メイドの咲かす花が散る時を
土蛇 尚
もう言えないのなら私達が言う。
私達は戦わねばならない。主人の無念を晴らす為。失われた名誉を取り戻す為。仕えた家紋に私達は殉じる。
領地、回廊、正統な権限に拠って、我が主人が所有した多くの財産は不当に奪われ、私達の主人は名と共にその首を落とされた。故に戦わねばならない。
残された物は多くない。
使える物は全て使う。仕えた主人が愛した庭園。その美しき花達を引き抜き薙ぎ払い、そして毒草を育てる。遠い国から取り寄せた青い花を咲かす種。猛毒を持つ美しき花。
使える者は全て使う。主人に仕えた馬達。静かに華麗に馬車を引くための馬達。彼らを軍馬へと作り替える。
私達は良い。だが馬達を道連れにしていいものか、そう考えもした。しかし馬達はまるで最初から戦う為の蹄鉄をつけていたかの様に私達について来てくれた。同じ主人に仕えた者達なのだろう。
主人が残した何枚かの絵画、何冊かの本達。それらを信頼出来る人間に託した。
全ての準備は終わった。
メイド服に袖を通し、髪を結び、長いスカートに帯刀する。毒の滴る武具を持ち、私達は馬に跨り屋敷を旅立った。もう帰ってくる事はない。
「誠に勝手ながらしばし暇をいただきます。行って参ります。ご主人様」
終わり。
メイドの咲かす花が散る時を 土蛇 尚 @tutihebi_nao
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