第一部:自然よ、汝こそ我が女神

アーカムのローマ人

第一幕第一場

キング家のホール。60代のライアン・キングと30代前半の娘のレニー、20代後半の息子のトムが立っている。玄関のドアから50歳前後の男性、郡司ぐんじ伯一ひろかずとその息子で18歳の栄太郎えいたろう、娘の二上ふたかみ英真えま(エマ)が入ってくる。二人はスーツケースとバッグを持っている。


伯一:ライアン!トム!レニー!久しぶり!

ライアン:いらっしゃい!

トム:こんにちは。

レニー:こちらが息子さんと娘さん?はじめまして。私はレニー・キング。ライアンの娘です。

ライアン:ライアン・キングだ。こちらは下の子のトム。

トム:よろしく。

栄太郎:こんにちは。

エマ:はじめまして。

ライアン:(伯一に)そういえば、君に娘がいるって聞いたのはこの前が初めてだな。

伯一:外で出来ちゃった子なんだが、最近よく会うんで連れてきた。(エマに)ご挨拶しなさい。

エマ:二上ふたかみ英真えまと申します。エマとお呼びください。

トム:はじめまして。

ライアン:賢そうな子だ。

レニー:こんにちは。あら、可愛い!いくつ?

エマ:二十歳です。

伯一:エマは栄太郎とも仲良くしてくれるんだ。本当にいい子だよ。(栄太郎に)この前、一緒にサッカーを観に行ったんだよな?

トム:サッカーが好きなのか?

栄太郎:はい。僕も姉さんも好きです。

伯一:(エマに)エマ、みんなに成人式の写真を見せてあげなさい。

エマ:はい。(スマホをキング家の人々に見せる)

ライアン:素敵なスーツだなあ。

伯一:本当は着物を買ってやりたかったんだが妻が反対してね。

エマ:スーツでちょうどいいです、就活でも使えますから。

トム:君も英語学校に?

エマ:はい。栄太郎と一緒に行ってあげなさいってお父さんが。

伯一:エマは外資に就職したいそうだから、英語が話せた方がいいだろうと思ってな。

トム:エマ、栄太郎、馬は好き?

栄太郎:はい!

エマ:うーん、近くで見たことがないからわからないけど、きっと好きだと思います。

トム:着替えておいで。うちの馬を見に行こう。怖くなかったら乗せてあげるよ。

エマ:ありがとうございます。

栄太郎:ありがとう、トムさん。

レニー:私も庭に行く。夕食に使うハーブを摘まないと。

トム:じゃあ、みんなで散歩しよう。二人とも、着替えたらまたホールにおいで。

エマ:わかりました。(栄太郎に日本語で)着替えてここに来いって。

栄太郎:(エマに日本語で)了解。


(エマ、栄太郎、レニー、トム、退場)


伯一:じゃあ、私はこれで。

ライアン:やっぱり逗留していかないか?オズワルドが会いたがっていた。

伯一:会社が繁忙期でね。エマが抜けるからますます忙しいんだ。例の日には間に合うように戻ってくるから心配しないでくれ。

ライアン:帰ってきてくれるんだな。わかった。

伯一:二人を大事にしてやってくれよ。特にエマは今まで日本を出たことがなくて緊張しているはずだ。

ライアン:英語も上手だし心配ないだろう。

伯一:じゃあな。くれぐれもよろしく。

ライアン:約束通り、お子さんを送り届けてくれてありがとう。

伯一:私は約束を守る男だ。君もそうだろう?

ライアン:もちろん。来たるべき時には、私もそうするさ。

伯一:じゃあ。

ライアン:またな。


(伯一は玄関ドアに退場。ライアンは屋敷の奥に退場)

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