第62話 合流




「じゃねー」

「……」


 ……。

 どうやら話は終わったらしい。

 ライセンスカードを持つ手を下ろしたシーラの口から小さく息がこぼれた。


「まあまあ、ざっとこんな感じかな」

「今のがコール?」

「そ」


 なるほど。

 端的に言って、コールというのは電話みたいなもののことだった。


 というか、ほとんど電話だった。


(いや、すごいなライセンスカード)


 そんな機能があるなんて全然知らなかったが。

 こんなことなら説明書をちゃんと読んでおけば良かったかもしれない。


 まあ、説明書なんてとっくのとうに捨てたんですけどね!


「それじゃあ、行こうか」

「三階だっけ?」

「だね」


 そう言いながらライセンスカードをしまうシーラ。


 と、まあ。

 こんな感じのやり取りもしつつ。

 新たな行き先が決まった俺たちは足並みを揃えて歩きだした。


「そういえばさ、どう?」

「なにが?」


 急に「どう?」なんて聞かれてもどうとも言えな、


「新品の服を着た感想」

「あ、あぁ、うん」


 服のことね。

 なんだ。


「まだ固い感じがしてちょろっと慣れないんだよなぁ」

「いいじゃん。それは服がちゃんとした新品だってことさ」

「それはそうなんだけど」


 少し苦手なんだよね。

 新品の服。


 と言っても嫌いでもないんだけどね。

 新品の服。


「……本当はこういう予定じゃなかったんだけどね」

「ん?」


 ふとシーラの落とした言葉に、どことなく切ない声色が混じっていて。

 そのことに僅かばかり驚いて、思わず隣を向く。

 視線の先では。

 シーラがいつの間にか取り出したアメ玉を口の中に入れるところだった。


「本当はね。ちょこっと挨拶して、あとは自由って感じにしたかったんだよね」

「……」

「……クラちゃんがクロハルにバトルを吹っ掛けるかなー、とは予想してたんだけどね」

「おい」


 止めろよ。

 なんで止めなかったし。


 いや、別に?

 俺は別に良いんだけどね?

 うん。


「なんで止めなかったんだ?」

「んーとね。それはただクロハルの実力が知りたかったからだね」

「なるほど」


 そりゃそうか。

 シーラたちからすれば俺たちは一応ライバルみたいなものだしな。

 俗に言う敵情視察ってヤツか。


「じゃあこの前のナンパ野郎とのバトルは今回のバトルを見るための前金ってわけか?」

「んん?」


 そうなると、今回の俺のバトルでお互いに実力を見せ合ったことになるわけだ。


 と。

 俺は勝手に思っていたわけなんだけど、


「この前? ……あー、あれか。あれは違うかな」

「えっ?」


 違うの?


「あの時のバトルはただナンパを追い返しただけだよ。それが一番手っ取り早い解決法だからね」

「へ、へぇー……」


 シーラはそう答えながら何ともない風に口の中のアメ玉を転がす。


 どうやら俺の予想とは違ったらしい。

 というか全然違った。


 さすがだぞ。

 美少女はナンパのあしらい方も心得てるんだな!


 ……俺ぁ心底恐ろしくなったぞ、おい。

 ナンパする度胸もないし、ナンパするつもりなんて全くないけどな!


「どうかした?」

「なにが?」

「変な顔してたけど」

「変な顔じゃねーから」


 いけね。

 ちょっと顔に出てたか。


 用心用心っと。


「あれ、あそこにいるのアルスじゃね?」

「どこ? ……あぁ、うん。そうみたいだね」


 三階フロアに向かうエスカレーターの先に小さく見えるアルスの姿。

 それはどうやらあっちも同じようだったみたいで、


「あんな大きく手を振らなくても見えるんだけどな」

「ほら、手を振ってあげなよ」

「わーってるよ」


 一応、こっちからも小さくてを振り返してみる。

 すると、アルスは何故か更に手を大きく振り返してきた。


 なんだろう。

 こう見てると犬が尻尾を振ってるような気がしなくもない。

 苦笑しながら俺達は三階へと向かった。




 ◆◆◆




「クロハル君!」

「おっす」


 アルスが俺を見るなり走ってきたので軽く手を上げる。

 なんてことをしたら、アルスは俺の手にパチリとアルスの手を合わせてきた。


 いや、別に、ハイタッチしようって意味じゃなかったんだけど。

 まあいいか。


「久しぶりだね!」

「いや、二、三時間くらい別行動しただけだが!?」

「そうだね。久しぶりだね」

「おのれ、キサマもかシーラ」


 どうしよう。

 周りに味方がいない。

 こうなればシーラの手からお菓子をぶん取って食べてしまおうか。

 などと考えていた俺の肩に、不意にポンと手が乗った。


「クロハル」

「ルード」


 そうだ!

 こいつがいたじゃないか。

 常識人寄りで苦労人のルードなら俺の味方になってくれるはず!

 でも、どこか遠い目をしてるのは一体……。


「諦めも肝心だ」

「えぇ……」


 どうしてなんだよおおおおお!

 

 味方なんて端からいなかった。

 そのことを理解した俺はガックリと肩を落としたのだった。

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『キング オブ マスターズ』 大和大和 @Papillion

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