第33話 最終回 黒真珠は悪魔の涙か
033 最終回 黒真珠は悪魔の涙か
時が流れた。
ニミッツの娘キャサリン(太平洋艦隊司令長官を解任されたニミッツの娘)は、書斎で亡き父のノートを発見する。
それには、太平洋戦争時の資料や考察などが纏められていた。
そして、最後の方には、太平洋戦争の敗因の一つに、高野兄弟(山本五十六は旧姓高野五十六)が上げられていた。
ヤマモトフィフティーシックス、タカノナインティナイン。
何度も、その名が登場する。
99、99、99とアラビア数字を呪文のように書いている。
タカノの誕生日は9月9日とも書いている。戦後集めたのであろう資料にもそう書かれていた。
その通りであった。彼は9月9日の朝9時9分に生まれているのだ。
別のページには、聖書の一節が書かれている
「また、小さな者にも大きな者にも、富める者にも貧しい者にも、自由な身分の者にも奴隷にも、すべての者にその右手か額に刻印を押させた。そこで、この刻印のある者でなければ、物を買うことも、売ることもできないようになった。この刻印とはあの獣の名、あるいはその名の数字である。ここに知恵が必要である。賢い人は、獣の数字にどのような意味があるかを考えるがよい。数字は人間を指している。そして、数字は六百六十六である。」( ヨハネの黙示録13章16-18節)
666に線が引かれている
この獣の数字にはいろいろな説が存在するのだが、666は実は裏返った画像であり、本当は999、上下逆ではなかったかという言説も存在するのである。
勿論、ローマ帝国皇帝ネロだったとするような論もある。
「奴こそが『獣』であったのではないか?」父が熱心なキリスト教徒だったとは記憶していない。
そして、最晩年の頃のページになると、「奴が『獣』だったに違いない!ああああ」に変化して、筆先に激しい怒りと同時に恐怖が込められていた。
因みに彼女の兄も父と同じく海軍士官であり、開戦時フィリピン沖で潜水艦乗り組み中、MIAとなっていた。
獣による犠牲者は前後大戦を合わせて、軽く100万人を突破していた。
特に後期大戦では、民間人の被害が激増することになる。
・・・・・・
その獣の一族は、独立したニューカレドニアを拠点としていた。
高野親衛隊が中核となり、独立戦争を仕掛けたのである。
そして、親衛隊のシンボルとして、亡き中将の忘れ形見、長男マキシムがこの国を治めることになった。
ロシア人嫁や付き人達は寒いのが嫌いだったので大変、喜んだという。
この独立国はロシア公国とは縁戚関係であるので国交が樹立され、親交が深かった。
赤道直下に近いアジア諸国やオーストラリア、このニューカレドニアなどは、アジア太平洋連邦に所属し、交易に努めた。
特に、オーストラリアに拠点を移した、高野企業群はその後も続いた第2次世界大戦の特需で相当に儲けていた。その反動で西洋諸国は疲弊しきっていた。
ニューカレドニアは、南アフリカに特殊作戦軍を派遣し、独立運動を展開させる。
そして、自らの陣営に取り込むことに成功する。
オーストラリアに巨大な軍需産業とコンピュータ企業ができた。
そして、必要な資源も自前とアジア、南アフリカで自給することができるようになった。
いわゆる西洋諸国は戦争の合間に、資源のほとんどをかすめ取られたことに気づいたときは遅かった。世界の支配権が経済にあるとすれば、今や富の過半が南半球に存在した。
資源地帯には、必ずといっていいほど、高野企業群が介在した。
これでは、戦争に勝ったとしても、資源確保が十分でなく、自身の国の企業も成長できないような形に追い込まれていた。
世界の支配権(経済帝国)は今や、地球の南半球に移ったのであった。
・・・・・・
今日も、色白の男が漁船から降りてくる。
男の職業は黒真珠の養殖だった。
近ごろ、ようやく成功を収めつつあった。
男曰く、『この黒真珠は私の気持ちを表している。涙なのだよ』
真珠は人魚の涙、黒真珠は悪魔の涙といいたいらしい。
男の名は、コロシス・ギールデ。元ソビエト人だという。
確かに、ロシア語を話す。
ソビエトのNKVDの元大佐だったが、一念発起して、黒真珠養殖を始めたという。
その事業が成功し、財をなし、未亡人になった、ロシア公国の王女と結婚したのだという。
「おかえりなさい」こちらは、日焼け対策をバッチリした白人の嫁らしい。
ほとんど肌が見えないようにしている。
「総帥、お疲れ様です」
「うむ」コロシスは敬礼を返す。それは海軍式の敬礼だった。
・・・・・・・・
「よくぞ無事にやり遂げてくれました」
いつぞやの白い部屋には、#$%&女神が立っていた。
「は、見事にやり遂げました」
目隠しがざわざわと動いている。鼻筋や唇などを見ていると相当な美人であろうと思えるのだが・・・・。
「だいぶたくましくなりましたね」
「は、大分、逞しくなりました」
「ありがとう」
「は」と敬礼を返す。
「これで、多くの付喪神たちが生き残ることができました」
「私も、歴史的艦艇などを堪能することができました」
自らの直営空母機動艦隊を構成し、太平洋を走り回ったのである。因みに敵はなかったので暴れまわることができなかった。この連邦太平洋艦隊の示威行動は、米国へのけん制の狙いも含まれる。
赤い彗星を再現できなかったことは少し心残りだった。
代わりに「蒼い流星」を仕立ててみた。
「あなたこそ、付喪神の神、まさに九十九神と言えるでしょう」
そこか~い、心の中で叫んだ男であった。
「これからあなたは各地の付喪神からの加護を受けることができるでしょう」
「いや、もう普通の生活(すでに死んでいるが)したいんですが」
「心から本当にありがとう」女神が頭を垂れる。
「いえこちらこそ」
そして、目隠しが消える。
眩しい光のような衝撃がきて眼をつぶりそうになる。
まさしく完璧な美人というか人間ではない何かがそこに存在する。
心がそれに持っていかれる。
「だから見せられなかったのです、人間では、眼が潰れるくらいでしょう」少し自慢げな女神にイラっとしつつも、
「ははあ」とひれ伏しながら、クトゥルフの神ではなかった~と心の中で叫ぶ俺が確かにそこにいた。
・・・・・
獣は齢99歳に及び天に召された。
天国に一番近い島で早く天に帰りたかったのかもしれない。
もちろんこの男の事であるので、そんなことはない。
ニューカレドニアには地下資源が豊富に埋蔵されているため、適当な理由を付けてこの島に移住し支配を目論見、子孫たちに残してやったのである。(この世界では、世界最大の企業がオーストラリアに存在し、世界を経済的に支配することになった)
オーストラリアにも、いわゆるスイス銀行のようなプライベートバンクが次々と設立され、資本家たちの資産を隠し持つようになったことは言うまでもない。
オーストラリアは武装中立を宣言した。
死んでもただでは起きないをモットーとするこの男らしい生きざまだったというべきであろうか。
ニューカレドニアの強い日差しが白い砂浜と青い海を輝かせていた。
提督の野望Ⅱ 死戦編 完
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提督の野望Ⅱ ~死戦編~ 九十九@月光の提督・連載中 @tsukumotakano
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