第5話 ふんわり甘い

 桜の季節になりました。

 学校の卒業祝いに、この日は浅草のミルクホールにやってきていました。

 この店の看板メニュー、珈琲コーヒー風味のカステラに羊羹とクリームをはさんだシベリアは、いちの大好物です。


「なんで魔女さんが死ななかったかって?」

「さぁ、僕にもわからないなぁ」


 三角形のスイーツを口に運びながら、壱は首をかしげ、それからにっこり。


「愛の力ってやつかもね」


 珈琲を飲む手を止めて、それはなに? と魔女は訊き返します。


「魔女さんにも、わからないことがあるんだね」


 壱は知っているというのでしょうか。

 心外です、この子よりもずっと長生きなのに。

 むっと尖らせた唇を、魔女がひらいたときでした。

 フォークに刺さった珈琲味のスポンジが、口のなかへ押し込まれます。


 びっくりしつつも、おとなしくシベリアを食べる魔女を、壱は頬杖をついて見つめながら、


「それはね、クリームよりも甘いものだよ」


 と、蕩けるようにわらったのでした。

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袴をはいた魔女とビードロを吹く青年 はーこ @haco0630

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