=Prologue

九瀬明澄

Night Walker.

都内、某所。


人が沢山歩き賑わう繁華街。その裏手に俺は居た。

組織からの通達で、裏の取引があるとのこと。それらを調査せよ。文面はそれだけだった。

繁華街の賑やかさに隠れ、何かをしようとしている。俺の勘と”理論式”は、ほぼ当たる。


闇夜に蔓延る悪事を、影で制裁する。

全ては、この街の平和のために。


そうして張り込みを続けて2時間。計算上ではもう少しで…。


「…来た」


黒いスーツ、サングラス、そして大事そうに抱えているアタッシュケース。映画とほぼ同じゃないか。某スパイ物とかそういう類の。そうしてもう一人、辺りの影から男が出てきた。同じような服装だ。流行りじゃないんだからさ。


仕事に戻ろう。取引の対象を確認した俺は、即座に近づき見やすい位置へ。何を渡し何を貰うのか、それを確認しなければならない。その”何か”が平和を脅かすようなものであるならば、すぐさま取り押さえて制裁を加えなければならない。


目を凝らし見つめる。無骨なアタッシュケースが相手の手に渡り、相手が取り出したのは茶封筒のような物。怪しい、とても怪しい。見るからに分厚く、間違いなくあれは平和を脅かすだろう。そうしてその茶封筒は、アタッシュケースを渡した男の手へと渡った。


「そこまでだ、黒服のお兄さん達」

「なっ…!?」


即座に声をかけ、じりじり近づく。間合いは約3メートル。逃げる体制を取られても、十分仕留められる距離だ。だが、黒服は一向に逃げようとしない。なんかむしろ震えてる気が。


「こんばんは。こんな深夜に繁華街の裏で…何やら如何わしい取引じゃないか」

「ち…違う。これは…」


見据えながら、ジリジリと近づく。2メーター。余裕の距離だ。もはや逃しはしない。

黒服の二人は後ずさりしながらも少々震えている。というか足がもう機能しなくなりつつあるぞ。大丈夫かこの人達。


「…悪いね。この街の平和を乱すような行いは…!」

距離を詰める。刹那。俺は二人の持ち物を奪い、背後に立つ。黒服の二人はというと、あまりに現実味がない動きとその恐怖に怯えたのか、転んで土下座している。


「す、すすすみませんでした!!」

「どうしても!どうしても行きたくて!!」


…ん?


ふと気になって俺はチラッと茶封筒の中を覗いた。そこには、アニメで見るアイドルのイベント観覧応募チケットの束。そしてアタッシュケースの中には…大量のグッズ類。

無言の時間、約10秒。思考を張り巡らせ、理論式を解いていく。


「………」


すぐさま二人にかけより、土下座を辞めさせ奪ったブツを返してあげる。あと、電話番号渡して。そこのプロダクションの関係者、うちの人間とつながりがあるから、当選確率上がるかもしれないからと詫びを入れて再び謝る。黒服の二人も悪いことをしていたと意識があるのか、いえいえそんなと言って即座に帰っていった。


闇夜に蔓延る悪事を、影で制裁する。

全ては、この街の平和のために。


これ、俺のモットーじゃなくて、組織のモットーなんだけど。


「……」

「こちらジェネラル。アズールどうした?応答したまえ。アズール?アズサくーん?」


「後でそっちにもしかしたら電話が入るかもしれない。今大人気のアイドルの事でだ。絶対に当選させてあげるんだ、もう一度言う。絶対に!当選させてあげるんだ!!」

そう叫んで俺は電話を切った。



「…何が闇夜に蔓延る悪事を影で制裁する?この街の平和のためにだ」


全然、違うだろが!!



…どうやらまだまだ、理論式の構築には穴があるようだった。

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