最終話

 犯人はんにん現場げんばもどる。

 テレビでいた台詞セリフ

 あの戦利品せんりひんがもしだれかにぬすまれたのなら、っていれば犯人はんにんかならあらわれる。

 そんな確信かくしんめいたかんがえから、基地きち見下みおろせる大樹たいじゅのぼって、犯人はんにんせした。


 あたりが茜色あかねいろつつまれ、半袖はんそで一枚いちまいではすこ肌寒はだざむくなってきた。

 むし小鳥ことりやカラスのごえしかこえない。

 ひと滅多めったはいってない、ここはチイキシンリンだ。

 博識はくしき木元きもとくんがっていた。

 森林保護しんりんほご温暖化防止おんだんかぼうしのために、計画的けいかくてき管理かんりしている場所ばしょなんだって。


 退屈たいくつしたぼくが、もうあきらめてかえろうかとかんがはじめた、そのとき

 侵入者しんにゅうしゃだ!

 ついあらわれた!

 基地きち入口いりぐちで、警戒けいかいした様子ようすでキョロキョロしている。

 それから二本足にほんあしでヒョコ、ヒョコとはいっていくくろ姿すがた


 それは一羽いちわのカラスだった。


「まさか、あれが犯人はんにん?」

 ぼくは基地きち侵入しんにゅうしたカラスがてくるのを、いきころしてジッとった。

 たった数分間すうふんかんながかんじる。


 するとカラスは、ぼくがテーブルのうえにこれよがしにいておいた、あのいし緑色みどりいろひかるフィギュアをくわえててきたんだ!

 犯人はんにんはコイツだ!

「コラーッ!」

 さけびながら樹上じゅじょうからりる。

 あわてたカラスはフィギュアをとし、夕日ゆうひ方角ほうがくんでく。

 のがすまいと、ぼくも必死ひっしいかけた。


 かったさきは、あの河川敷かせんじき

 山下一味やましたいちみ遭遇そうぐうするかもれない。

 そんなことをかんがえる余裕よゆうはなかった。

 かたいきをしながら、カラスがりた石河原いしがわらいたとき、ぼくはその事実じじつおもして背筋せすじこおった。

 だけど山下一味やましたいちみ姿すがたはない。

 もうれるので、かえったみたい。


「こっちかな?」

 カラスの姿すがたさがして、れい洞窟どうくつまえ辿たどいた。

 入口いりぐちふさがれている。

 山下一味やましたいちみ再封鎖さいふうさしたんだろう。

 そのいたうえほうわずかな隙間すきま出来できていて、そこにカラスのくろ羽根はね一枚いちまいのこされていた。


 いえ懐中電灯かいちゅうでんとうさがすと、三度みたび洞窟どうくつへ。

 そういえば坂神さかがみくんがっていた。

 洞窟どうくつ天井てんじょうに、くろかげがいたと!

 入口いりぐちいたはずすと、懐中電灯かいちゅうでんとううえほうらす。

 そこは岩棚いわだなになっていて、数十羽すうじゅっぱものカラスがあつまっていた!


「うわっ!」

 おもわずさけんじゃった。

 カラスがおそかってたからだ!

 手元てもと懐中電灯かいちゅうでんとううばろうと、数羽すうわのカラスがホバリングをかえし、ぼくのうでく。

「くそっ!」

 ぼくもけじと、まとわりつくカラスをはたき、ブンブンうでまわして、必死ひっしたたかった。

かえせよ、あれはぼくたちのだぞっ!」

 言葉ことばつうじるはずもないけど、ぼくはカラスにって怒鳴どなり、威嚇いかくした。


 カラスの攻撃こうげきえ、岩棚いわだなによじのぼる。

 くつろいでいた数羽すうわのカラスがあわててる。

 おくのこされた白緑しろみどりいし

 かおまわりや頭上ずじょう背中せなかうであし

 周囲しゅういのカラスをはらけながら、うばかえした戦利品せんりひんいていえまでかえった。


 体中からだじゅうきずだらけのぼくをて、おかあさんは最初さいしょなにがあったのと心配しんぱいした。

 それから、こっぴどくしかられちゃった。

 いたはなしでは、坂神さかがみくんもきずだらけで帰宅きたくしたので、両親りょうしんしばら外出がいしゅつ禁止きんしされてしまったそうだ。


 こうして、ぼくたちのながかったたたかいのまくじた。




 あのぼくたちがった戦利品せんりひんは、いまでも大切たいせつかざってある。

 仲良なかよ三人組さんにんぐみあかしであり、勲章くんしょうであり、宝物たからものだから。


 これをたび昨日きのうのことのようにおもすんだ。

 青春時代せいしゅんじだいの、ちいさな英雄譚えいゆうたんをね。


   おしまい

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ぼくたちの長かった戦いの日 武藤勇城 @k-d-k-w-yoro

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