第61話 コールって? あぁ!




 色々とゴタゴタしちまったが、俺の用事は無事に終了した。

 けど、俺もシーラも特に買いたい物もないし、やりたいこともない。

 じゃあ、みんなを探そう。


 ということになったわけだけど。


(流石にこんだけ広いと人探しも大変だよなぁ)


 少しだけ目を上げて見れば、そこにあるのは見た目通りに広いショッピングモールと店の数々。

 パッと見だけど三階くらいはありそうだ。


(いや、でけえなオイ!)


 あれれ、おっかしいな。

 俺の記憶が正しければシトラシティって田舎に近い街とか何とかって聞いたはずなんだが。

 改めて見回してもそんな雰囲気はミリも感じない。

 どういうことやねん。


「どうかしたの?」

「え? あ、何が?」

「アホっぽい顔になってたよ」

「誰がアホじゃい!」


 失敬な!

 確かにちょっと口は空いてたかもしれんけど、そこまで言う必要はないやんけ。


 ……けど、俺ってもしかしてアホっぽい顔してる?

 そ、そんなはずは、


「ほら、早く行こうよ」

「お、おう」


 あれ、何だろう。

 急に眩暈めまいが。

 は、吐き気も……は流石にないな、うん。


 とりあえず、俺の顔はアホじゃない。

 そう気を取り直した俺はふと気になったことがあったのでシーラに聞いてみることにした。


「そういえばさ」

「うん」

「他のみんなをどうやって探すんだ?」


 ショッピングモールというだけあってここはかなりの広さがある。

 流石に店を一つ一つ回ってたら時間が掛かり過ぎる、と思って聞いてみたのだが。


「んー、ん?」


 シーラにしては珍しく、中々に食べ終わらないグミ。

 それを口にしながらコテン、とシーラが首を傾げた。


「探すも何も『コール』すればすぐじゃん」

「……何それ」

「えっ」

「えっ?」


 思わず無言になる俺とシーラ。


(『コール』って何よ?)


 いかん。

 『偽作カード』といい、『オーバーブレイク』といい。

 知らないことが多過ぎる。

 このままだと俺が常識を欠片も知らない変態みたいになっちまう。

 それよか何も知らないのを良いことにとんでもないことをやらかしたりするかもしれん。


(もしかして俺、お勉強が必要なのか?)


 嫌じゃ嫌じゃ嫌じゃ!

 勉強なんてしとうない!


 なーんて。

 駄々をこねることができたらどんだけ幸せだっただろうか。


(……真面目にこの世界のこと。よく調べないとダメそうだな)


 友達はいるけども、俺はこの世界とは違う世界から来た人間だ。


 親も親戚もいないこの世界で。


 いざとなった時、何かあった時は俺が自分独りでどうにかしなければいけないわけだ。


 だからこそ。

 この世界でちゃんと生きるために、俺はもっとしっかりとしなきゃいけない。

 ただそれだけのことだ。

 とりあえず、


(わかんないことはグーゴル先生ならぬシーラ先生に聞けばいいか)


 シーラいつもありがとう。


 本人には絶っ対に言わないけど。

 そんな感謝の心を胸に、俺はボソッと口を開いた。




「コールって何?」




 ☆☆☆




「うーん……」


 今、僕の目の前にあるのは大きな大きな案内板。

 でかでかとしたスペースに色々と書かれた小さな文字。

 それを見ながら僕はウンウンと唸っていた。


「ないなぁ」


 グルグルとここ『ショッピングモール・ミオン』の中を回ってみたけど、僕の探してるお店はなかった。

 だから、案内板を見て探そうと思ったんだけどやっぱり見つからない。


(もしかして、ここにはないのかな?)


 ジッ、と目を凝らして。

 グッ、と首を傾ける。

 それでもやっぱり見つからない。


「ないんだぁ……」


 僕の口からファッと大きな溜め息が飛び出す。

 丁度その時だった。


「誰かと思ったらアルスか」

「えっ? あ、ルード君!」


 急に声を掛けられたのでバッと後ろを振り向く。

 そこにいたのは右手から袋を何個もぶら下げたルード君だった。


「何をしてたんだ?」

「えっとね、カードショップあるかなって探してたんだけど全然見つからなくて……」

「なるほど」


 そう言ってルード君が案内板に顔を近づけて目を細くする。

 だけど、


「……確かに。ないな」

「でしょ?」


 ジッと案内板を見るルード君の口からムムムッと声がこぼれる。

 そんな中、


「っ!」

「んお?」


 ピロロン、ロロピリ。

 と、いきなりルード君のポケットから変な音が聞こえてきた。

 僕はビックリして肩がビクンと跳ねる。


「悪い、少し出る」

「え、あ、うん?」


 すごくビックリした僕とは違って。

 ルード君は少しだけ驚いたかと思うと、ポケットから一枚のカード。

 じゃなくって、ライセンスカードを出してそれをポンと指で叩いた。


 すると、ライセンスカードの表面に薄くて広いモニターのようなものが出てきた。

 そして、


『やっほー』

「……随分と唐突だな」

「えぇ!? 何でシーラさんの声が聞こえるの!?」


 思わず、叫んだ僕。

 だけど、周りの人達の目が一気に僕の方を向いたのが怖くてすぐに縮こまる。

 そんな姿が見えたのかもしれない。


 ルード君のライセンスカードの向こうからクスッと笑うシーラさんの声が聞こえた。


『アルスも一緒だったんだね』

「今さっき合流したばかりだがな」

『そっか』

「そっちの買い物は終わったのか?」

『何とかね』


(ほへー)


 なんかよくわからないけど、シーラさんとルード君が楽しそうに話してる。

 それにしても、


(ライセンスカードって友達とお話もできるんだ)


 ルード君の横顔を見ながらそんなことを思う。


『そういえば、ルードたちは今どこにいるの?』

「俺たちか? 今は……三階か。三階の中央エリアだな」

『三階の中央ね。これからそっちに行くからちょっと待ってて』

「わかった」

『じゃねー』

「あぁ」


 プッ、と小さな音と一緒にカードのモニターが消える。

 そして。

 僕が見ている前でライセンスカードをポケットの中に戻したルード君はふう、と溜め息を吐いた。


「どうやらシーラたちがこっちに来るらしい」

「そうなんだ! じゃあ僕も一緒に待ってた方がいい?」

「だな。そうしてくれるとシーラも助かるだろうな」

「わかった!」


 じゃあ、待ってよう。


 あ、そうだ。

 せっかくだから。

 さっき友達と話してた方法も教えてもらおう。

 そう思って僕はポケットからライセンスカードを取り出した。


「ねえねえ。ルード君」

「なんだ?」

「さっきみたいに友達とお話するやり方を教えて欲しいなー、って」

「さっきみたいに、というのは『コール』のことか?」

「うん!」

「いいぞ。『コール』のやり方は……」


 あれこれとライセンスカードを触りながら、ルード君から『コール』のやり方を教えてもらう。


(ライセンスカードって色々できるんだ)


 まだ少しわからない……。

 ちょっと頭が痛くなりそうだけど、でも、友達とお話できるようにはなりたい。

 

「どうだ。わかったか?」

「うーん、と……ゴメンね。もう一回教えて欲しいな」

「ならもう少しゆっくりと説明するぞ」

「うん!」


 ちゃんと覚えたらクロハル君にやってみよう。

 ルード君に教えてもらいながら、僕はそんなことを思ったのだった。




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