズムで流れている。それは脈打つ血管に見えた。それにとてつもなく広い。外から見た時も相当な大きさだと思ったが、中に入るとより一層感じた。
「これ、上に向かうんだよね?」
シャルロッテが不安そうにクロに聞く。
「うん。恐らくは」
「間違いなくそうだ」
そうはっきりと答えたのはシリウスだ。クロの胸から控え気味に飛び出している姿に、少しヒヤリとしたが、今この状況でクロ達に注目する者などいないだろう。皆、成果を得たくて血眼だ。
「ここは、塔の形をしたダンジョンだ。なら目指すは上だ」
「へぇ。まるで知ってるかのような口振りね。シリウス」
「当たり前だ。俺様を誰だと思ってやがる」
ふん、とシリウスはどこにあるのか分からない鼻を鳴らした。他の冒険者達も、上へと繋がる道がどこかを探しているようだった。広い通路をひたすら歩いている。
「生体反応を検知。生体反応を検知。これより隔離。計測を開始します」
そんな声が突然ダンジョンに響き渡る。と同時に目の前にどこからともなく壁が迫り上がる。
「ちょ、ちよっと! 何よあの壁!」
シャルロッテは高く上がった壁を見上げながら言った。
「分からない。でもあの高さじゃあ、さすがに越えられないね……」
「なんだこれ! うぜぇぞ!」
そう男の声がしたので後ろを振り向くと、同様に壁が出ていた。男は壁をガシガシと蹴っている。すると今度は手高い天井から穴が空いて、そこからいくつもの人型が降ってくる。
「ふむ。恐らく侵入者用のトラップか何かだろう。あの人型は”ゴーレム”だ。ダンジョンで見かける古代の人形兵器と言ったところだな。ちなみに、ゴーレムは襲ってくるぞ」
シリウスの言う通り、ゴーレムは頭部の一つ目を赤く光らせこちらに向かってくる。
「排除、排除。侵入者ヲ排除シマス」
「排除されてたまるかっての!」
シャルロッテはマスケットを引き抜き、トリガーを引く。発射された弾丸はだが、ゴーレムの石のような身体には効いていない。
「なっ! 硬すぎでしょ!」
「ゴーレムってのは、背中にある"核"を狙うんだぜ!」
そう勢い良く、槍を構えながらゴーレムに飛び込んできたのは、先ほど壁を蹴っていた男だ。頭の脇に生えた二本の角。身体の所々を覆う鱗と長い尻尾は、彼が
ゴーレムは竜人族の男を叩き潰そうと、豪腕を振り下ろす。男はそれをひらりとかわし、ゴーレムの背中に回り込むと、槍を背中に突き刺す。そこは、背中のわずかな隙間にある、青白く光った箇所だった。ゴーレムはバラバラと崩れ落ちて、機能を停止する。
「へへっ! 一丁上がりだぜ!」
男は自慢げに槍を振り回してみせる。
「シリウス! 僕達もやろう!」
「あぁ! 『魔人化』だ!」
クロの脚が黒いヘドロで覆われる。
「
クロは魔人化した脚で、ゴーレムの頭を飛び越えて、そのまま落下し、背中から一刀両断する。真っ二つ解体されたゴーレムの背中には、確かに元は球状だったであろう核が見えた。クロは目を魔人化させる。
「すごい魔力の固まりだ……」
「さっすがクロじゃない! 私も負けないわ!」
シャルロッテもゴーレムの後ろに走り、回り込むと素早く核を撃ち抜いた。
「あんた達、やるじゃんか!」
竜人族の男が話しかけてきた。
「というか、ゴーレムを真っ二つなんて、すげぇって!」
男はヒューっと口笛を鳴らした。
「それはどうも」
クロが返事をすると、男はクロの背中をチラッと見る。
「その箱、あんた解体師か! 解体師ってそんな芸当が出来んのか?」
「いや、それは僕だけと言うか――」
「俺様のお陰だ!」
シリウスはそう言いながら、クロの胸から突然飛び出しきた。クロとシャルロッテは突然の出来事にお互いに目を合わせ冷や汗をかく。
「うん? なんだこいつ。虫か?」
「おい! この下等生物め! 誰が虫だ! 俺様は悪魔だ!」
シリウスは青い目をぎらつかせ、憤る。
「へぇー! 悪魔ってこんななのか。面白れぇ!」
男はケラケラと笑い出す。
「おっと、すまんすまん。俺の名前はジーノだ。ジョブは槍使いだ」
「あ、あぁ。クロだ」
「私はシャルロッテ。銃士よ。シャルって呼んでくれて構わないわ」
「クロに、シャルか! それに……」
「シリウスだ! 星見の悪魔シリウス! あ・く・まだ! よく覚えておけ!」
「あぁ! よろしくな、シリウス」
ジーノは陽気に笑った。どうやらシリウスのことは信じているのかいないのか、何とも思っていないらしい。
「計測終了。クリア。隔離を解除します」
またどこから無機質な声がしたかと思うと、壁が一斉に下がる。壁の向こうの冒険者達の所にも、ゴーレムの残骸があった。
「他の奴等もゴーレムを倒したみてぇだな」
ジーノが槍を背中に納めながら言った。こうしてクロ達は、ジーノと協力し、一時のパーティーを組むことになった。
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