第11話 封印石、故郷の危機

 ヴァルク王国での、勇者の役目は主に三つある。

 一、魔王討伐においての調査及び、実行。

 二、討伐難易度Sクラス以上のクエスト参加又は、助言。

 三、その他、国王の勅命による任務。


 ジーク部隊長が話すには、現勇者のカケルは魔王討伐任務も、Sクラス討伐任務も行っていないらしい。

「じゃあ一体何を……?」

 勇者において最大の任務は魔王討伐だ。それを行わない勇者など俺は聞いたことがない。そしてなにより、それを許している国王の考えが俺には分からない。


 ジークは、銀色に輝く兜の下でいぶかしげな表情を見せる。

「封印石を集めております」

「封印石ってあの災いの封印石ですか?」


 この世界の各地に七つある通称〈災いの封印石〉

 古文書、黙示録にもその存在が示されており、七つ集めその封印を解くと、世界に四十日四十夜の厄災が訪れるとされている。


 しかし、いまだかつてそれが一つの場所に集まったことはない。

 七つの内、三つは魔族の支配する地域、二つが人族、そして残りの二つがエルフ族の支配するテリトリーにあるため、全てを集めるのは困難である。

 皮肉にも、魔族との軋轢が、石が揃い厄災が訪れることを防いでいる。


「はい、災いがおきるとされている封印石です。カケル様は異世界から召喚され、勇者に任命された後すぐ、封印石を集める任につきました」

「任に就いたってことは、国王の命令で集めているんですか?」

「そうです。国王も石を集めることを最優先にしろとのご命令です」


 俺は、手を口元に近づけ熟考する。

 ヴァルク王国の勇者であることを示せば、人族であればきっと封印石を差し出すだろう。エルフ族の持っている封印石も無理やり回収しようとすれば勇者の力があれば不可能ではない。

 しかし、たとえ人族とエルフ族の封印石を集めることに成功したとしても、魔族の持っている石を回収することは不可能に近い。なにより、石を集め、封印を解き、厄災をもたらすなど現実的に行うメリットがない。

 一体、王と勇者は何を行おうとしているのだ?


「まって……リズシアには封印石があるです!」

 ソフィアは思い出したかのように叫んだ。立ち上がった勢いでソフィアの前にあるテーブルがガタっと揺れる。


「本当か⁉―――ジークさん、勇者は今どこへむかっているんですか?」

 皆がジークさん方を向く。

「私たちは行き先を教えられませんでした。しかし、リズシアに封印石があるのであれば、非常に可能性が高いと思います」

 森を抜け、今俺たちがいる橋を渡った先にはそう遠くない場所にリズシアがある。この橋を渡った先はリズシアだけでなく、他の隣国へ行くことも出来る。だが、ジークさんの話を聞く限り、勇者カケルはリズシアへ向かっていると考えていいだろう。

 ドラゴンと戦い、丸一日寝込んでいたのだ。それを考えればもう到着していてもおかしくない。


「エルフ族が石を渡さなかった場合、勇者カケルはどうしますか」

 他の種族が来て、たとえ勇者でもおいそれと封印石を渡すとは考えにくい。

 ソフィアは固い表情で、ジークさんを見る。


 もし、勇者が実力行使を行った場合どうなるかはわからない。異世界召喚の伝説では、チートスキルが付与されるとのことだ。武力に関しては、俺と同等、またはそれ以上のものを持っているだろう。連れている直属の部下というやつらも気になる。


「正直それは分かりません。今まで回収した封印石は人族が所有するものでした。それも、ヴァルク王国の影響力が強い地域です。こちらが勇者であることを明かせばなんの事もなく引き渡してくれました。しかし、私は今まで、カケル勇者の行動を見てきた限り、平和的な解決方法より、手っ取り早い武力で収めるのではないかと思ってしまいます」

 ジークさんからの返答は良いものではなかった。特に、ソフィアは焦りを見せている。自身の故郷が勇者に襲われているかも知れない。焦りを見せるのも当然のことだろう。


 そして、人族にとっても良いことではない。過去、エルフ族と人族は争うことが多かった。しかし、魔族が年々力を付けたことにより、争っている場合ではないと関係は良好になった。ここで勇者がエルフを襲撃してしまったとあらば、二者間の関係性は悪化してしまうだろう。それを一番喜ぶのは魔族だ。


「私、急いでリズシアに向かうです」

 そう言って、勢いよくソフィアは入り口から飛び出した。

「待ってくださいソフィアさん」

 アリアが後を追いかけるが、その声はソフィアには届いていない。


 俺もこうしている場合ではない。俺は勇者を解任された身分だ。しかし、その前に世界の平和を強く願う冒険者だ。追いかけて、何事も無ければそれでいい。何かあった時のために行かなくてはならない。


「ありがとうございましたジークさん。俺たちは急いでリズシアに向かいます」

「そうですか、気をつけてください」

 ジークさんは俺に敬礼をした。

 満身創痍ではない体を起こし、俺はテントを出る。

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リストラ勇者~チート異世界人が召喚されて、勇者を解任されたけど陰で世界を救います。~ 琉羽部ハル @Akasaka_haru

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