カップ麺は死の香り!
「
軽太郎はカップ麺を眺めながら、
「ところがこの担々麺は、トンガラシペーストを先に入れてお湯を注いでいます。作り慣れている紀幸さんが、こんなミスをするとは思えません。別の何者かがやったのです」
「そうか!君が『変だ』と
警部の言葉に、コクリと
「秋人さん。アナタ、左手にケガをされてますね?」
突然の軽太郎の指摘に、ハッとしたように顔を上げる秋人。
「え!?一体何の事か……」
「アナタは先ほど、時間を確認するのに腕時計を見ずに携帯を見ました。それも、わざわざバッグから取り出してです……その時分かりました。アナタが普段、腕時計をつけていないという事が……ではなぜ、今はつけているのでしょう」
軽太郎は、目を細めて秋人の顔を眺めた。
「それは、手首に負った傷を隠す為です。恐らく紀幸さんと争った時についたのでしょう。たとえば……そう、ナイフの切り傷とか」
その言葉に、皆の視線が秋人の手に集中する。
秋人は
「ああ、確かについてるよ。だがこれは、今朝
語気荒く言い放つと、秋人は腕時計を外した。
そこには、血の乾いた
「紀幸さんを殺害した時、台所には血が飛び散りました。
秋人の抗議を完全無視し、軽太郎は説明を続けた。
「だがアナタには、それがどちらの血痕か区別がつかなかった。無論、そのままにしておく事はできない。ここでアナタの血痕が見つかれば、争った物証となり得るからです。それでアナタはやむなく、全ての血痕を拭き取ることにした」
軽太郎の視線が、チラリと伊達牧警部の上を走る。
これが血痕の無かった理由であるというサインだ。
「調理台や器具の血痕は拭き取りましたが、一箇所だけ拭き取れない箇所がありました……それは、この担々麺の麺です!」
ここが重要とばかりに、語気を強める軽太郎。
「カップ麺にお湯を注ぐ時、フタは半開きにします。アナタが紀幸さんを襲ったとき、丁度その状態だった。そこに飛び散った血が入ってしまった」
全員の視線が、今度はカップ麺に集まる。
「その事に気づいたアナタは
「あっ、分かったー!管理人さんだー」
リン子が
「そう、管理人さんが訪ねて来たのです。呼び鈴を鳴らされ、アナタはパニックに
その言葉に、秋人の表情が一瞬
「その後、管理人さんは入室する事なく立ち去りました。その
「そんなもの、全部アンタの想像に過ぎない!何の証拠も無いじゃないか!」
秋人は怒りの
「なるほど……証拠ですか……」
軽太郎はポツリと
「犯罪者の思考というヤツは実に面白い。
軽太郎は担々麺のフタを
そこには、小さな赤い粘着物が付いていた。
「……それは!?」
「見ての通り血痕です。もし紀幸さんのものなら、閉じたフタの内側にあるのはおかしい。それでは殺された後にフタをした事になりますから……では、誰のものか」
「馬鹿な!オレは確かに確認したはず……」
伊達牧警部が、してやったりと大きく頷く。
「きっと粉末スープかペーストを入れる際に、ついちゃったんでしょう。まあ、誰にでもウッカリはあるもんです」
そう言って、軽太郎は満面の笑みを浮かべた。
************
その後、
借りた金の返済を迫られ、
殺害後の行動は、軽太郎の推理通りだった。
「それにしても、フタに血痕が付いてるって、よく分かったねー」
事務所に戻った後、リン子が感心したように言った。
「血痕……ああ、あれはハッタリだよ」
「ハッタリ!?」
目を丸くするリン子。
「犯人が秋人だというのはすぐに分かった。だが
「でも実際に血痕はあったよー」
「これを使ったのさ」
軽太郎はポケットから何やら取り出した。
「……それって!?」
「そ。私が今朝カップ麺に入れ
リン子の目が大きく見開く。
「……やっぱり、カップ麺の神サマだ……」
ポツリと呟くが、軽太郎には聴こえていなかった。
当の神サマは、出来上がったばかりのカップ麺に集中していたからだ。
「む〜ん。パーフェクっ……!」
相変わらず、最後の「ト」は言わない。
なぜって?
その方が、カッコいいからに決まってる!
カップ麺は死の香り マサユキ・K @gfqyp999
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