第3話 先鋒戦②
栗林は迷っていた。
境界線ギリギリに追い詰めたのに、吉田が回り込んで状況を脱する気配がない。
場外に出てしまえば反則だ。二回繰り返せば相手に一本を与えてしまう。
ほんの一瞬、しかし確かな迷い。
瞬間、吉田が動いた―ように見えた。
「小手ェェェェ!!」
出鼻小手。
文字通り相手の出鼻を挫き、小手に打ち込む技術である。
しかし、その打突は空を切り、栗林の竹刀が吉田の小手をとらえることはなかった。
「面ンンンンンン!!!」
スパァーン。
「面ありィ!」
面あり一本。
吉田の小手抜き面が決まった。
小手抜き面は、相手が自分の小手に打ち込んでくる所を振りかぶり、空を切らせる。直後にガラ空きになった面に打ち込む技術である。
栗林は内心舌打ちしていた。
吉田が起こしたわずかな踏み込みの音、竹刀を振りかぶろうとする動き。
そして栗林に生じていた迷い。
冷静であれば、吉田が境界線側から動かないことに対する違和感も、栗林がそれらに惑わされることもなかっただろう。
なぜ動いた―ように見せかけた―のか。
一本を先取されたという状況、あの追い詰められた状況で自ら動かないという栗林には理解できない吉田の思考、そして何より早く一本を取り返さなければという焦り。
それらは雑な攻めとして如実に隙として現れる。
必然であった。
「二本目!」
主審の掛け声で二本目が始まる。
息こそ切れているものの、焦りも見えず落ち着いた雰囲気の吉田。
対するは自らの有利という牙城を崩され、焦っている栗林。
後の勝負は明白であった。
体格に物を言わせて強引に攻めた栗林に対しての出鼻小手。
奇しくも一本目に栗林が狙った技で勝負を決められる形となった。
「勝負あり!」
主審の掛け声にて先鋒戦は終了。
先鋒戦
○吉田 ― 栗林●
吉田の二本勝ちである。
剣道部員の備忘録 かわせみ @hisui104
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。剣道部員の備忘録の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
田んぼと空の間には山があるのだ!最新/小烏 つむぎ
★194 エッセイ・ノンフィクション 連載中 97話
雨添れいの被らない日常!②最新/雨添れい
★24 エッセイ・ノンフィクション 連載中 100話
そろ十日記最新/Macheteman
★15 エッセイ・ノンフィクション 連載中 77話
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます